「障がい者」のイメージを豊かに

April 14 2017

人工的な線引きで、支援の手からこぼれおちてしまう「はざま」の人とは?

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日本で障害者手帳を持つ人たちは、身体障害者手帳が386万4,000人、精神障害者保健福祉手帳が56万8,000人、そして知的障がいを対象とした療育手帳が62万2,000人になります(厚生労働省「平成23年生活のしづらさなどに関する調査」より)。障害者手帳の交付を受けることが「障がい者」と法的に認められるための要件の大きなひとつとなり、さまざまな福祉サービスを受けやすくなります。一方、障害者手帳制度などが決める「障がい者」の基準に該当しないけれど、「健常者」でもなく、からだのハンディキャップから生きづらさを抱える人たちが数多くいます。

そんな「障がい者」と「健常者」の『はざま』の子どもが主人公の本をご紹介します。原作は漫画家の君 影草さん、漫画は『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』などで知られ、ご自身も発達障がいをもつ漫画家の沖田×華さんです。
沖田さんの親しみやすいタッチで描かれたコミックエッセイですが、「『障がい者』ってなんだろう?」「本当に必要な支援って?」と考えさせられる本になっています。

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あらすじ

1996年生まれのヨシ君は、生まれたときから睡眠が極端に少なく、静かになるのは授乳の時だけ。医師に相談に行けば「そんなに子どもを病気にしたいの?」と心ない言葉をかけられます。行動もほかの子と違うため、発達障がいを疑い、病院で診てもらいますが「もう少し様子を見ましょう」と言われるだけで診断はおりませんでした。そのまま小学校に入学してからは、授業中に朝ご飯を食べる、勝手に教室を出ていってしまうなどの問題行動で(いずれもヨシ君なりの理由があるのですが)、君さんは学校に呼び出され「すぐに転校しろ!」と迫られてしまいます。
その後、無事に発達障がいの診断はおり、今度は知的障がいの診断を受けようとしますが、IQが規定よりも高かったため、療育手帳が取得できませんでした。君さんは、このままでは、息子は進学できず、支援も受けられず、路頭に迷う運命!?と絶望します。また、ともに頑張っていたはずの夫の浮気から離婚へ。在宅ワーカーでシングルマザー、そして「はざま」の子をもつ母親の奮闘を描きます。


知的障がい者に交付される「療育手帳」とは


知的障がい者を援助することが目的である知的障害者福祉法には、「知的障がい」の定義はありませんが、1973年に「療育手帳制度について」(厚生省発児第156号)が厚生事務次官から通知されました。
同通知において、手帳の交付対象者は「児童相談所又は知的障害者更生相談所において知的障害であると判定された者」となっています。

療育手帳の交付申請は、本人または保護者が居住地を管轄する福祉事務所長を経由して都道府県知事(指定都市市長)に行います。都道府県知事(指定都市市長)は、児童相談所(18歳未満)または知的障害者更生相談所(18歳以上)における判定結果に基づき手帳の交付を決定し、経由してきた機関から申請者に交付する、という流れになっています。
なお、「愛の手帳(東京都)」や「みどりの手帳(埼玉県さいたま市)」等のように「療育手帳」以外の名称を使う自治体もあります。

手帳がないと支援が受けられない?

知的障がいの重症度を測る基準のひとつとなるのがIQの数値です。そして、知能検査によって測定されたIQが「75以下」(70以下に規定している自治体もある。自治体によって異なるというのもおかしな話ですが......)であることが、療育手帳交付の基準のひとつとなります(そのほか、発達検査、日常生活の状況や行動観察なども含めて総合的に行います)。
ヨシ君は、IQが交付水準より高い85だったため、「知的障がい」と認められませんでした。

IQ 分類
130以上 非常に優れている
120〜129 優れている
110〜119 平均の上
90〜109 平均
80〜89 平均の下
70〜79 境界線
59以下 精神遅滞

「このままでは普通の中学にも特別支援のある中学にも拒否されて、息子はいくところがない」と泣いて訴える君さんに対して、「日本の制度では、手帳がないとできないんです......。すみません」と涙ながらに謝る福祉保健局の職員。
果たして、君さん親子、そして「はざま」の子どもの運命は......?

本当に必要な支援って? 障がい者って?

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君さんが心配していたように、生活保護受給者や生活困窮者のなかには、ヨシ君のような「はざま」の人たちが相当数いると言われています。臨床心理士や精神科医らが集まったグループ「ぼとむあっぷ研究会」が、2009年に東京・池袋でホームレス168人に対して行った調査によると、「境界線」にあたるIQ70~79の人の割合は29%にもなりました。

人工的な線引きにより、支援の手からこぼれおちてしまう「はざま」の人たち。自治体によっては独自のサポートを行っているところもありますが、国からの支援はほぼない、というのが現状です。そして、公的に「障がい者」として認められないことは、「自分の苦しみはたいしたことではない」と言われているようで孤独感が増すようにも思います。

日本は、障がい者への対策費用がほかの先進国と比較してきわめて乏しいという政策が続いており、それが「はざま」を生み出す最も大きな原因かもしれません。

見えにくい「はざま」の問題をわかりやすく示してくれた本書。多くの人に知っていただけたらと思います。

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