クリエイター

August 02 2012

Vol.77 ファッションデザイナー メラニー上松さん

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Profile

美術学校の学生時代、奨学金で半年間デザイナーとして日本に留学し、卒業後の2002年、再び来日。「ツモリチサト」、「ユニクロ」でデザイナーとして働いた後、「Design Tshirt stores graniph」で海外アーティストを取りまとめるアートディレクターに。海外雑誌とのコラボ企画などのPR業務全般も担当。2009年、長女妊娠を機にフリーランスへ。2010年12月から「sewing circle」をスタートし、自宅や出張でソーイングやパターンメイキングのクラスのほか、プライベートレッスンなどを開催。2012年1月、世田谷区尾山台にアトリエをオープン。

メラニー上松さんのサイト
「sewing circle」

職住隣接にこだわり、自転車で5分圏内にアトリエをオープン

vol77_1「去年の311直後は、本当に迷いました。日本に残るか、ドイツに帰るか。まわりの友人や教室の生徒さんのほとんどが帰国してしまいましたし、ドイツにいる家族からは、『お願いだから帰ってきて』と何度も言われていました。なぜ帰らなかったって? それは、やはり家族がいたからかな。フリーランスで働いていた夫がドイツで仕事をゼロから始めるのは大変だと思うし、娘は通っている保育園が本当に楽しそうで、いまの環境を変えてしまうのはかわいそうかなーと思って。そうしたら、自然と自分の中で覚悟が決まっていったんです」

そう話すのは、今年1月、大井町線尾山台駅から徒歩2分の場所にアトリエをオープンし、「sewing circle」を開催しているメラニー上松さん。ボタン穴やジッパー、ポケットのつけ方などソーイングの基本テクニックを教えるベーシックコース、パターンの作り方を教えるパターンメイキングなどのコースプログラムのほか、プライベートレッスンなども展開している。「自分のアイディアを形にしたい」「自分のファッションセンスで洋服や鞄をつくってみたい」といったオシャレ感度の高い生徒さんが多いそうだ。
昨年までは、自宅や出張でクラスを開催していたメラニーさん。アトリエを設けた理由を聞くと、自宅での開催が手狭になったからとのことだったが、そこには「日本でしばらくやっていく」、そんな彼女の決意が表れているように感じた。

アトリエの場所を尾山台にしたのは、娘の保育園、自宅がそれぞれ自転車で5分圏内にあったから。震災の影響もあったが、限られた時間の中で、仕事も家族との時間も全力で楽しみたい! だから職住隣接にはこだわった。そんな価値観をもつようになったのも、子どもを産んでからだという。

自分の最も得意分野で自然な流れで教室を始めることに

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4歳の頃からバービー人形の服を切り貼りで作り、12歳の頃には大人顔負けなほどミシンを使いこなしていたというメラニーさん。「こんな服があったらいいな」をちゃちゃっと作ってしまうのが大の得意。「このブルーのパンツも余っていた生地で作ったの。生地が足りなかったから、布をつぎはぎしてボタンとテープでごまかしちゃった。でも、かわいいでしょ?」

メラニーさんが日本を初めて訪れたのは2001年。服飾デザインを専攻していた美術学校で奨学金を獲得し、半年間日本へ留学して「ツモリチサト」でデザイナーとして働いた。日本のデザインの歴史、デザインコンセプトのつくり方の違いなど、すべてが刺激的で面白かったという。帰国後の卒業制作では、おにぎりや折り紙をモチーフにした服を発表し、高い評価をうけたのだとか。

日本の魅力にとりつかれ、卒業後、再び日本を訪れたメラニーさん。「ツモリチサト」、「ユニクロ」でデザイナーとして働いた後、当時設立間もない「Design Tshirt Store Graniph」のアートディレクターに。そこでメラニーさんは海外で活躍している、またはこれから芽のでそうな若手アーティストたちをスカウトし、斬新なデザインTシャツを次々とプロデュースする。そのほか、デザインアワードの主催や海外雑誌とのコラボ企画のディレクションなど海外広報業務も担当し、日本と海外を行き来する多忙な日々を送っていた。そこで培ったアーティストたちとのグローバルなネットワークを生かして、新しいことにチャレンジしたい、そんな想いでフリーランスに転向してまもなく、第一子を授かった。

産後は、仕事のペースを少しだけスローダウン。慣れない育児でどんよりすることもあったが、子どものいる新しい生活を楽しんでいたメラニーさん。育児の気晴らしにと得意のソーイングで子ども服を作って我が子に着せていたところ、ママ友の間でたちまち話題に。「私にも教えて!」といわれ、自然な流れで「sewing circle」を始めることになった。はじめは友達8人からスタート。ミシンと子どもを抱えて友人宅へ出張し教室を開いていた。サークルの噂はクチコミで広がり、順調に生徒さんも増えていった。そんなタイミングで起こったのが"311"だった。

夢は庭付き、カフェ付きのアトリエを持つこと

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星形アップリケがついたデザインTシャツはパターンから起こして作った作品例。娘さんのお洋服ももちろんメラニーさんお手製だ。

