その他

July 22 2009

Vol.14 事務代行会社経営 五味渕のり子さん

このエントリーをはてなブックマークに追加

Profile

立教大学文学部史学科卒業後、新聞社、ITベンチャー企業勤務を経て、フリーライターへ。その後、業務委託で営業コンサルタントとして研修、セミナーの講師を務めるが、妊娠を機に専業主婦に。2005年2月に、小規模法人専門の事務代行会社「有限会社YPP」を設立。著書に『あなたに伝えたい「営業」という仕事』がある。

五味渕さんのブログ
一人雇うほどではない事務ならYPPへ

待望の妊娠・出産後、まさかの「育児うつ」の経験がビジネスヒントに

vol14_1.jpg

経理や事務仕事だけでなく、たとえば、写真撮影1枚から、クライアントの要望に答えて代行している。ずっと気になってはいるけれども、なかなか手がつけられない雑務があるという方は、ぜひ一度YPPに相談してみてはいかが?

現在子育て期にある私たちがまだ幼いころは、母親は専業主婦である家庭が多かった時代。その影響を少なからず受けているせいか、"小さい子どもを預けて働くこと"に抵抗や罪悪感を感じてしまう人は少なくはない。「仕事か子育てかの二択ではなく、子どもの成長に合わせながら、自分のペースで仕事を通じて社会と関わることができれば......」。そんな多くの女性たちの願いを叶える新しいワーキングスタイルを生み出した女性がいる。

「忙しい社長さまを、事務シゴトから解放します!」をチャッチフレーズに、帳簿記入、振込、請求書発行などの経理・事務業務を中心に代行している「おまかせ事務代行 有限会社YPP(以下、YPP)」。なんといってもその特徴は、業務に関わるスタッフの約9割が、乳幼児を持つ母である点だ。

「『2時間で終わる事務作業を誰かに頼みたい』という会社のニーズと、『毎日2時間だけ働きたい』という子育て中の女性のニーズをマッチさせたら、子育ても仕事も頑張りたい女性たちが輝ける場所を提供できるのではないかと思ったんです」と話すのは、代表の五味渕のり子さん。彼女自身、仕事と育児の間で葛藤し、悩んだ経験のある女性のひとりだ。

妊娠する前までは、フリーランスの営業コンサルタントとして活躍していた五味渕さん。「子どもは欲しかったのですが、なかなか授からなくて。『子どもがいない人生を楽しむのもよいかな』と気持ちを切り替えて、仕事に打ち込んでいたんです。ちょうどその頃、業務委託契約を結んでいたコンサル会社の師匠とお仕事させていただくのが楽しくてしょうがなくて。週末になると『月曜日が待ち遠しい』と思うくらい(笑)。そうしたら、仕事のストレスがなくなって体調がよくなったのか、結婚13年目にして子どもを授かったんです。正直、びっくりでした」。 このとき、五味渕さんは35歳。待望の妊娠だったこと、高齢出産であったことを考慮し、出産に専念するために仕事を辞めることを決意する。

その後、無事に長男を出産。かわいい我が子との甘い生活を送っていた五味渕さんだが、一方で、社会から取り残されていくような焦りと孤独感がどんどん募っていったという。

「効率よく時間を使いたいと思って、今思えば、新生児を相手に仕事モードで向き合っていたり、育児書に振り回されて、ちぐはぐなことをやってしまっていたり。"どこかうまくいっていない感"にいつも苛まれながら育児をしていました。『外に出たい』『仕事を再開したい』という気持ちを押し殺して、『いいお母さんにならなければ』と肩に力が入っていたんだと思います」。育児が大変だという気持ちが先行しているのに、それにフタをしようとしてバランスを崩してしまった五味渕さんは、産後うつ状態になってしまったそう。

フルタイムでは働けない子育て中の女性と企業のニーズをマッチング

vol14_2.jpg

アロマオイル、ポプリ、ハンドクリーム......など、女性のみのオフィスならではのちょっとした気遣いが行き届いた清潔感溢れるオフィス。

そんなある時、年末の挨拶まわりで師匠のもとを訪ねた。顔見せだけのはずだったのに、五味渕さんの口から出たのは、意外にも「仕事を再開する準備が整いましたので、どうぞまたよろしくお願いします」という言葉だったという。「息子を保育園に預ける決心もついていない、なにも準備できていない状態だったのに、無意識のうちに口から出てしまって自分が一番驚きました。今思うと、そのときのつらい状況からなんとか抜け出したい一心だったのかもしれません」

