世界初となるか!? フィンランドでベーシック・インカムの試験的導入

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フィンランドの年越しは、31日の午後6時から花火が解禁となり、いたるところで年越し花火を楽しむ人々で賑わいます。日本人にとっての花火は真夏の暑いときにビール片手に見物するものだ、なんて思いがちですが、ここ北国では寒風吹き抜ける中に打ち上げられる花火でゆく年来る年に思いを馳せるのでしょうか。photo via mail online

2016年の幕が明けました。2016年もフィンランドから様々な現地情報を発信していきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願いします!

今年のフィンランドは、なんといっても景気回復、失業率減少が何よりの優先課題です。それに関連して現在の社会福祉制度の見直しの一つに、昨年末に日本を含め世界中で話題にのぼった「ベーシック・インカムの試験的な導入」に向けた実験調査が開始されています。そこで今年最初のコラムは、フィンランドのベーシック・インカムの試験的な導入に向けた動きについて、現地のフィンランド人へのインタビューも含めて紹介したいと思います。

ベーシック・インカム(BI)とは?

ご存知の方も多いと思いますが、BIとは、最低生活保障を国民に無条件で給付する制度で、自由主義の経済学者ミルトン・フリードマンが提唱した「負の所得税」(一定の課税所得以下の国民は政府に税金を収めず、逆に政府から給付金を受け取る)を簡素化したものと言われています。これが導入されると、現行の社会福祉保障である失業保険や育児給付金などはすべて廃止されます。

なぜフィンランドに?

2015年の春から首相となった中央党のシピラ首相は、このBIのパイロット研究を政府の改革プログラムの1つとして掲げてきました。不景気で失業者が増え続けている状況を改善する手段の1つとして、現行の複雑な社会福祉制度を簡素化かつ効率化し、公務員の数を減らすことが目的と言われています。

実験調査の中身は?

国レベルでの壮大な社会実験とも言われ、科学的に信頼性の高い結果と証拠を得るために、さまざまな世帯において実験を進める必要があります。現在のところは、首都ヘルシンキのような過密地帯と北極圏内の北部地方の過疎地帯における世帯に、ランダムにサンプルを取るなどの選択肢が上がっているようです。

想定されるターゲットグループは、労働年齢人口、とくに子どものいる世帯は家族手当が支給されているため、BIの受給対象となります。この他には、失業者、起業家、そしてフィンランドの学生は教育奨励金が一般的に支給されているので、これも負の所得税とみなされBIの対象となります。

予想支給額は800ユーロ(約11万円)という報道がありましたが、実はこれも決定ではありません。現在のところもまだ議論中で、初回は550ユーロ(約7万5千円)ぐらいからという議論も展開されているようです。

現地の人々の反応は?

さて決定的なものは何一つない中で、現地のフィンランド人はどう考えているのか。実際に聞いてみました。

もちろん導入してもらいたいけれど、今の政権(中央党)から国民連合党や真のフィン人党などへ右傾化する可能性があるから、導入の実現については正直わからないな。(70代男性、退職者、既婚、子ども3人)

導入には賛成だが、米国の医療システムへ転換する恐れがあると懸念している。長期に治療を必要とする不意の事故や病気になっときの医療費はBIの支給額でカバーしなければならない。もちろんこれのみではカバーしきれないから貯蓄がある人は支払えるけど潤沢な貯蓄がないと、とくに高齢者や高度な医療を必要としている人々にとっては逆に苦しくなると思う。そうなると社会の格差がぐんと広がるだろうな。(30代男性、会社員、既婚、子どもなし)

昨今の失業者たちはもうお先真っ暗で一日中呑んだ暮れている人が多いです。ですからこの現状を変えるには、給付金を一人ひとりの裁量に任せるBIの導入は効果的だと考えます。私は3人の子どものシングルマザーですが、社会保障システムとはもっと国民一人ひとりの生活に寄り添った必要不可欠なものでなければならないと思います。(40代女性、大学研究員、シングルマザー、子ども3人)

ここは小国家で人的資源が豊富ではないから、将来を生き抜くための改革の一つだと思うよ。小国家だと何か新しいことを常に生み出して試していかないと僕たち生き残れないからね。もし導入されたら自分の生活考えちゃうよ。今働いている業界は市場が小さいから(業界だけでなく国全体と言えるけれど)、今より仕事を減らして何か別の仕事を探すかもしれないな。(40代男性、会社員、事実婚、婚外子2人)

現行の社会保障は、労働人口全てがフルタイムで定年まで働き続けることを前提にした制度で、パートタイムや短期労働、そして失業者が増え続けている現状下では、もうこの制度の保障という機能はなくなってきています。私は現在失業中で失業手当をもらっていますが、そこから税金22.5%も取られているので、非課税であるBIは今後10年の間には正式に導入して欲しいと願っています。(30代男性、社会学研究員で求職中、独身、子どもなし)

いくつかの給付金を申請するのに何枚もの書類作成に時間がかかったあげく、それぞれ満額の給付金が貰えない現状は、失業者や学生にとっては労働意欲などの将来へのモチベーションが下がるので早く変えて欲しいと思います。(30代女性、会社員、既婚、子ども1人)

僕は今学生で教育奨励金をもらいながら、パートタイムの仕事をしています。そして結婚して2人の子どもがいるので、国からの給付金の受給者としては一番多くもらっているように思われますが、パートタイムの給与をもらっているので他の給付金との兼ね合いでかなり控除されています。以前なら学校を卒業して就職して結婚して子どもができて、退職してこの世を去る、というのが主流でしょうが、もうこのような生き方が普通というのは通用しなくてなってきているので、BIこそさまざまな人生を支える社会保障システムになってほしい。(20代男性、学生、既婚、子ども2人)

いかがでしたか?

最新の世論調査では、人口およそ540万人の半分以上がBIの考え方および導入に賛成という結果が出ています。その68%が「起業しやすくなる」と答え、63%が「現行の社会保障に関わる役所仕事が減る」と答えています。

試験的な導入に向けた今後の予定は、まず3月末ごろに実行可能な研究結果が出て、11月半ばにはその最終結果が発表されます。そして来年2017年から翌年18年の2年間に試験的に導入。2019年にはその導入評価をまとめるという計画のようです。研究結果や何か新たな動きが出てきたら、またお伝えしていきたいと思います。

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藤原斗希子

Writer 藤原斗希子

CSR(企業の社会的責任)/Sustainabilityに関するリサーチャー兼アドバイザー。2013年より在住。現在、フィンランド人の夫と育児中。
リズムーンでは、「世界から届く多様な生き方のヒント(フィンランド編)」にて、現地の暮らしぶりやフィンランドからみた日本についてなどを連載中。
ホームページ:「今と未来のあいだ」https://actokin.com/

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