カウンセラー・セラピスト

January 20 2015

Vol.96 音楽療法士 日暮沙織さん

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Profile

東京生まれ、東京育ち、アメリカ合衆国マイアミ在住。高校卒業後、一年間のアルバイト生活を経て、音楽療法を勉強するため単身渡米。アメリカのノースキャロライナ州にあるイースト・キャロライナ大学音楽学部を卒業、修士号を取得。学部卒業後のインターンシップは州立の成人のための精神病院を選択するが、大学院進学後は進路を180度変え、特に自閉症の子どもを対象とした療法を専門とする。マイアミでフリーランスの音楽療法士として0〜7歳までのリハビリに従事。
日暮沙織さんのサイト
在米日本人医療従事者による情報発信サイト『あめいろぐ』にて時々ブログも更新中

日本ではまだ馴染みの薄い「音楽療法」とは?

私が初めて日暮沙織さんに出会ったのは、アメリカ南部の大学町にある音大のキャンパス。日本人がほとんどいなかったアメリカの大学で、同じ首都圏出身者で、さらに同じ年の女の子が来たことはまたとない偶然で、私たちはすぐに意気投合した。

笑顔が素敵で、ハキハキとものを言う生粋の江戸っ子の日暮さんは、現在はアメリカ合衆国フロリダ州マイアミで活動するフリーランスの音楽療法士だ。自閉症の子どもを持つ個人宅や保育施設、学校を訪問し、音楽療法セッションを提供している。

「音楽療法」は、胎教のような音楽聞くサウンドセラピーとはまた違い、音楽を使って能動的にクライアントと相互に関わる療法のひとつ。対象年齢も、下は集中治療室に入るような新生児から、脳卒中後のリハビリが必要なお年寄りまでと幅広い。日暮さんは、とくに自閉症の子どもたちを対象に、言語回復に力を入れて取り組んでいる。

子どもの状況や症状に合わせて行うため、一人として同じセッションはないと言う。

「たとえば、発語をさせるために音を使う方法では、"Hello"という言葉が入っている歌を一緒に歌います。また、同じ曲を"Hello"が入っているところだけ言ってみたり、逆に"Hello"を抜いて歌ってみたりします。自閉症を持っている子どもたちは、発語はないけれど歌は歌えるという子が多いのでこの方法はよく使われますね。脳性麻痺をもっている子の場合だったら、左右のバランスを保つためのセッションを行ったり、場合によっては、音楽をご褒美として使ったりすることもあります」

受験勉強が嫌で、アメリカの大学へ。そしてマイアミに就職

なぜ日本人の彼女がマイアミで音楽療法士をしているのか、と疑問に思われるだろう。日暮さんが音楽療法士を目指すきっかけとなったのは、小学校のとき。日本には自殺する子が多いという話を聞いて疑問を持ち、そこからカウンセラーという進路を考えるようになったのだと言う。ある時、知人から「音楽療法士」という職業があると聞き、アメリカの大学進学を選ぶこととなる。

「アメリカの大学を選んだのは、日本で大学受験をしたくなかったからです(笑)」。全く躊躇せず、あっけらかんと答える日暮さん。高校2年の時に留学から帰国後、登下校の電車の中で、他の学生が単語帳を開いて一生懸命に暗記に励んでいるのを見て、「自分はやりたくない」と思ったという小さなきっかけが、彼女をアメリカへと押し出した。

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もともと子どもへの療法に興味を持っていた日暮さんだったが、子どもの分野は人気があり狭き門。一度はあきらめ、大学卒業後は、インターンとして、州立の精神病院で大人の精神病ケアに携わるが、「やはり子どもへの療法がやりたい」という気持ちが大きくなり、誰に何を言われようと自分が一番やりたい道へ進もうと心に決めた。

「大学院を卒業した後、1年間はPractical Training Visaという職業訓練のためのビザが出るので、とにかく履歴書を送ってみたら、マイアミの療育施設からお返事をいただいて。その1年後にはワークビザを出してもらったんです」

日暮さんが送った履歴書はたったの3枚! その療育施設に勤め、1年半後にワークビザから永住権(グリーンカード)を得たのである。

理想の療法を提供するための独立

民間経営の学校に勤めて7年を経た後、独立に至った日暮さん。特に最後の2〜3年間は、そこに勤めているのが本当に苦痛だったと言う。

「当たり前ですが、やはり会社組織だと、自分がよいと思っていてもできないことが多いんです。最初の4〜5年間は、卒業直後でまだわからないことも多く、毎日いろいろと吸収させてもらいました。ただ、その時期が終わり、自分の中で、『こういうのがいいな』というのが出来上がったから、辞めたいと思ったのだと思います」

「フリーランスになり、まず最初に、マイアミ在住のお母さんたち向けのフリーペーパーに広告を出しました。ほかにも個人広告は載っていたのですが、音楽療法士に関する広告はゼロだったので、それを見たクライアントからわりとスムーズに仕事を得ることができました」

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最大限に効果を出せる理想の療育施設をつくるために

現在の総合療育施設では理学療法、作業療法、言語療法に加え、メインになる療育カリキュラムにそってリハビリが行われるというが、それでは足りないと日暮さんは考える。

「例えば、行動療法をメインでやっている学校に子どもを入れることになったら、実際に入れてみないと、それがその子に効くかわからないわけです。でも、それが、行動療法と、フロアタイム(「floor = 床」と文字通り、床で親や療法士が子どもの目線になって共にアクティビティを行う療法)と......と選択肢がある学校だったら、学校は変えずに、子どもの成長に合わせて必要な部分を取り入れていけると思うんです」

