自分の経験やノウハウをいつか本にするために知っておきたいこと〜前編

フリーランスの皆さんのなかには、自分が経験してきたことや編み出してきたノウハウを、本というかたちで多くの人とシェアしたいと思っている方もいるかもしれません。そこで、出版経験のない人たちにも広く門戸を開こうと出版支援をしているNPO法人「企画のたまご屋さん」の共同代表・小島和子さんに、いつか本を出すために知っておきたいことをお聞きしてきました。

本を出版するなら、どの方法を選ぶ?

出版にはいくつかの方法があります。
一般に本を出すというのは「商業出版」で、出版にかかる費用は出版社が負担し、本が販売されたら、著者は印税として売上の一部を出版社から受け取る仕組みになっています。商業出版は「商業」ですから、出版社や書店にとって商売として成り立つだけの部数を売れる本でなくてはなりません。

全国の書店に流通させる必要がない場合には、自費出版という方法もあります。多くの場合、出版にかかる費用を著者がすべて負担するもので、個人の作品集や企業の社史、専門分野の研究書などに多く見られます。そのほか、出資者を募って資金を集めるブックファンドといった仕組みもあります。最近では電子書籍が普及し、紙にこだわらなければ、誰でも手軽に本を出せるようになってきました。

とはいえ、なるべく多くの人の手元に本を届けたいと思うなら、オンラインでつながれない人たちにもアクセスでき、流通量の多い商業出版を目指したいですよね。ただし、商業出版は簡単ではありません。

出版社の8割以上は東京に集中

商業出版では、出版社と著者の双方にメリットがなければいけないので、思いに共感し合える出版社との出合いが重要になります。では、最初の関門となる出版社は全国に何社ぐらいあるのでしょうか。

正解は約3,500社。10年前には4,000社あった出版社もずいぶん減ってきてしまいました。生き残りをかけた厳しい状況のなかで、出版社も本当に売れる本かどうかを慎重に判断しています。

「素性の知れない人から突然、企画書が送られてきても、編集者が読むとは限りません。だから、何かしらの伝手を使ってお渡ししないといけない。でも、出版社にコネをつくるのはそう簡単ではないんですね。出版社の8割以上は東京に集中していますから、地方にお住まいの方にとっては、出版社に知り合いがいるという状態は稀ですし、まして海外にお住まいだったら日本の出版社にはアクセスしにくいでしょう。そうした、地方や海外にお住まいの方、出版に不利とされている初めて本を出される方にも出版の機会を提供するということが私たちのミッションなんです」と小島さん。

無名の人にも商業出版への道を開くための出版支援サービスには、出版コンサルタントによるものや出版社が事業の一環で行なっているものなど、さまざまなサービスがあります。そのなかで唯一、NPO法人として出版を支援しているのが「企画のたまご屋さん」です。

企画のたまご屋さんの仕組み

「企画のたまご屋さん」は、世界各地にいる、本を出したい著者候補と、出版社の編集者の間をとりもつプロセスを、すべてオンラインで完結できるサービスです。

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企画のたまご屋さんの仕組み

まず、本を出したい人から寄せられた企画の中から、企画のたまご屋さんの出版プロデューサーが、出版社の編集者に紹介したい「企画のたまご」を厳選。編集者の目にとまりやすいよう企画書を整えたのち、編集者が登録しているメーリングリストに毎朝企画を配信します。

これは!と思った出版社の編集者は、企画のたまご屋さんへ連絡し、出版プロデューサーは著者候補の方と編集者との打ち合わせをセッティングします。出版社の企画会議を経て正式に出版が決まれば、やりとりの主役は著者と出版社に。出版プロデューサーは刊行されるまで、つかず離れずの距離で見守ります。

本当に誰でも出版できる?

「企画のたまご」は実際に、どのぐらいの確率で本になるのでしょうか。小島さんにお聞きしてみると、「変動も大きいのですが、最近では配信したものに対して15〜16%ぐらいですね。編集者に配信できるのが、応募のあった企画のうちの半分ぐらいなので、そこから考えるともう少し減りますが」とのこと。それでも、企画のたまご屋さんがこれまで11年の間に出してきた本は、現在443冊。毎月3〜4冊を世に送り出している計算になります。

「これは私が担当したんですが」と小島さんが見せてくださったのは、「場面かんもく症」を体験したイラストレーターが自分の経験を綴ったコミックエッセイ。

「場面かんもく症というのは、特定の場面で言葉が出なくなる症状で、子どもがかかりやすいと言われています。この著者の方は、今はもう克服されているのですが、ご自分の体験を本にするというのは勇気の要ることですから、おひとりで出版社に売り込みに行くのは大変だったろうと思うんです。おつなぎできて良かったと思います」と小島さん。ニッチな分野の本ではありますが、このコミックエッセイは現在も販売されていて、場面かんもく症のお子さんがいるご家庭や、かつて場面かんもく症に悩んだ人たちを勇気づける貴重な一冊となっています。

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本を出すための第一歩は、出版社との出合い。たくさんの出版企画のなかから、これを本にしたいと編集者に思ってもらわなくてはなりません。
次回は、出版の確率をあげるためにはどんな企画書をつくればよいのか、編集者の心をつかむ出版企画書の書き方のポイントをご紹介します。

もっと詳しく知りたい方はこちらのセミナーもCHECK!

リズムーンでは、今回お話を伺った小島さんを講師にお迎えして、出版セミナーを開催します!
日時は、8/5(水)19:00〜@the c(淡路町)にて
本を出すために何かしてみようと思われた方はぜひご参加ください。
「いつか本を出すのも夢じゃない。出版企画の「基本」を知るセミナー」の詳細&申込はこちらから>>

今回お話を伺った方

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小島和子さん
NPO法人企画のたまご屋さん共同代表・出版プロデューサー)
フリーランスのライター&エディター。最初に勤めた出版社で約10年間、語学書や旅行記など、異文化にまつわる書籍を中心に編集を手がける。環境をテーマにした本づくりをきっかけにキャリアチェンジ。政府系機関やNGOで環境問題に関する情報発信に携わるなど、出版業界以外の経験も豊富。近ごろは東北復興の取材で現地に足を運ぶ機会も。共著『つながるいのち―生物多様性からのメッセージ』。

本多小百合

Writer 本多小百合

ライター・Rhythmoon編集部メンバー
建材メーカーで広報誌や販促物の企画・製作・進行等に携わった後、ランドスケープ系の団体で主に機関紙の編集に従事。結婚を機に、全国どこでも働けることを目指してフリーランスライターを志し、目下独立準備中。リズムーンでは、同士であるフリーランスを目指す方を応援できたらと思っています!

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