フリーランスのアンテナ

September 01 2016

勇気をもって「夢」をスピーチ。児童養護施設からの進学を支える"カナエール"

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「勇気」とか「夢」とかいう言葉が、こんなに現実的な重みをもって日本の若者に語られるのを、今までに聞いたことがあっただろうか、と思いました。以前「未来へ紡ぐストーリー」の記事でもご紹介したブリッジフォースマイルが運営する「カナエール 夢スピーチコンテスト東京」でのことです。

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カナエールは、児童養護施設を退所して専門学校や大学等へ進学する子どもたちのための奨学金支援プログラム。毎年、「カナエール夢スピーチコンテスト」が行われ、6年目の今年も6〜7月に東京・横浜・福岡の3箇所で開催されました。今回は、東京会場の様子を中心に、このプログラムについてお届けします。

コンテストが開催されたのは、2016年6月25日。満席の会場にむけてステージから自分の夢を語った10名は、高校3年生と大学・専門学校の1年生です。みな理由があって親と暮らせずに、児童養護施設で育った子ども達でした。

18歳で児童養護施設を出て、自立していく現況の苦しさ

現在、日本では、親と暮らすことができない2〜18歳の子どもの多くが児童養護施設で暮らし、その数は3万人にものぼります。しかし、法律で定める「児童」は18歳未満。子どもたちは、18歳を迎えて高校を卒業したら、施設を出なければなりません。

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児童養護施設を巣立つ子どもたちの進学率は、全国平均の3分の1以下の低さ、中退率は全国平均の3倍の高さです。学費の奨学金を受けても、生活費を稼ぐため、アルバイトと学業とを両立させるハードな暮らしをするケースも多いと言います。

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開会にあたって、現状や支援内容を伝える、カナエールの運営団体ブリッジフォースマイル代表の林恵子さん。

子どもの貧困や教育格差、そして、そこから生じる負の連鎖は、今や深刻な日本の社会課題です。政府も、今年5月27日には、児童福祉法の改正法案を成立させました。これに伴い、親と暮らせない子ども達への支援にも改良の兆しが見え、「18 歳以上の者に対する支援の継続」も平成29年4月1日に施行されます。その日が確かに訪れることが、待たれるところです。

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夢を叶えるための「資金」と「意欲」をサポート

カナエールは、この状況にも負けずに進学していく子どもたちに、月30,000円の奨学金を支援します。条件は、スピーチコンテストの出場と大学・専門学校等の進学先の卒業。このお金は、その分のアルバイトをしなくてすむ「時間」のプレゼントでもあるそうです。

そして、このスピーチコンテストは、「資金」だけでなく「意欲」を与えるしくみにもなっています。出場に至るまで、研修を受けたボランティアからのサポートも受け、これまで支えてきてくれた人への気づきや感謝についても確認し、夢への思いを養うのです。自分とむきあうことを「顔の見える関係」で共にしてくれる人とのつながりも、夢への意欲を支える力強いギフトのひとつだろうと、ステージを見ながら思いました。

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出場への勇気。社会人ボランティアと120日間かけてステージへ

この日、語られた夢はさまざまでした。保育士、理学療法士、作業療法士、通訳、看護師、特別支援学校の教員、エステティシャン、ウエディングプランナー、教育に携わるNGO職員......。

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当日のステージでは、スピーチ前に、紹介映像が流されます。

出場者は、書類選考と面接で選ばれ、「エンパワメンバー」と呼ばれる3名の社会人ボランティアとチームになって、120日間でステージをめざしてきたそうです。合宿をしたり、原稿を作ったり、夢みる仕事をしている人にインタビューをしたり、話し方のトレーニングをしたりして、当日を迎えました。

出場者の1人ゆっちぃさんは、小学校時代の体験などから、日韓の架け橋となる通訳になりたいと心に決め、大学に通っています。彼女も、高校時代には、お金がたりず、進学を諦めたことがあったそうです。

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3人の「エンパワーメンバー」が見守る中、ステージで堂々とスピーチをする、ゆっちぃさん。

スピーチでは、「それを、全力でサポートしてくれたのが施設の職員さん」と語り、普段はなかなか言えない感謝の言葉を述べました。「私は、もうくじけません。この夢は、私ひとりの夢ではないから。ここまで応援してくれたすべての方に感謝の気持ちを忘れず、夢への道を一歩ずつ歩んでいきたいと思います」

作業療法士をめざすトミーさんは、目標のある日常のすばらしさや、自分の存在意義が認められる職業に出会えることの幸福感を語りました。「生活の中で経験してきたことすべてが、この仕事であれば人のために活かせる。このことを知ったとき、私は興奮していました。なぜなら、自分の存在そのものを肯定する職業に出会えた気がしたのですから」

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仕事をしながら専門学校に通うトミーさん。

特別企画で、スペシャルゲストも登場!

施設で育つことになった理由や、日々の暮らし、夢を見出した経緯は一人ひとり違います。

スピーチでは、親からの虐待や親との死別などを乗り越えての思いも、語られました。ひとりひとりが、それらに向かい合い、夢への決意を固め、確かな言葉にして、何百人もの聴衆の前で大きな声で語る。この過程が彼らの心に夢への「意欲」を育て、スピーチのチケット代やプログラムへの寄付が彼らの奨学金になり、施設にいる子どもたちの希望にもなるというのが、このプログラムのしくみです。

その姿は胸を打つもので、大きな「勇気」をもってステージに立つまでの日々をすごしたことも、ひしひしと伝わってくるようでした。

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この日は、特別企画として、児童養護施設で育った経験をもつミュージシャン・YANO BROTHERSが、スペシャルゲストとして登場。自らの経験を振り返って、出場者の勇気を称えるシーンもありました。

YANO BROTHERSは、ガーナ人の母と日本人の父をもつ実際の兄弟3人で組まれたヴォーカルユニットで、この日は、マイケルさんとデビットさんの二人が、楽曲と共に自らの思いを語るトークを交え、出場者へのエールを贈りました。

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出場者への応援のメッセージも込めて、『ONE STEP(ワン・ステップ)』『夢』の2曲が届けられました。

子どもたちの感謝と決意に満ちたスピーチに、会場も感謝

コンテストの最後には、審査員と会場からの投票による賞も発表され、これが、出場者や、これから出場をめざす人たちの励みになっていきます。

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会場の人は、出場者へのメッセージや投票での応援もしました。

審査員は、東京都児童部会副会長の土田秀行氏(審査委員長)、映画監督の豪田トモ氏、演出家・キャスティングディレクターの奈良橋陽子氏、モデル・タレントのアン ミカ氏。

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受賞者はもちろん、感謝と決意でいっぱいのスピーチはどれもすばらしかったと口々に伝えられ、審査員長・土田氏からも、「総評ではなく感想、感謝」を伝えるとして、来場者も得たものがあることが告げられました。

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今回、実際に会場でスピーチを聴いて初めて、このプログラムで語られている「夢」「意欲」「勇気」という言葉の重みを知る思いがしました。

実の親と暮らすことができない子どもたちはたくさんいるし、いつでも誰でもそうなる可能性があることなのに、一般には知られていないことや、助けが足りていない部分も多いようです。興味のある方は、ぜひチェックしてみてください。

※カナエールを支援するには・・・

スピーチコンテストによる奨学金支給のプロジェクトを続けるために、入場券の購入や、奨学金継続サポートという月額2,000円からの支援システムがあるそうです。また、エンパワメンバーとして、実際に彼らと顔を合わせて支える方法も。詳しくは、応援のカタチをご覧ください。

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