切れ目のない子育て支援。フィンランドのネウボラを体験

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phoyo by swambo via GATAG

フィンランドは、国際的な子ども支援の専門組織であるセーブ・ザ・チルドレンの「お母さんにやさしい国ランキング 母の日レポート2014」でもトップにランクインし、子どもを育てる上でさまざまな育児制度や環境が整っていると評価されています。その代表的なものに「ネウボラ」という子育て支援制度があります。今回は本場フィンランドの「ネウボラ」について、私自身の体験とともにご紹介したいと思います。

ネウボラって何?

「ネウボラ」とは、フィンランド語の"Neuvo"「助言、相談」に、場所を示す"la"を付けて「助言や相談の場」という意味で、妊娠から出産、そして子育て中の母親およびその子どもと家族の心身の支援を行うサービスです。

戦後、フィンランド国民に「子どもの健全な成長を基礎から支える」ことを目的に草の根の市民活動として始まったのが、ネウボラのはじまりです。今年でおよそ70年。「妊娠から出産、子育てまで切れ目ない支援」が今でも続いています。

現在は社会保険庁(KELA)の管轄下におかれ、各地方自治体が運営しています。前回のコラムに書いた医療センターと同じく、居住地区によって利用するネウボラが決まっています。日本でいう保健所に近いかもしれません。「ネウボラ」には、保健師または助産師が常勤しており、各家庭に「かかりつけの保健師」が付くことになっています。しかし、保健師のほぼ100%は女性なので、彼女たちの育児休暇で担当者が代わることもあります

「ネウボラ」とひとくくりに言いますが、厳密に言うとまたは地域によっては、妊娠中と出産後のネウボラが別の場所で担当者が異なることもあり、妊娠中は「母親相談所」という役割の "Äitiysneuvola"、出産後は「育児相談所」という役割の "Lastenneuvola"となります。

次に、それぞれの相談所について簡単にご紹介します。

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我が家が利用しているネウボラの待合室

妊娠中のネウボラとは? Äitiysneuvola(母親相談所)

まず、市販の妊娠テストで妊娠が分かったら、自分の居住地区のネウボラ(母親相談所)へ検診予約を入れます。通常、妊娠8〜11週の間に予約して検診を受け、妊娠の確認をします(この週は自治体によって少し異なります)。しかし、市販のテストでもう少し早い時期に分かったり、健康上に何か問題があったりした場合は、ネウボラへ妊娠の可能性があることを伝えつつ、私立病院の超音波検査で確実な妊娠を確認することができます。これは、後に触れますが、ネウボラには超音波検査を行う機械や技術がない(保健師はこの技術を持っておらず、産婦人科医のみが病院で行う)ためです。病院での結果は担当のネウボラへ伝えられ、そこから定期的な検診が始まります。その際に母子手帳の役割となる "Äitiyskortti"が手渡されます。

通常、妊娠から出産までの期間に行う検診の回数とその内容は、
初産婦:11〜12回の保健師による検診、2〜3回の医師による検診
経産婦:保健師の検診は同じ。1〜2回の医師による検診
となります。完全予約制で、いずれも30分から1時間30分とたっぷりと時間をかけて検診を行います。

ネウボラと病院での検診内容の違い

フィンランドでは、妊婦健診における保健師と医師の役割が明文化されています。

保健師は、ネウボラにて妊婦の体重、血圧、血液検査、尿検査、子宮底長と腹囲の測定、ドップラー心音計で胎児の心音測定。そして日常生活の指導などを行います。これは全て無料です。

医師は、通常ネウボラへ出向するか妊婦に病院へ来院してもらい、主に超音波検査などの高度な検査を行います。これは前回のコラムに書いたように国の法令の下に各地方自治体で決められた費用がかかります(これも自治体によって費用額などが異なります)。

つまり、日本のように毎回産婦人科医にて超音波検査で胎児が確認できるのではなく、約10カ月の妊娠期間でたったの2〜3回しか胎児を確認することができないのです。頼りになるのは、ドップラーで測る胎児の心音のみ。ちなみに私は高齢出産ということもあって、強い希望でなんとかそれでも計5回の超音波検査を行いました。

またネウボラでは、両親学級や出産状況のビデオ(無痛・和痛分娩の説明なども含めて)の上映、さらには出産室の見学などがあります。仕事帰りに参加できるよう、夕方以降の時間に開催されるのは、共働き家庭が多いフィンランドならでは。こちらでは出産時に父親が立ち会うのが普通なので、多くの夫婦が揃って参加していました。

そして実際に出産する病院へ行くのは、医師による超音波検査の時と出産室見学の時の数回で、その後は産気づいたらそのまま直接病院へ入院となります。ネウボラと病院が同じ敷地内にあるところもありますが、ほとんどがそれぞれ別の場所にありますから、検査の時に病院内などを少し把握しておく必要がありました。

ちなみに、我が家を担当した保健師さんは、この道20年の大ベテランでした。当時、フィンランド語がまだ理解できない私に流暢な英語で親切丁寧に説明をし、また高齢出産ということもあり、あらゆるリスクの心配などの相談事にものってくれました。我が家の全信頼を預けた「ネウボラおばさん」(フィンランドではネウボラの保健師たちのことを、愛着を込めて"Neuvola Täti"と呼んでいます)へは、今でも何かの折には子どもの成長を報告しています。

