TPPで著作権が変わる! クリエイターがチェックすべきポイントは?

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photo by Horia Varlan

昨年末、リズムーン編集会議でこんな会話が交わされました。

「この間、著作権に関する記事を見かけて、TPPが・・・」
「ん? TPPって農業の話じゃなかった???」
「いや、TPPで著作権も変わるみたい。」
「へぇ〜!!」

「これは関係ないと思って見逃している人が多いかもしれない!」ということで、急遽このコラムをお届けすることになりました。「私も知らなかった!」という方に向けて、今からでもTPPの著作権に関するニュースに追いつけるような入門編をお届けします。

さて、まずはザッとTPPについて復習しておきましょう。

TPPとは?

TPPは、太平洋をとり囲む複数の国で手を組み、その仲間うちで貿易をしやすいように関税や規制をゆるめて経済を活発にしよう、という構想です。正式名称は「環太平洋パートナーシップ」で、参加国は12カ国、実現するとEUを凌ぐ大きな経済圏になります。

TPPに参加すると、これまで守ってきた農業についても関税をとり払う必要があるため、日本は参加をためらっていました。ですが、「本当に規制を全撤廃しないといけないかは考えてもいいから参加してほしい」という働きかけに応じて、2013年にTPP交渉への参加を決めました。

当時は、「安い農産品が入ってきたら困る」という立場の人からの反発が多く、TPPといえば農業に焦点をあてた報道が主流でした。そこで「TPPって農業の話でしょ?」というイメージが強くなってしまったわけですが、TPPで話し合っている分野は農業も含めておよそ30の分野に及びます。どの国もそれぞれに事情があり、自国で重視している分野は守りたいですし、安く売り込める分野は規制をなくしてどんどん輸出したいという思惑があります。

参加国のなかでもとくに存在感が大きいのはアメリカです。そのアメリカが何にこだわっているかというとコンテンツ産業、つまり著作権に関わる分野なんですね。世界一有名なネズミを生み出した国でもあり、映画大国でもあるアメリカは著作権に関わるルールづくりには強く言いたいことがあったのです。

注目はアメリカが主張した3つの要求

アメリカの主張の他にも著作権に関して検討されていることはありますが、まずは交渉の争点になったアメリカの要求をおさえておきましょう。

1 保護期間の延長

著作物は著作者が亡くなった後も保護期間があり、この間は自由に作品を使うことはできません。国によって保護期間の長さは違いますが、これを死後70年にしようというのがアメリカの主張です。ちなみに現在、日本の法律では死後50年になっています。カワイイ文化やアニメ産業など日本も得意そうに思えるコンテンツ産業ですが、これらが育ってきたのは最近のこと。作者も多くは存命で保護期間が今、20年延びても現状に大きな影響はありません。逆に、古い時代の著作物で稼いでいるアメリカにとっては、保護期間の長さは非常に重要なのです。

2 非親告罪化

現在は違法な複製が見つかっても、著作者が告訴しなければ犯罪者として処罰することはできません。これを著作者の意向に関わらず、つまり"親告(本人が自ら告げること)"がなくても違法なものが見つかったら罪を問えるようにしようというのが「非親告罪化」です。非親告罪になっても著作者がまったく知らないうちに訴訟が進んでしまうわけではありませんが、著作者本人は告訴するほどではないと考えている場合でも著作権侵害を裁判にかけることができるようになります。

3 法定損害賠償制度

著作権の侵害に対しては、侵害した人に賠償させる場合もあります。そのときにいくら賠償するかは、現在、日本では著作者が実際に被害を受けた金額を基本としています。著作物ひとつにつき何円という法律で決まった金額はなく、受けた損害を推定して金額を決めます。ところが、法定損害賠償制度ができると、裁判所が賠償金額を決められるようになります。

この3つの要求うち、2番目の非親告罪化については日本国内で"コミケ"に代表される二次創作の文化を阻害するのではないかという懸念が示されました。同人誌市場は2013年で732億(矢野経済研究所調べ)にのぼります。そこで、日本政府が交渉してセーフガードが設けられました。次の3つを満たしたものだけを非親告罪の対象として、後は例外にしようというものです。

その3つとは、

① 商業的規模で行なわれる 
② piracy(適当な日本語がなく海賊行為、違法な複製などと訳される)である
③ 市場で原著作物等の収益性に大きな影響を及ぼす

です。

では、どこまでが商業的な規模なのか、どういう行為が海賊行為にあたるのかという境界線はこれからつめていくところです。ビジネスに大打撃を与えたかどうかも判断が難しく、法律を改正するときに、どんな条文にするのかが注目されています。

著作権の仕組みが大きく変わる潮目

ところで、この新たな枠組みはいつから始まるのでしょうか。2015年にはTPPは大筋合意に至りましたが、まだこれから各国での準備が必要になります。議会を通して批准の手続きを行い、合意した内容と現在使っている法律との間にズレがあれば、TPPに合わせて法律や社会の仕組みを変えなくてはなりません。12カ国での話し合いが決着するのにも何年もかかりましたが、参加国がそれぞれの国に持ち帰って準備をするのにもかなりの時間がかかると予想されています。したがって、日常生活にどんな影響があるかというと具体的にはまだ見えないといったところが現状です。

ただ、アメリカが主張した著作権に関する3つの要求は、実はTPP以前から日本でも議論されていましたが、検討の結果、法改正に至らなかった内容でした。これらが一挙に実現するとなれば、日本の著作権の歴史のなかでも大きな事件になります。

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現在の日本の著作権法がつくられたのは1970年(昭和45年)。誰でも簡単に作品をつくって発信できたり、"コピペ"できたりする時代では当然ありません。時代に合わせて改定はしてきましたが、せっかくだからこの機会に著作権の仕組みを根本的に見直した方がよいのでは、という声もあがっています。

一生懸命つくった作品が変な使われかたをしたり、勝手に使われたりしないように著作者を守る一方で、誰もが作品を楽しんだり、活用したりする自由も奪わないようにするにはどうしたらよいか。TPPはそんなところに密接に関わっていたんですね。今後もどんな動きがあるのか見逃さないように注目していきましょう。

(記事監修:高円寺特許事務所 代表 弁理士 岡沢理華さん)

[参考文献]
日本貿易振興機構(ジェトロ)『TPP早わかりガイド〜TPP活用で広がるビジネスチャンス』
「TPP著作権問題とは何か。日本のクリエイティブに与える影響は?」『MdN』2016年1月号
「TPP協定と著作権法」『ジュリスト』2016年1月号 ほか

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本多小百合

Writer 本多小百合

ライター・Rhythmoon編集部メンバー
建材メーカーで広報誌や販促物の企画・製作・進行等に携わった後、ランドスケープ系の団体で主に機関紙の編集に従事。結婚を機に、全国どこでも働けることを目指してフリーランスライターを志し、目下独立準備中。リズムーンでは、同士であるフリーランスを目指す方を応援できたらと思っています!

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