思いがけない一言で仕事を再開することになった五味渕さん。子どもを保育園に預け、体制が整っていくうちに、営業コンサルタントとしての仕事も順調に増えて行った。その一方で、仕事の予定が埋まれば埋まるほど、不安な気持ちはどんどん大きくなっていったという。「母の緊張が伝わるのか、大切な打ち合わせの時に限って、子どもが熱を出していたんです。実家の母のサポートでなんとか乗り切っていましたが、『具合の悪いときくらいそばにいてあげたい』と思う気持ちと、『仕事でアクセルを踏みたくても踏めないもどかしさ』がつねにあり、仕事も子育てもどちらも楽しめず、悶々とした日々を送っていました」

ちょうどその頃、知り合いの会社社長から「経理仕事をやってもらえないか」という依頼があった。「実業を見せてもらえるよいチャンス」と軽い気持ちで引き受けた五味渕さんだったが、そこに大きなニーズとビジネスチャンスが潜んでいるのを発見する。

「中小企業やひとり会社では、事業が軌道に乗り、総務・経理の専任を雇えるようになるまでは、社長がすべての業務を一人でこなさなければなりません。でも、慣れない作業に多くの時間が取られてしまったり、ミスが多かったりで、経理がうまくまわっていない会社が多いことに気づきました。誰でもできる、誰がやっても同じ結果になる経理・事務作業はアウトソーシングして、それで浮いた時間を使って新規顧客を獲得したり、新サービスを構築したりなど、本来やるべき業務に専念するのがよいと思ったんです」

次第に、経理・事務代行の仕事がクチコミで増え始め、さらに、事務代行という仕事が世界的に広がってきているという情報を聞きつけた五味渕さんは、事務代行のビジネスに専念することに。"納期さえ守れば、誰がやっても同じ結果になればよい"という仕事の特徴を活かして、作業スタッフには、子育て中の女性たちを集めることにした。そして、2005年2月、子育てをしながら女性が働きやすい職場づくりを目指して、「おまかせ事務代行 有限会社YPP」を設立した。

仕事も子育ても楽しみながら輝く女性を全国各地に増やしていきたい

vol14_3.jpg

五味渕さんが毎年作成しているドリームマップ。「スタッフの目につくよう、ミーティングスペースに置いてあります。落ち込んだときも、これをみて想いを再確認すると、がんばるぞ〜という気持ちがふつふつと湧いてきます」

運良く出資金が集まったこともあり、始めから事務所を借りてスタッフを雇い、事業をスタートさせた五味渕さん。事業が軌道にのるまでは、赤字の月がしばらく続いたこともあったが、持ち前の明るさで「なんとかなる」と信じて乗り越えたのだそう。案件が増えていくのと同時にスタッフを募集し、現在は、YPP の経理、広報などを担当する常勤スタッフ4名のほか、月1回以上、仕事に関わる作業スタッフ17人で運営されている。常勤といっても、出社するのは週に3 日程度。幼稚園や習い事などのお迎えや行事に合わせて各自が希望を出し、それに基づいてシフトが組まれている。

社会的には、乳幼児を持つ女性の雇用に消極的な企業も少なくないのが現状。だが、YPPでは「子どもが熱を出したときはお互い様」という共通認識のもと、子育て中の母が9割の組織ならではのルールに従って運用されている。

「連絡は、主に携帯メールを使って行います。子どもが病気で出社できなくなった場合のピンチヒッター探しも、携帯のメーリングリスト上で行われます。また、お迎えの時間に合わせてそれぞれが仕事を切り上げなければならないので、その日の業務報告は、夜、メールで行ってもらうようにしています。そのほか、案件ごとに共有ボックスを事務所に設置して資料を管理したり、パソコン内のデータの置き場所なども細かくルール化して、誰が担当しても滞りなく作業ができるよう、情報を共有できる仕組みを作っています」

