クリエイター

December 25 2011

Vol.71 エッセイスト・イラストレーター きくちいまさん

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Profile

1973年、山形県生まれ。母の影響で幼い頃から着物に親しみ、大学卒業後、着物専門の広告代理店にコピーライターとして入社。1999年にフリーライター・エッセイストとして独立。著書に『かわいい 楽しい 着物きこなしアイデア帖』『きもので出産!』『ふだん着物のたのしみ方』(以上、河出書房新社)、『よくわかるきものの着付けと帯結び』(PHP研究所)、『キラキラ着物絵日記』(リヨン社)他多数。最近では、着物や小物のデザインやプロデュースを手がける傍ら、新聞や雑誌の連載、全国各地での講演活動もこなす。3児の母。

きくちいまさんのサイト
いまっぺーじ

清少納言に嫉妬した幼少時代。800倍の狭き門をくぐり、コピーライターに

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先月発売になった13冊目の著書。すべての子どもに"大好き"を伝える本として、四季折々の子どもとの暮らしを描いたイラストエッセイ。 『ゆったり、わくわく 子どもと楽しむ12カ月 』阪急コミュニケーションズ刊

 山形を拠点に活躍するエッセイスト&イラストレーター、きくちいまさん。幼い頃からのきもの好きが高じて20代からきもの生活を始め、今では365日きものを着て暮らす。そんな彼女の暮らしぶりを綴ったエッセイやイラストは人気を呼び、出版された著書は13冊。それまでフォーマル中心だったきもの業界で、「普段着きもの」というスタイルを確立させた第一人者でもある。新聞や雑誌の連載、全国各地での講演、きものや和装小物のデザインやプロデュースなど、地方を生活拠点にしながら活躍するフィールドは幅広い。そのユニークなキャリアの軌跡をうかがった。

「作家になりたい」。

 本屋の娘だったきくちさんが小学生のころに抱いた夢。本を読むのはもちろん、原稿用紙のマス目を埋めるのが恍惚というくらい文章を書くのが好きで、東向きの自分の部屋の窓から差し込む朝日がきれいだなぁとか、日々感じたことを文章に綴ったりしていたと言う。ところがある日、随筆の原点ともいわれる「枕草子」を読んで、清少納言がすでに自分と同じようなことを書いているのを知る。
「ものすごくショックでくやしかったですね。これは早く自分が文章にして世に出さないと、いつまでもこのくやしい気持ちを味わうことになる、と思いました。清少納言に嫉妬したんです」

 大学は文学部へ進み、その後、「文章力を磨くため」コピーライターとして広告代理店に就職。大手ではなく、新人でも書かせてもらえるような小規模なところを、と選んだのが、きもの専門の広告代理店だった。「きものが大好きだったので応募したんですが、面接で半幅帯の需要について質問する学生なんていなかったみたいで(笑)」

 800人超の応募者の中からコピーライターとしてはたった一人、きくちさんが採用された。

仕事の基盤作りのため東京へ。山形へ帰ることは最初から決めていた

vol71_3.jpg 「作家になる」という夢を持ち続ける一方で、きくちさんは大人になるにつれ、暮らしの拠点を山形にしたい、結婚しても、子どもを持っても働き続けたいなど、夢を支えるためのライフプランも具体的に描くようになる。

「作家になるには東京に出なくちゃいけないと思っていた。だから、東京は仕事の基盤を作るところ、それができたら帰ろうと決めていました。田舎で子育てをしたかったというのが大きな理由です。子どもには、おじいちゃんおばあちゃんの優しさとか思いやり、田舎ならではの風景、色、匂いに触れさせながら育てたかった。帰ると決めていたから、付き合うなら次男!(笑) 今の夫にも最初から山形に帰ろうと思っていることを伝えていました」

 そしてコピーライターとして順調な滑り出しを見せた社会人生活も、会社の事業規模の縮小により、3年半ほどで退職。独立を余儀なくされた。
「いきなりフリーになってしまったので最初は大変でした。今の仕事をするようになったのは、クライアントだった知り合いの呉服屋さんに、自分の店で出しているフリーペーパーに記事を書いてほしいと言われ、イラストとエッセイをのせたことがきっかけ。その記事を見た別のメーカーさんから小冊子の依頼がきて、その小冊子を見た出版社から声をかけていただいてと、一つの仕事が次につながるという形で1冊目の本の出版に至りました」

 文章だけじゃなく、イラストだけでもない。両方できたことが自分の強みだったのではないかと分析するきくちさん。加えて「きもの」というテーマがあり、早い段階でスタイルを確立できたことも大きかった。フリーランスとしての活動が徐々に軌道に乗り、2冊目の本が出た時、担当の編集者に実は山形に帰りたいと思っていることを告げる。

「そしたら、もうきくちさんの人となりはわかっているから海外だって大丈夫ですよと言ってもらえて。ああ、もう基盤はできたかな、と。夫にも仕事をやめてもらって、父の会社を手伝うということで連れていっちゃいました。雪は大して降らないよなんて大嘘もついて(笑)」

