出典:Mikon Blogi
フィンランドでは新学期が始まり1カ月半近く経ちますが、今週から来週にかけて国内各地で秋休みになります。日本の学校よりも休みが多いのに、なぜ教育水準が高いのか。以前からフィンランドの教育制度について日本国内で注目を浴びているようですので、既にご存知の方も多いかもしれません。
先日、日本では教育再生実行会議が設立されて、抜本的な教育改革に乗り出すと聞きました。これからの社会は予想もつかない大きな社会変動が起こることを前提に日本の教育を変えていこうとしているようです。
その際にフィンランドの教育システムが参考になるのでしょうか。そもそもフィンランドの教育とは、日本の教育やそれらを取り巻く環境と何が違うのでしょうか。そこで今回と次回の2回にわけて、日本の将来の教育を考える上で、フィンランドの教育現場やその環境について簡単に紹介したいと思います。
人的資源を第一に、質の良い人材を育てる
フィンランドはわずか540万人の小国家。1990年代の経済危機を脱出し、国際社会で渡りあっていくためには人的資源を第一と考え、国民全体の教育水準を高める教育制度の抜本的な改革が行われました。
国民に高等教育の機会が与えられるようなさまざまな制度や、教育を担う教育者の質を高めるための教育者の再教育など、質の良い人材を育てるための投資を行いました。その結果、教師は修士号保持が基本条件となり、教師という職業の社会的地位が高くなりました。こうした高等教育を受けた教師には、授業の内容や進行などすべて教師の裁量に任せられています。
以前教育大臣を務めた人が
「教育で大切なことは情報を与えることだけではない。自分で考える力や問題解決能力、想像力、理解力、適応力を養うことだ」
と話していたようです。
少人数制で一人ひとりの個性を引き出し、尊重する
一人ひとりの教育水準を高めるには少人数制を導入することは日本でもよく取り上げられていますが、ここフィンランドは徹底して1クラス20〜25名に抑えています。もし25名以上の多人数になる場合は1クラスを2つにわけることになります。
このような少人数制だと、生徒一人ひとりの学習発達状況が詳しく分かるため、飛び級や留年(*1)などの制度が義務教育段階で行われています。また、勉強の伸び悩みや学習発達障害がある生徒には、専門家(一般的にはリハビリテーション専門家と言われる方々)のサポートがつきます。これは一人ひとりの学習状況を見て、その生徒に合ったカリュキュラムを組むマルチプロフェッショナルチーム体制が整えられています。このような教育現場におけるサポート体制は、フィンランドの教育制度の特徴だと言えます。
授業時間が世界一少ないのに教育水準は世界一
フィンランドの教育が注目された評価結果の一つであるPISA(国際的な学習到達度調査)によると、年間の授業時間は調査国中、もっとも少なかったと報告されています。例えば、小学生の授業時間は、日本だと年間700時間以上なのに対して、フィンランドの小学校低学年では500時間台、高学年では600時間台という結果になっているようです。
学校の宿題はほぼ毎日出ますが、2カ月半の夏期休暇など長期休暇中の宿題は一切ありません。こんなに授業時間数が少なく、また宿題も長期休暇には一切ないにも関わらず、フィンランドでは塾や家庭教師など学校以外の特別学習はほぼ皆無(*2)です。
これは「学校とは勉強をするところ」という認識がフィンランド社会に浸透しているため、宿題を忘れたり生徒の学習意欲が落ちるなどの状況になると、学校側がそのサポートを行うことが徹底されています。
さらに前述したようにフィンランド社会における教育の重要性が高く、教育を行う場は学校でクラスの担任教師であり、その教師にすべての教育を任せている、という認識があるからだと言われています。
ちなみにフィンランドの学校には部活動がありません。スポーツや文化活動などは地域単位で行われるもので、学校から帰宅してからその活動を始めるのが一般的です。これも「学校とは勉強するところ」という認識と、他の地域の友達や年齢を超えた交流ができるなどという利点があるようです。
フィンランドの小中高の教科書は、小中学校用は使い回して使用するため無料、高校用は本屋さんで購入というシステムになっています。写真は高校生向けの教科書が本屋さんで販売されているところです。
マイナー言語ならではの外国語習得率の高さ
フィンランド語は、人口540万人の話者のみが話すと言われ、語学の市場においては小規模な言語です。ということは、他国とのコミュニケーションを取るための語学の習得が必須と考えられています。そんなわけでフィンランドでは、小学校2、3年生から第一外国語として多くの生徒が英語を学び始めます。近年では、英語のほかに選択授業としてドイツ語やロシア語、スウェーデン語など近隣諸国の言語を設定している学校もあります。
中学に入るとスウェーデン語が必修科目に加わり、高校になると第三外国語が入ってきます。その後はもう本人の希望次第で第四外国語やそれ以上の言語を学ぶ生徒も多いです。
ですからフィンランド人で四カ国語を話せる人は珍しくありません。一般的には、公用語であるフィンランド語とスウェーデン語、それに英語の三カ国語を話す人が多いと言われています。
それもそのはず。フィンランドのテレビ番組には他国の番組が多く放映されているからです。ドラマや映画など全て吹き替えなしの字幕放送が多いので、字幕を見ながら耳で他言語を聴き取る機会が多く、そのような状況から言語を学ぶことができます。
実際、就学前の子ども用には吹き替えが施されている番組が多いですが、小学校低学年ぐらいになると字幕に切り替えられています。そうすると、字幕(母語であるフィンランド語)を読むための読解力が養われていくと言われています。
このように机上だけではない学習環境が、子どもたちの興味や勉強へのモチベーションへと繋がっています。
子ども向けのテレビ番組。上段がフィンランド語、下段がスウェーデン語。左側が3歳以下の乳幼児用、右側が就学前の児童用のプログラムです。これらの中にはフランス、カナダなどの番組がありますが、就学前の子ども用ですので、フィンランド語に吹き替えられています。
次回は、教育の先にある就職(仕事)との結びつきや生涯学習について紹介したいと思います。
*1 : 留年は、親御さんや専門家たちと相談して生徒本人を尊重し、ゆったりと本人のペースで勉強して身につけていくことが大切だと考えられています。
*2 :教育ビジネスは皆無ですが、大学の医学・法学・商学部を目指す学生向けの予備校だけが存在するようです。しかし大半は自力で大学入学を遂げています。