今年のフィンランドの"Pääsiäinen"(復活祭)は、4月5日。これに向けて街中では春らしいデザインが少しずつ増えてきて、人々の気分が段々と軽くなってきます。
「フィンランドは医療費が無料!」
「『ゆりかごから墓場まで』しっかりとした社会保障が整っている福祉国家」
最近、日本においてフィンランドの医療システムがこんなふうに紹介されているようですが、現地に住む私にとって、もう少し詳しく紹介されないものかと常に疑問を感じています。そこで今回は、健康第一のフリーランサーにとって大切な「医療」という点で、現地の実態をご紹介します。
本当に医療費は無料!?
結論から言うと、医療費は無料ではありません。無料なのは、18歳未満の子どもだけです。
また妊婦もネウヴォラ(母子のための診察所)でかかる検査や診察代は無料ですが、これ以外の一般的な治療などにかかる費用は全て支払います。フィンランドの公立病院の医療費は、各自治体にて決定する権利を持ちながらその上限については国の法令によって定められています。こちらのサイト(フィンランド語)より各項目の医療費を見ることができます。
医療費や医療サービスを知る上で、ここでフィンランドの3つの種類の病院を簡単にみていきましょう。
比較的安値だけど長時間待ちの公立病院
各自治体が運営している医療センター(Terveysasema)と病院(Sailaara)の2つが、公立病院と言われるものです。医療センターは町の診察所のような役割で、ここで診察した結果、手術や出産、レントゲンや超音波検査などを行う高度な専門医療が必要な場合は紹介制で病院へ案内されます。
医療センターへ行く際には、まず電話で予約を取る必要があります。この予約を取るのにも一苦労。電話しても待ち人10人! なんていうこともザラです。
最速で予約は平均数カ月先という、医療へのアクセスの悪さについては、日本と較べものにならないほどの状況です。もちろんこうした状況は地域や診察内容で異なりますが、今日明日中に予約は取れません。
これは現在フィンランド国内での医師や看護師の人手不足の深刻化が原因のようで、また経済不況とも相まってなかなか改善には至ってないようです。
数カ月先の予約が取れた際の医療費は、例えば歯科でだいたい30〜40ユーロ*。これは先の国の法令をベースに各自治体が定めた金額によります(もちろん診察内容にもよります)。
しかし急な痛みはすぐにでも治したいところ。痛み止めなどの薬を薬局で購入してその場しのぎをしようとも治まらなく、どうしても居たたまれない時には、私立病院へ行くこともできます。
高額だがすぐに診察してくれて主治医を持つこともできる私立病院
これは民間企業が運営している病院で、電話またはネットで予約をすればすぐに診察してくれます。初診の場合でところによっては、医者を選ぶこともできます。
しかし問題は医療費です。フィンランドにも国民健康保険となるものがあり(社会保険庁=通称KELA)、この保険が適用されますがそれでも高い。
同じように歯科へかかったとしても150ユーロぐらいはゆうにかかります(各病院で医療費が定められているのでおよその値段です)。フィンランドで病院にかかるということは、「安値だけど長時間待ちの公立病院」へ行くか。いや、でもやっぱり「高額でもすぐに診てくれる私立病院」へ行くか。それが大問題なのです。
明暗分かれる職業病院
そして3つ目の職業病院とは、企業が提携している私立病院または地域の職業ヘルスセンターのことです。日本でも企業が医療費を負担して従業員の健康をケアする義務がありますが、ここでも同じです。
予約はほぼすぐに取れ、主治医もいるところが多いようです。
しかしその提携先の病院が職場や自宅近くにあるとは限らず、例えば深夜の救急の際に100km先の隣町まで車を飛ばして診察に、ということもあります。従業員の給与から社会保障費などという項目で高額な税金とともに天引きされるので、企業に勤めている人は遠隔地にあっても利用したいところ。
また個人事業主もこの病院を利用できますが、提携先との契約費が高額だったり地域に提携できる病院やセンターがなかったりなど納得する提携先がないことも多いです(もちろんこれも個人事業主や地域によります)。
ですから私を含め同じような立場にある周りの知人たちは、診察内容や緊急度合いなどで公立または私立病院を使い分けて受診しています。
というわけでフィンランドの医療費は無料ではないので、日本に住んでいた時よりもいっそう、健康に気をつけた生活を心がけなければならない、と肝に銘じて日夜育児と仕事に勤しんでいるのが、実態です。
*1ユーロ=130.95円(2015/3/7)