それができたら子どもの時間が無駄にならずに済むと日暮さんは続ける。

「なぜ時間にこだわるのかと言うと、子どもの脳の発達は胎内にいる時から3歳までが非常に早いんです。その後は10歳前後まで、その後は20歳を過ぎた頃まで、と脳の成長には大きく3つの段階があると考えられています。ですので、その発達が一番早い時期に脳の新しい神経経路を形成できれば、その後の療法の結果も変わってくるはずです」

子どもの自閉症には早期療法を勧めている日暮さんだが、音楽療法だけがその解決法だとは思っていない。

「一番効果的な療法は一人ひとり異なります。自閉症で効果的だとされている行動療法というのがあるのですが、それでも成功率は約50%といわれています。それって一般医療で言えば低い確率だと思いますよね。だから、私は音楽療法をベースにしていますが、理学療法、行動療法などいろいろな知識を持ち、短期間のうちに、さまざまな療法を提供できるようになるのが理想なんです」

今後は療法士の数を増やし、更に多くの人々に音楽療法を提供していけるよう、今月から自身のスタジオを始めた日暮さん。夢と目標に向かって一歩一歩、着実に進んでいる。

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日暮さんのお仕事道具を拝見!

20150120_higure_4.jpg子どもたちにたくさん傷をつけられているコダイラのギターです。これを弾きながら歌を作ったり、歌ったりします。

ある一日のスケジュール

9:30 (日によっては
7:30など)
起床
10:30 学校でのセッション
12:00 セッション×3回
(移動含む)
18:00 移動→帰宅
18:30 メールチェックなど
19:30 夕飯準備&夕飯
21:00 次の日の準備
22:00 お風呂・娯楽など
24:00 夫帰宅&ファミリータイム
26:30 就寝

ピンチもこれがあればOK! 私の最終兵器はコレ

20150120_higure_5.jpg"美味しい食べ物"ですね。私はお酒が飲めないので、「やられたなぁ~」と思う日は、食べて発散しています(笑)。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

アメリカでの営業方法は?
基本はメール営業です。英語が母国語でない方が多いマイアミでは特に、後から「言った、言わない」が問題にならないよう、メールでのアプローチを基本としています。
よく言われるワークライフバランス。多忙な毎日のなか、ONとOFFの切り替えはどうしていますか?
私は月2で休みを取ることにしています。そして休みの日は電話も出ないし、メールも見ないし、とにかく何もしないと決めています。そうすることでメリハリをつけています。
音楽療法士として仕事をする上で心がけていることは?
さきにも言いましたが、音楽療法とひとことで言っても、その内容は本当にさまざまで、まだまだ確立されていない部分も多いと思いますし、特に私が携わっている自閉症や脳に関しても、解明されていない部分が多く、日々新しい研究がなされています。そういった新しい情報や知識に遅れを取らないよう、アメリカ国内で行われている学会、カンファレンスや特別コースなどには積極的に参加し、現在お困りの親御さんたちが調べられないようなことを学びに行っています。子どもたちとの限られたセッション時間内で、できるだけ多くのことを提供してあげられる療法士でいたいと思っています。
日暮さんがアメリカで日本人の女性フリーランスとして仕事を続けている上でよかったこと、そのほか感じたことを教えて下さい。
アメリカは移民の国で、特に私のいるマイアミではひとことに「アメリカ人」と言っても、ラテン、キューバ、コロンビア、アルゼンチン、ハイチ、フランス...とさまざまなルーツを持つ人が多く、英語がネイティブでない人が大勢います。そんな中「日本人」に対しては良いイメージがあるようで、それだけで信頼してもらえるということは、言葉が通じないこともあるこの社会では本当にありがたいと感じます。
女性であることについてですが、私は子どもと接する職業ですので、必然的にそのお母さん達と接する機会も多くなります。「お母さんはどう思ってるのかな?」と考えるとき、自分が女だからこそ想像しやすいこともあると感じていて、そういう面では女性でよかったと思っています。
日暮さんのように国内外にこだわらず、自分らしく生きていきたいと考えている人へ、何かメッセージをお願いします。
「自分らしく生きる」というのは豊かな国に生まれた現代日本人の特権だと思います。だからこそ、気になることには臆せず挑戦し、うまく行かなかったら次の作戦を考える。どんな所でも6カ月いれば知り合いもできますし、状況は変わります。それを信じて突き進んでいくうちに自分にピッタリの生き方、働き方が見えてくるのではないでしょうか。
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Writer キャッチポール若菜

映像翻訳者
イースト・カロライナ大学 音楽学部を卒業後、外資系企業のマーケティング業に約8年間携わり、現在ではフリーランスで字幕翻訳、エンターテイメント系通訳業に従事。親族全員で5カ国の国籍が集まるインターナショナルな家族を持つ。リズムーンでは、「英語でつかむボーダレス・マインド」を連載中。
http://www.nlc-jp.com/

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Photographer 小林友美

静岡県生まれ。スタジオ勤務を経て上京。2004年よりフリーランスとして活動開始。東京都在住。雑誌、書籍、Webを中心に活動中
http://www.tomomi-kobayashi.net/

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