やり直しがきく、個を尊重したフィンランドの柔軟な教育システム

フィンランドは冬時間に入り、いよいよ日照時間が少ない極夜の季節となりました。この季節、朝起きても真っ暗。それに加え朝晩の気温がマイナスとなる日が増え、室内が暖かいとは言え、この時期は北国の自然の厳しさを実感します。

さて前回はフィンランド教育の特徴について簡単にご紹介しました。小国家であるため、国際社会で生き残るために国民一人ひとりの能力が国の重要資産であると位置づけて教育に力を入れてきました。今回は、そうした教育方針を土台として実際就職するまでにはどういった過程を経ていくのか。また働きながらでも学べる「生涯学習」についてもご紹介したいと思います。

進路に迷ったら、義務教育をもう一年受けられる

下図をご覧の通りフィンランドの学校制度は、日本の義務教育と同じように9年間の義務教育(初等教育6年間、中等教育3年間)を経て、高等教育または職業訓練学校へ入り、学術志向の大学、さらには大学院、または職業志向の専門大学、さらにはその大学院という制度が設けられています。ちなみに、高校入試はなく、9年間の義務教育の成績を基に願書を提出して合否が決まります。

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こちらを元に筆者がアレンジしたフィンランドの学校システムの図

こうして見てみると、日本と同様に義務教育9年目である中学卒業の頃に自分の進路を決めますが、進路で悩んでいる学生も少なくないため、自治体によってはそのような学生を対象に職業ガイダンスを開いているところもあります。このガイダンスを受ける学生たちは、義務教育をもう一年受けるという10年目が設けられていて、じっくりと自分の進路を考える時間が与えられています

枠組みにとらわれない進学

義務教育が終わると、今度は自分の決めた進路で人生設計をしていかなければなりませんが、一度決めても途中で変わるのは良くあること。そういった状況に対処できるのがフィンランド教育の一つの利点だと思います。

例えば、高等教育(Lukio(ルキオ)=高校)と、職業訓練学校(日本でいうと専門学校の位置づけに近いかもしれません)との行き来ができたり、職業資格と大学入学資格試験の両方を目指すシステムが開かれていたりするため、この期間に自分はどんな人生を送りたいのか、将来何になりたいのか、ということ考えながら両方の教育を試すことができます。

ルキオに関していうと、日本の大学のような履修科目制が設けられた無学年単位制のため、2年で卒業する学生もいれば4年かけて卒業する学生もいます。そしてその柔軟性を活かして、生徒一人ひとりのニーズにあった教育を提供しつつ、近年では学習に関するカウンセリングやキャリア教育に力を入れています。

学術志向の大学については、基本的な卒業は修士号取得と考えられているため、在学期間が5年から10年と実に長くなっています。

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フィンランドの高校卒業は重要な国家試験として捉えられています。この試験をパスすると、卒業資格として写真の女学生たちが被っている白い帽子(Ylioppilaskakki=ウリオッピラスラッキ)を被ります。これを被ることはこの国では非常に誇らしいこと。卒業生がいる家庭では親戚や友人を家に招待して卒業を祝います。そしてこれが子どもの独立、日本でいうと成人式にあたり、ほとんどの学生たちは親元を離れて大学の寮などで一人暮らしを始めます。photo by ALKU

加えてフィンランドは現在、成人男性には、18歳から27歳までの間に6カ月から12カ月間の徴兵制が課せられています。そのため、例えば高校卒業して世界旅行へ出かけたり留学したりしてから兵役を経験し大学へ入学する学生がいたり、またはすぐに兵役を経験してから就職するも、もう一度勉強したいと大学へ戻る人もいたりと、大学生の年齢が実に幅広く、また卒業年齢も日本に較べるとかなり高くなっています。女性の場合、特に在籍中に妊娠出産を経験すると卒業までに時間がかかり、中には卒業にこぎつかない人もいるようです。

しかしこうしたことは、義務教育の始まりから大学までのほとんどの学費が高い税金でまかなわれて無料であるため、学費の心配や一定期間内での卒業などのプレッシャーがない分、のびのびと勉強できる環境があるからと考えられています。

一生涯をかけた教育

次に、日本でも盛んになってきている生涯学習についてです。フィンランドも同じく年齢に問われない学びの場が多くあります。それには幅広い選択肢や授業形態が用意され、内容は街のカルチャーセンター的な趣味の講座から大学の専門的な講義までと実に幅広いです。

ここ最近の方針としては、「2016年までに25歳から64歳までの成人27%が成人学習に参加し、4週間のインターンシップなどの実習に参加する」などと教育文化省が具体的な数値を掲げています。

というのも、日本の生涯学習の位置づけと少し異なる点として、現在フィンランドは経済不況に陥っている背景があり、失業者を少しでも減らすために職業訓練を受け、そこから職を得る機会を増やしているという状況があります。そしてフィンランドでは、こうした成人学習の経験が就職時に非常に重要視されます。

つまり「どこで何を勉強したのか」ということになり、それが一つの「資格」となって就職に有利になります。ですから、例えば掃除の仕事は掃除専門の学校で勉強していないと就職できない、という冗談のような現実があります。それほどフィンランドでは、「勉強」と「仕事」が強く結びついていて、ある意味、専攻や経験がものをいう「学歴社会」と言えると思います。

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フィンランド人はもちろんのこと外国人向けのコースも充実している生涯学習。特に外国人向けのフィンランド語講座は山のようにあり、それほど習得するのに難しいと私を含め参加している生徒たちは口を揃えて言っています。photo by COD Newsroom

これからの「フィンランド教育」

実はフィンランドの教育も今改革時代にあります。小学一年生からのプログラミング授業の導入や、第二外国語の導入時期を早めるなどの議論が展開されています。そして今最も熱い議論は、EU圏外の外国人学生の一部から少なくとも1500ユーロの年間授業料を徴収するという計画です。この徴収したお金でフィンランド教育のブランド力を世界へ輸出していく、などといったことが話し合われているようです。

ということで2回にわけて簡単にフィンランドの教育についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

フィンランドは小国家として生き延びるために、国民一人ひとりが迷いながら回り道をしてでもやり直しがきく教育環境を築き上げてきたのだと思います。そんな環境にいると、この国の教育とは「人生を生きていくための能力」「生き抜くために身につけなければならない力」を育んでいるのだと、個人的には感じています。

藤原斗希子

Writer 藤原斗希子

CSR(企業の社会的責任)/Sustainabilityに関するリサーチャー兼アドバイザー。2013年より在住。現在、フィンランド人の夫と育児中。
リズムーンでは、「世界から届く多様な生き方のヒント(フィンランド編)」にて、現地の暮らしぶりやフィンランドからみた日本についてなどを連載中。
ホームページ:「今と未来のあいだ」https://actokin.com/

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