未来へ紡ぐストーリー

March 07 2017

障がい者理解を目的としたクライミングスクール・イベントを主催│NPO法人モンキーマジック

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誰かの大切な想いを知ること。
そして、その想いを未来へ紡いでいくこと。
それは、今を生きる私たちひとりひとりの役割なのかもしれません。

「未来へ紡ぐストーリー」では、誰かのために、社会のために、地球のために活動するみなさんをご紹介していきます。第23回目はNPO法人モンキーマジック代表小林幸一郎さんにお話を聞きました。

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NPO法人モンキーマジックの活動内容を教えてください。

「見えない壁だって、越えられる。」をコンセプトに、フリークライミングを通して、視覚障がい者をはじめとする人々の可能性を大きく広げることを目的とし、活動しています。具体的にはインドアやアウトドアでのクライミングスクールとインドアでの交流型クライミングイベントを開講し、障がいを持った方はもちろん、晴眼者(健常者)の方々も参加する機会をつくり、一緒に楽しみ、視覚障がい者やその他の障がいのある参加者へのさらなる理解も目的としています。

視覚障がい(見え方)について教えてください。

一般的に視覚障がいは、全盲と弱視(Low Vision)の二つに分けられます。僕も自らが視覚障がい者となるまでは「視覚障がい者は真っ暗闇の世界で、白い杖をつくか盲導犬を連れて歩いている。」といったちょっと乱暴な知識しかありませんでした。しかし実際は、視野が狭く中心のみ見える、視覚の中心部が欠ける、見える部分が不規則、白く濁って見える、など、さまざまな見え方の中で暮らす視覚障がい者が、日本だけで100万人以上いると言われています。

なぜ「クライミング」を通した活動をはじめたのでしょうか。

僕自身が、自他ともに認めるクライミング好きなのです。16歳の時にクライミングと出会い、幼少のころから運動やスポーツが苦手だった僕にとって、これなら勝ち負けがないし、誰かの足を引っ張ることも体格差も関係なくできると思い、その後、大学、社会人生活の中でもクライミングの魅力に引き込まれていきました。

そして、28歳の時に「網膜色素変性症」と診断され「この病気は進行性なので将来は失明します」と告げられました。この頃、不安を抱えながらいくつもの病院をまわったのですが、言われることは同じ。次第に考え方が後ろ向きになり、「僕はこれから何ができなくなるんだろう?どうして生きていけばいいのか」と「できなくなること探し」をずっとしていました。

そんな時、当時まだ日本では新しいものだったロービジョンクリニックがある病院を紹介され、行ってみたところ、残存視力をどう活かして、どう社会に適応して生きていくかという、障がいのある人の生き方を支援する先生に出会うことができました。そして、「何が出来なくなるのか、ではなく何がしたいのか、どう生きたいのか。それがあれば、私たちも周りの人たちも社会の仕組みもあなたのことを応援できるはずですよ」と言われ、少し出口が見えたような気がしました。

また、世界七大陸の最高峰を完全制覇した全盲のクライマー、エリック・ヴァイエンマイヤーさんに会い、「アメリカではたくさんの障がい者がクライミングを通じて可能性や自信を感じている。まだ日本でそれがやられていないなら、それを伝えることこそが君の仕事じゃないのか」と言われたことがさらに転機になり、「視覚障がい者がクライミングを楽しむ」ことを広めるという発想に至りました。

小林さんはパラクライミングの数々の大会で優勝されているんですよね。

2011年に初めて障がい者部門が取り入れられたイタリアの世界選手権で優勝し、2014年スペイン、2016年フランスでのパラクライミング世界選手権視覚障がい男子B1クラスで2連覇しました。自分自身は競技にも出場していますが、むしろ障がいがあってもなくても一生涯楽しめるスポーツとしての大きな価値や可能性をクライミングに感じています。子どもの頃まったくスポーツに無縁だった自分が、スポーツの世界で日の丸を付けて、表彰台の一番高いところに立つなんて想像もできませんでした。

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障がい者クライマーとのコミュニケーションの方法について、コミカルなイラストで説明したポスター

クライミングをするとどんないいことがありますか?

クライミングは、自分の目標に向かい、達成感や自分の成長を実感することができ、「スタートからゴールまで自分の持つ体の能力を総動員して登っていく」というように、ルールもシンプルです。ですから、登り方も人それぞれでよいのです。運動経験の有無、老若男女、障がいの有無にかかわらず、生涯スポーツとして自分のペースで楽しんでいる方が多いスポーツです。

また、ロープやマットで安全確保がされており、視覚に障がいがあっても思いっきり体を動かすことができます。また特にロープクライミングにおいてはビレイヤー(確保者)とのパートナーシップを身に着けることもできます。自然の岩場も室内のクライミングウォールも障がい者のためにデザインされたものではなく、自分自身で登るのも降りるのも判断していきます。クライミングにはサーフィンや登山、スキー・スノーボードなどと同様に勝ち負けはなく、晴眼者と同じ課題を、同じルールで解決することができ、一緒に楽しむことができる面白さがあると思います。それから、本人も周囲の人も無理だと思っていたクライミングができたのなら、あきらめていたほかのこともできるのではないかと、気づくことのできるシンボリックなスポーツだと思います。

あとは、筋力アップや柔軟性バランスの改善などの身体的効果、どうやって登るかの作戦を立てたり、外出や自然の中に身を置くきっかけとなる健康維持、増進効果、クライミングを通じて仲間ができるといったこともよい点だと思います。

私たちモンキーマジックのスクールでも、これまでに4歳から86歳までの視覚障がい者の方々がクライミングを楽しんでくださっています。

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活動をしてうれしいことや大変なことはありますか。

仕事ですから大変なことはたくさんありますし、うまくいくことより、いかないことのほうが多いです。準備や交渉事などはもちろん、お金のことは日々頭を常に悩ませています。でも参加してくれた方々が、たくさん笑い「また来月も来ますねー」と声をかけてくれることは、月並みですがうれしいです。また障がいのあるみなさんが、「ここに来ると自分が障がい者だから苦労する日々が忘れられ、またがんばろうって思う」「上手くいかず落ちても工夫すれば登れることがわかると、こばちゃんの言う人生に重ねられるってのがよくわかるよ」などと声かけられると、本当にやっていてよかったって思います。

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月に1度月曜日に開催されているクライミングイベント「マンデーマジック」の飲み会風景(左手前が代表の小林さん)

未来に望むこと、未来へ紡いでいきたいことはありますか。

クライミングイベントでは、障がいを持っていてもそうでなくてもフォローし合いながら、共に楽しみ悔しがり応援しあうような、自然な人間関係ができています。こういった社会が当たり前になるように活動していきたいと思います。

クライミングは一日のうちに何回も失敗して落ちます。失敗して、失敗して、落ちて、落ちて、落ちて、でも努力することによって、必ず登り方が見つかって、少しずつ前に進むことができます。努力次第で必ず答えが手に入ることをクライマーは知っています。これってまさに「人生」と同じことだと思います。それぞれがそれぞれの人生をそれぞれのペースで歩いていく。そんな本来なら当たり前で自然な社会を作っていきたいです。

いま私たちにできること

そこに壁がある時にどうやったら登れるか考え、試行錯誤し、一つずつ進んでいく。代表の小林さんが言うように、クライミングはまさに人生と同じ。それぞれが協力しながら、そして楽しみながら問題を解決していく、そんな社会を築いていきたいとお話をお聞きして強く思いました。

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