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August 09 2017

起業エコシステム体験を通じて触れたフィンランドの起業文化

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ここ数年の間に日本で有名になったスタートアップイベント「SLUSH」をはじめとするフィンランドの起業文化が、世界中から注目を浴びています。私自身もフリーランスという立場で開業した経験も踏まえ、今回はフィンランドの起業についてご紹介します。

国家政策としての研究開発投資

フィンランドは30年ほど前から国家政策として人材育成に力を入れてきました。人口が少ないため国民一人ひとりの教育の質を高め、多様な産業を育成することを目的とした教育制度の中に研究開発への投資があります。特に公的機関への投融資に積極的で、主にTekes(フィンランド技術庁)が企業と大学・研究機関との研究開発に力を入れています。というのもフィンランドの教育授業料が無料なため*1、研究開発には援助(投資)が必要だからです。実際私が参加している地元大学のプロジェクトも、スポンサー集めから始まりこのTekesから投融資をもらって、産学共同のプロジェクトを進めています。

*1 : EUやEEA圏外の留学生で英語のプログラムを受講する場合は有料

ノキア衰退は大きなチャンスだった

こうした国家支援策に加え、ノキアの衰退により起業家を育成する環境がより整備されてきました。ノキアを解雇された従業員がスタートアップなどを立ち上げる際にノキアが資金を出資するプログラムなどが構築されました。これにより各方面に分散したスキルの高いノキア社員が起業を始め、それ以前からあったスタートアップイベント「SLUSH」に拍車がかかりました。

ノキアの衰退についてフィンランド政府は「倒産しかかっている組織を再建するよりは解体を後押しして、新たな雇用や市場を開拓したい」という方針がありました。

およそ1万人が解雇されたと言われているノキアの衰退。数年経った現在でもおよそ10%の失業率です。こうした状況から、起業に対する教育や補助が手厚いため起業しようという人が増えています。国内マーケットが小さいのではじめから国際マーケットを視野に入れたビジネスを起業する人が特に増加。若い世代を含めたフィンランド国内の起業家は、2017年7月現在およそ20万人。そのうち外国人はおよそ8千人です。

誰でも簡単に起業できるシステム

その8千人の一人である私が移住したのは、2013年。国全体の景気がかなり不況なときでありましたが、もともと個人事業として開業することを考えていたので、まず起業にあたっては起業家向けの相談センターへ行きました。起業に必要なこと、ビジネスプランの描き方、納税、マーケット開拓などさまざまな分野の相談に乗ってくれます。またその分野のプロやメンターなどがネットワーキングを含めたセミナーなどを開催してくれるので、直接質問したり同じ志を持った参加者たちとつながることができます。

全くゼロではなかった開業知識も、移住すればビジネス商習慣などの違いからゼロスタートに近く、特に納税に関してはいろいろ戸惑うことが多かったです。しかし相談サービスはすべて無料で事前に予約するだけ。私のような外国人でフィンランド語のコミュニケーションがおぼつかない時は、書類をはじめ英語で対応してくれるので助かりました。

またフィンランドには起業家への補助金制度(Starttiraha)があります。各自治体から起業する会社や個人へ、補助金が6ヶ月間にわたって支給されるものです。各自治体でその補助金の予算が確保されていますが、不況である現在、補助金が確保できない自治体もあります。実際私が住んでいる自治体も数年前までは予算がなかったために、起業を1年遅らせました。

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1989年設立の「The Finnish Enterprise Agencies」。主に各都市に支社を持ち、起業に関する情報発信や関連機関とのネットワークを構築。写真はこの機関が発行している2017年の起業ガイドブックです。Photo by Uusyrityskeskus.fi

お互いの領域を超えた支援

先述の起業家セミナーで出会ったメンターは「小国家だから何か画期的なことをして世界中の注目を集めないと生き残っていけない。そのために僕たちは自分たちが持っている知識や経験・ノウハウを共有して起業し、競争ではなくみんな一緒に新しいビジネス・市場を作っていかなければならないんだ」と話していました。そのセミナーでは自分の専門外のビジネスにアドバイスを行う、というワークショップがあり、私はヘルステックを立ち上げる若者へ日本の市場や高齢化を背景に助言をしました。もともと立場や年齢、組織と個人、上司と部下などの隔たりがないフィンランドの文化だからこそ、こうした環境が自然と出来上がり、資金や能力などの大きな障害もなく起業へと進んでいくのだと感じました。

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起業家セミナーではグループになってお互いのビジネスプランを考えたり、助言をしたりするなど、さまざまな人たちの意見を聞きながら起業について考えます。Photo by Yrittajyysyliopisto.fi

とはいえ、フィンランドの経済が回復したわけでもなく、また起業やスタートアップに懐疑的な人もまだいます。しかし、限られた資源の中でどう生き残っていくのかを考えて、まずは自分の能力を高める。そして助けを求めている人へ手を差しのべる、または助けを求める。そこからコミュニティ形成や連携がはじまり、必要に応じて教育や補助などを受けて起業につなげていく。こうしたフィンランドの起業文化であるため、私のような外国人でもその起業エコシステムの中に入りやすく、自身の能力をより高めてビジネスネットワークを形成しやすい環境にあると思います。

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