先月18日に総務省から7月24日を「テレワーク・デイ」にするとの発表がありました。なんのこっちゃ?と思っていたら、先の「プレミアムフライデー」同様の働き方改革の一環で、企業・団体に向け「テレワーク」導入を推奨する日にするとのこと。それも、2020年のオリンピックに向けて開催期の交通機関混雑を緩和する目的を「契機」として想定しているようです(詳しくはこちらを参照)。
ただ、「取り組み方、それであってます?」ととても気になる施策なので、今回はその問題点を考えていきたいと思います。
問題点1 ただの「年に一度の恒例行事」になりそう
政府がここで推奨している「テレワーク」は、あくまでも現状の勤務体系での「一部在宅勤務化」です。あるいは、「場所と時間を選ばない」という概念も入っているようですが、現状の日本型雇用がそもそも時間に縛られているため、雇用型「テレワーク」は時間の拘束は免れません。それは以前、フレックスタイム制の導入が推奨された際、逆にサービス残業が増加した顛末からも容易に想像がつきます。日本型雇用は「就労時間」こそが生産性の指標であり、イコール労働価値であるという神話からなかなか抜け出せないのです。
ですが、本来のリモートワークというのは「同じ場所、同じ時間に集まらないと仕事できない」という固定観念がそもそも非効率だとする立場にあると思います。これまでチームワークを繋ぐのに労力を費やしていた空間的・時間的ロスをIT技術によって解消して効率をあげるのが「リモートワーク」の基本構想ではなかったでしょうか。それを「9時〜18時まで社内・社外が一斉に働いてなんぼ」の仕組みの中に投げ込んでも、すぐに「足並み揃えないと進められないなら同じ場所にいた方がいい」と非効率になるのは関の山。ましてやこれを「始業〜10時30分の間に行う」のが今回の「テレワークの日」という施策なのです。
「トライアル」と言うよりは「年に一度のイベント」に終わる可能性が高いように思われます。
問題点2 待遇が悪くなるのではないか?
引き続き、日本型雇用の件になりますが、中小企業の雇用条件ではもともと在宅勤務への評価が低いのがとても気になります。これは日々実感していることでもありますが、やはり日本型雇用には「出勤して定刻を働き抜いてなんぼ」という固定観念があります。
今の会社に入った当初、「合間に家事とか副業とか好きなことやっていいよ。仕事の責任こなしてるならどこにいても何しててもいい。縛られるのは無駄だから」と言われたのでその社風にはとても共感したのですが、いざ雇用契約を結ぶ段になると「全日中在宅だから当面は業務委託で」と言われたのに釈然としないものを感じました。
加えて「在宅勤務=内職=通勤より労働対価が低い」と見積もられる傾向にあるのも問題だと思います。現状、旧態依然の勤務形態の中で在宅勤務制を活用する人には「通勤の人と同じ仕事をしてるのに対等に評価されない、されにくい」という問題にぶち当たる人が散見されます。そして通勤してる人に比べて「在勤=特別優遇」だから待遇に文句も言えない、もしくは言ってくれるな、という実情で泣き寝入りする人もいます。
その傾向から考えると、各企業現行の勤務体制下で「テレワーク」の導入を図る「テレワーク・デイ」の構想は理想的ではあると思います。ただ「テレワークの日」「オリンピックのため」「10時30分までの間」などの設定にしてしまったがため、「テレワーク」は特別で限定的な働き方であるという誇張になってしまっている点が気になります。
オリンピックを契機に波及していくとしても、スタートで「特殊扱い」されると古い体制の中小企業では最初から待遇が低く見積もられるのではないかという懸念があります。
問題点3 テレワークにフリーランスが含まれている
今回の「テレワークの日」は主に企業・団体に向けた取り組みなのですが、原点となる政府の「テレワーク推奨方針」には雇用型のテレワークと別に「自営型」というカテゴリーが設けられています。
◆自営型...個人事業者・小規模事業者等が行うテレワーク・SOHO
主に専業性が高い仕事を行い、
独立自営の度合いが高いもの・内職副業型勤務
主に他のものが代わって行うことが容易な仕事を行い
独立自営の度合いが薄いもの
とあります。......うん、これフリーランスとかクラウドソーシングのことじゃないの?と思うのですが、この働き方を「テレワーク推奨」と同じ括りにするのは少々雑な気がしませんか。その前に、現状クラウドソーシングで安心して働ける状態になっているのでしょうか? そのための施策を何かしていくのでしょうか?
そもそも自営型就労の推進については、こんな「国民運動」のような自主性に頼る方向性ではなく、まず仕組み作りや法の整備に向けられるべきだと思います。今はまだ「テレワーク推奨」の枠に形だけ括られただけで、実は改善もされていないのにただ「政府公認」イメージだけが先行しているのが現状です。ちゃんと別の問題として違うアプローチから推奨すべき問題と考えます。
まとめ
最近「リモートワーク」と「テレワーク」の言葉の使われ方に明確な違いが出てきたなと感じています。以前もこちらのコラムで書きましたが、本来は同義の言葉です。しかし、その目指すところは「テレワーク=従来の就労形態にとらわれない柔軟な働き方」という包括的な意義付けによりゴールが曖昧になり、「リモートワーク=IT技術を駆使して効率化と生産性向上を目指す働き方」という明確なミッションとは徐々にかけ離れてきているように感じます。その原因をたどって行った結果、政府の「働き方改革」が「テレワーク」を推奨し始めたことに発端があるのでは?と今回の考察に至りました。
ですが、「テレワークの日」の設定で恒例化することで形から入る、という政府の意図もなんとなく汲み取ることができます。国が導入障壁を下げて契機だけを与えてくれて、残りは個々の職場環境の改革なので現場の人間が意識的に社内風土を変えていくしかない、という側面もあると思います。何より、テレワークは正規雇用の現場から広がる方がより適正な待遇を望めると実感しています。
私ごとではありますが、現在改めて雇用契約を結ぶにあたり勤務形態をどのようにするのか、基本通勤にして部分リモートにするのか、それともその逆でリモート主体にするのかという提案・交渉をしています。もしフリーランスの立場のままでいたら、果たしてここまで提案できたかどうか...。国から授かった契機をも利用して(笑)少しずつ職場の意識改革をしていけたらいいなと尽力しています!