家族のこと、これからのこと

 山形へ戻ってほどなく第一子を授かったきくちさん。妊娠中も産後もきもので過ごし、その様子を綴ったエッセイ『きもので出産!』が出版されるなど、母としての側面も仕事に加わった。現在は田舎でのびのびと3人の子育てをしながら仕事をし、平均して月2回、2泊3日程度の泊まりの出張をこなす。東京へも毎月足を運び、打ち合わせや執筆などに費やす。この時間があることで、地方と東京、両方の良さがバランスよく暮らしの中に溶け込んでいると言う。

 きくちさんが留守の間は、子どもの面倒を見るのは夫や両親。産むのは女性だけど、育児は「チーム子育て」としてみんなでやる、がモットーだ。そんな理想的とも言えるワークスタイルを確立できたのも、ただ仕事に邁進するだけじゃなく、最初からトータルな人生設計があったことが秘訣のよう。

「これからは一人っ子同士の結婚も多いだろうし、お墓の問題、家の問題などいろいろ出てくると思う。そういう時に私は仕事をやめたくなかったんですね。だから育児も介護もお墓もすべてひっくるめて考えていました。3世代での同居は初めから順風満帆というわけではなく、何度か決裂しかかったこともありましたが、そのたびに離れられないんだなと思わされることが起こる。今ではだいぶ忍耐力もつきました(笑)。」

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きくちさんの仕事場風景。

 自分の書く文章が、何かと何かをつなぐ接着剤のような役割になるとうれしいと語るきくちさん。書評だったら本と人、エッセイだったらモノと人、自然と人、大人と子ども......。今までは、きもの関連のテーマが多いが、今後はもっといろんなことを書いていきたいと言う。

「きくちいま、母親、妻、娘と自分にはいくつもの役割があり、時間はいくらあっても足りない。でも限られた時間の中で日常に埋没せず、自分の足で立ちたいと思ったら、本に埋もれた中からざっと立ち上がるような、そんなイメージで自分を奮い立たせるしかない。実家は江戸時代から先祖代々、女性が結婚をせず、養子をもらいながら継いできた歴史ある本屋だったんです。祖母が亡くなった時にたたんでしまったのですが、跡を継ぐつもりだったのでさびしかったですね。いつかその屋号で何かを書きたい。その思いはずっと温めてあります」


きくちさんのお仕事道具


vol71_4.jpg自らデザインしたという半幅帯で作られたバッグ。きもの姿に合うように持ち手が短く、収納力抜群のお仕事バッグ。

ある一日のスケジュール

06:00 目覚ましが鳴る
06:30 息子①起床 朝ごはん 身じたく
07:10 息子①登校 息子②&娘の朝ごはん 自分の身じたく
08:30 息子②&娘登園 その後、家事をこなす
10:00 仕事
12:00 ランチタイム
12:30 仕事
14:00 読書、翌日のきもののコーディネートを考える、片付けなど
16:00 息子①帰宅 宿題を見る
16:30 夕飯の下準備
17:00 幼稚園お迎え、夕飯の準備
18:30 夕飯
19:30 入浴
20:30 寝かしつけ
21:00 消灯
22:00 仕事再開
25:00 就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

品川にある「アロマトリートメント 岩崎」に行くこと。全身メンテナンスしてもらいます。ここへ来るとほうれい線が消える! 私の駆け込み寺です。※写真は、「アロマトリートメント 岩崎」より転載

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

スキルアップのために続けている努力はありますか?
文章力を磨く。常に本は2冊同時進行で読んでいます。いい文章に触れることを心がけています。
オンとオフの切り替えはどうしてる?
昔のテレビのチャンネルをガチャガチャと切り替えるようなイメージで、きくちいまチャンネル、母チャンネル、妻チャンネルを切り替える。最近、妻チャンネルの映りがイマイチで砂嵐なんですけど......(笑)。
地方にいて営業活動に不便はない?
営業活動は基本的にしていません。今やっている仕事が次の仕事を連れてくると信じて全力投球あるのみ。本1冊書いたらもう産卵後の鮭状態。酒粕だったら一滴も出ないというくらい、力を出し切るところまで出し切ります。
3世代同居が円満に行くコツは?
母は、私が22歳の時に再婚したので、今の父とは直接血のつながりはない。だからこそ、子どもたちと父との接点をなるべく多くして、血のつながりは関係ないということを家族で表現しています。あいさつは特に重視していて、例えば「おやすみなさい」は近くまで行って、ちゃんと目を合わせて言う。たまに家族の仲がギスギスしてきたなーと思ったら、わざと自分が声を荒げてイライラしたふりをすると、他の家族がおびえて結束しだす。面白いなと思いながらいろいろ実験しています。
自分らしく働くためには?
生きることを楽しむこと。それは必ず仕事に反映すると思います。あと子育てや他の何かを理由にあきらめることをしない。休んでいる間に縁は切れちゃう。それはもったいないことなので、細々とでもいいから続けていく。

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