今後は、税理士や社労士と協力しながら、中小企業やひとり会社で働く人たちにとって欠かせない存在となれるよう、代行する仕事の幅を広げ、その精度を高めていきたいのだそう。さらに、YPP的な働き方をする素敵な女性を全国各地に増やしていくのが目標だ。

「仕事が充実すると、子育てを楽しむ心のゆとりにもつながりますし、母親が勇気や自信、未来への希望をもって生きることは、子どもにとってかけがえのないギフトになると思うんです。楽しそうに働いている母親をみて、『早く働いてみたいな』と子どもが憧れるような素敵な女性が増え、活躍できる世の中になればよいなあと思っています」

子育てをしながら、家族を大事にしながら、自分の選択した場所で、自分のペース・価値観で生きるーー。自らが望んだ理想の働き方をカタチにし、それを世に問うている五味渕さんのチャレンジは、これからも続いていきそうだ。

ある一日のスケジュール

06:30 起床。掃除
07:00 息子を起して朝食。その後、身支度
08:30 息子を保育園に送る(通常は車。時間に余裕があれば、土手を散歩しながら徒歩でいくことも)
09:00 電車でオフィスに移動
10:00 出勤。メールチェック、申し送りなどを行う
11:00 来客対応
12:00 クライアントとランチ
14:00 クライアントを訪問し、打ち合わせ
16:00 オフィスに戻り、確認作業を行う
17:00 オフィスを出て、電車で移動
18:30 保育園にお迎え
19:00 帰宅。夕食の準備
20:00 夕食
21:00 お風呂に入り、息子を寝かしつける(ベッドで本を読むか、創作話を聞かせて楽しむ)
22:00 片付け後、お茶タイム。ストレッチなどをすることも
23:00 就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

息子の寝顔・笑顔。添い寝すると、こちらが癒される感じです。もう一つは、女性起業家仲間でレッスンを受けているベリーダンス。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

仕事のボリュームコントロールはどうされていますか?
今は、自宅では会社のメールを受信していないので、家ではほとんど仕事をしません。緊急時は、携帯電話で対応します。現在の体制が整うまでは、営業、打ち合わせ、作業、社員研修、作業のチェックなどすべての業務を担当していたこともありました。現在は、最後の責任をとる覚悟を持った上で、現場スタッフに仕事を任せ、新しい種まき活動を積極的に行っています
子育て中の女性集団として信頼を得るために心がけていることは?
世の中的には、子育て中の女性は、「休みがちで当てにならない」というマイナスなイメージがあるようですが、それは誤解だと感じています。子どもの手が離れている数時間だけでも働きたいという人は、基本的にマインドが高い人。ただ、どんなにマインドがあっても、子どもの突発的な病気などで物理的に約束ができない状況もあるので、会社全体としてサポートする体制を整えたり、受注する仕事自体、誰でも代わって担当できる内容のものに特化するようにしています。
忘れられないエピソードは?
「週2日、2時間でもOK、子育て中のママ大歓迎」という求人広告を出したところ、3日間電話が鳴り止まず、電話パニックを体験したこと。子育てしながら働きたい女性がこんなにもたくさんいたことがわかりうれしく思うと同時に、「自分の方向性は間違っていない」と勇気づけられました。
落ち込んだときに勇気づけられた言葉は?
「やまない雨はない」「夜明け前が一番暗い」「伸びる日は伸びるなり、伸びぬ日は伸びぬなり」「勇気を持って、人のやらないことを、人よりも先にやる」といった言葉を信じていました。あとは......。いろんな本を片っ端から読んで、せっせとトイレ掃除に励みました(笑)。
五味渕さんのように、新しいビジネスを立ち上げ、道を切り開いていきたいと考えている女性に向けてのメッセージは?
「自分で決めたことだ」と思いながら生きていくと、想像以上に、自分には「力」があることに気づきます。みんなそれぞれ、尊い命があるだけでなく、誰一人、例外なく本当にすばらしい「力」や「得意分野」を持っているので、自分の可能性に気づいてほしいです。起業すると孤独に感じるときもありますが、自分の可能性を信じられるようになればなるほど、道が開けていくことを実感しています。自由に選び取ることのできる時代なので、それを生かした生き方を勇気を出して選んでみてくださいね。

フリーランス応援プログラム