出産後のネウボラとは? Lastenneuvola(育児相談所)

無事に病院で出産し、5日後に退院した我が家に、先のネウボラおばさんが訪問してきました。この自宅訪問が2回ほどあった後に、我が家はこのネウボラおばさんから育児相談所の担当者へ代わりました。ここから毎月の新生児の定期健診が始まります。妊娠中にもらった母子手帳は出産までで、ここからは "Lapsuusiän Terveyskortti" (乳幼児手帳)に健診結果などを記録していきます。

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左側が乳幼児手帳、右側が母子手帳

保健師による定期健診は1歳までは毎月行い、主に新生児の体重、身長、頭囲の測定、各種の予防接種などです。1歳児は半年ごと、2歳児以降は1年に1回となります。もちろんこの間にケガや病気になれば、ネウボラへ相談し、必要あれば病院へ行くことにもなります。医師による健診は、産後4〜8週目、4ヶ月目、8ヶ月目、1歳半児、4歳児の時に行います。

産後1年間は母親の体調の問診もありますが、何か問題あれば実際には自分で居住地区の医療センターへ通常の診察同様に自分で予約を入れることになります。

母子だけではなく家族全体の支援が目的

育児相談所は、母親だけではなく、産後直後から家族全員の育児に関する支援が主な目的です。

まずは産後直後から定期的なアンケートを実施します。内容は、産後の母親の精神的および体力的な状態に関することに始まり、育児が始まった直後の生活の様子(生活が劇的に変化すると日常生活にどんな支障が出てくるか、また夫婦間で何か問題があるかなど)、半年を過ぎた辺りからは乳幼児が生活するための安全性を目的とした住環境に関すること、などがあります。

また就学が始まるころになると、子どもの精神的や身体的障害などの問題が出てくるので、こうした内容のアンケートを実施して早期発見を行い、必要あれば専門医との連携支援を行っていきます。そしてアンケートの結果は、保育園や幼稚園、小学校などの担当教師へも共有され、何かあれば学校との連携も行います。

とくに産後直後は、家族全体への支援が必要となる家庭も多く、例えば新生児からの不眠障害や家族が育児に参加しないなどの問題があります。そのような場合は、不眠障害であれば月齢別の "Unikoulu"という日本で言うと「ネントレ」のような施設を紹介されたり、家族の育児不参加であれば "Ensi ja Turvakotien Liitto"という母子シェルターと呼ばれる施設で一時的に他の家族員と離れて保健師などの支援の下で母子だけで育児をする施設を紹介されたりします。

フィンランドの男性は、比較的に育児に参加する傾向があると言われますが、もちろん中には参加しない人もいます。時に父親のアルコール中毒からくるドメスティック・バイオレンスなどの社会的な問題とも関係してくるので、ネウボラを家庭問題の早期発見および支援の窓口として必要に応じて各専門医との連携支援を行っていきます。

ですから、ネウボラを訪問するのは母子だけではなく、夫婦揃ってくる家族や、母親が働いている日時などは代わりに父子で訪れる家族もいます。

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待合室には電子レンジなどが置いてありミルクや離乳食を温めることができます(ちなみにフィンランドの市販ミルクは液体ミルクです)。

日本的ネウボラ構想について

日本でもこの4月から「子ども・子育て支援新制度」がスタートし、「日本版ネウボラ構想」が始まりました。社会構造が違う国のシステムを移植することについて賛否両論はありますが、ネウボラの考え方は少子化まっしぐらの今の日本には必要なことではないかと思います。

しかしネウボラだけを移植しても根付かないですし、そもそも現状上手くいっているところは無理矢理移植する必要はないと思います。家族全員の背景(例えば父親の勤務先の育児支援など)をも含めて子育てする環境を整え、そして地域のネウボラと連携して初めて、ネウボラの効果が出てくるのだと思います。

つまりネウボラ側が担当保健師のみで、相談にくる家族側が母子のみ、という当事者同士だけの繋がりになっては意味がないと思います。ネウボラ側は専門医などの医療従事者および必要に応じてカウンセラーなどとの連携とそのバックアップ体制の整備と強化、そして家族側は父親や兄妹など家族全員の参加を含めてこのネウボラを利用することで、フィンランドから移植した意味、そして本来のネウボラの価値が活かされると思います。

私がここで経験している中で、日本の育児に一番必要だと思うのは、母親だけではなく家族全員の育児への理解と参加そして支援であると思います。そしてその支援は社会全体で行うものだと思います。

ネウボラはそのきっかけとして、日本の家族みんなでネウボラへ行く日が来ることを今から願っています。

藤原斗希子

Writer 藤原斗希子

CSR(企業の社会的責任)/Sustainabilityに関するリサーチャー兼アドバイザー。2013年より在住。現在、フィンランド人の夫と育児中。
リズムーンでは、「世界から届く多様な生き方のヒント(フィンランド編)」にて、現地の暮らしぶりやフィンランドからみた日本についてなどを連載中。
ホームページ:「今と未来のあいだ」https://actokin.com/

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