311後、自宅や出張でのクラスを再開しながら、つねに物件情報はチェックしていたそう。そして昨年末、運良く好物件に巡り合い、あれよあれよという間にアトリエを持つことに。家賃など毎月固定で経費が発生してしまうためかなりの覚悟が必要だったが、自分の拠点を持つことで、クラスを定期的に安定して開催できるようになり、またミシンや布などの備品をすべてアトリエに置いておけるのでクラスの運営はとても楽になった。そして、アトリエを出ればOFFというように空間的にも時間的にもONとOFFの区別を付けやすくなったそう。

オープンするまでは、「人が来るのだろうか」と心配だったが、蓋を開けてみれば、「こんな場所が欲しかった」と地元の人たちも通ってくるように。取材の日も、「日本の服のサイズは合わないので、自分のサイズに合ったシャツやズボンを作りたい」という外国人の男性のプライベートレッスンの予定が入っていた。 「プライベートレッスンでは、生徒さんが作りたいものを聞いて、どんな順序でそれを形にしていくのかを毎回レクチャーしていきます。ソーイングは苦手という方は多いですが、頭を空っぽにして制作に集中できるのでリフレッシュにもなっておすすめなんですよ」。教室の運営と並行して、外国人向けフリーペーパーなどに広告を掲載するなどして営業活動を行い、クラス運営も少しずつ軌道にのり始めた。

将来は、アーティスト仲間と一緒に庭付きの一軒家を借りて、カフェつきのアトリエを構えたいと話すメラニーさん。そこに上達した生徒さんたちの作品を展示するのが夢なのだそう。ファッション業界の第一線での活躍とドイツ人ならではの感性を武器に、フリーランスとして人々にソーイングの楽しさを伝えていく道を選んだメラニーさん。日本でのチャレンジは、まだまだ始まったばかりだ。

メラニーさんのお仕事道具

vol77_6.jpg長年愛用しているレトロなミシン。仕事や育児で疲れたら、このミシンに触れ、作業をしているのと自然と心が静まり、自分の原点に戻ることができるのだそう。

ある一日のスケジュール

06:00 起床。ランニングへ
06:40 ランニングから帰宅。軽くシャワーを浴びてから朝食の準備
07:00 子どもを起こして朝食
08:30 家を出て保育園へ
09:00 アトリエ到着。掃除や片付けをする
10:00 午前のクラスがスタート
12:00 クラス終了後、軽く昼食をとる
13:00 午後のクラスがスタート
17:00 クラス終了後、保育園へお迎えに行き、買い物をする
18:00 帰宅。夕食の準備
19:00 夕食。食べたらお風呂に入って、絵本を読む
21:00 子ども就寝。その後、家事をしたり、ブログやメールなどパソコン仕事をしたり、夫と話したり
24:00 就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

「慣れない子育てで疲れていたときに診ていただいたホメオパシーの主治医に『疲れていてもとにかく走りなさい!』といわれて産後8ヶ月からランニングを始めました。そしたらハマッてしまって(笑)。今年は東京マラソンにも出場しました!」

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

アトリエを持って大きく変わったことはなんですか?
アトリエをオープンしてみたら、いろいろなことがクリアになりました。例えば、オープン前はママ&キッズクラスのニーズがあるのではと思っていましたが、実際には外国人やオシャレ感度の高い大人向けのクラスの方が人気があったり、また当初は9〜17時の営業時間を想定していましたが、週末や夕方のコース、ワークショップにもニーズがあったり。やはり"Learning by Doing"が一番大切ですね!
満足度の高いクラスを提供するために、心がけたり続けていることはありますか?
簡単なものから始めてもらい、スキルがついてきたら少し難しい服にチャレンジしたり、オリジナルのパターンをおこしてみるなど、生徒さんにも"Learning by doing"を実感してもらえるように工夫しています。自分のデザインのアイディアをかたちにしていくプロセスを楽しんでもらいたいと思っています。
営業活動はどのようにしていますか?
外国人の方が読みそうな英語のフリーペーパー「Metropolis Magazine」に広告を出したり、地域の子育てサイトなどにもたまに投稿したり。チラシも作って配っています。
好きな言葉
豊田佐吉の名言「人間のやったことは、人間がまだやれることの100分の1にすぎない」
メラニーさんのような働き方を目指す方へのメッセージをお願いします!
家族と仕事の両方をバランスよく取り組むことが大事。チャレンジしてダメだったら、その原因を分析して、変更してまたトライしてみる。失敗から学ぶことで経験が蓄積していくと思います。
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Writer オノリナ

Webプロデューサー・リズムーン編集長
リズムーンを運営する合同会社カレイドスタイル代表。女性向けWebメディア編集、フリーランスを経て、2014年に合同会社カレイドスタイルを設立。国内外のネットワークを活かして最適なチームを組みながら、Webを中心としたコンテンツ企画・制作、発信などのコミュニケーションを提案。組織という枠や概念を超え、「個」が主役の多様な働き方を加速させる社会の実現に向けた事業・サービスを展開している。プライベートでは、2006年、2011年、2013年生まれの3児の母。

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