フィンランドのリアルライフー医療・教育・男女平等編

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フィンランドでも最近、桜の切り花が花屋さんの店頭に並ぶようになりました。これを見ながら、日本の桜に思いを馳せています。Photo By utu.fi

イースター休暇が終わり、夏時間が始まったフィンランド。今年のイースターは小売店の休日営業が解禁され、ほぼ全店開店していました。いつもならひっそりと静まりかえっている街中が、いつになく賑わっていました。

さて今回も「フィンランドリアルライフ」について。医療や教育、そして男女平等など、私の経験やそれぞれの最新状況をお伝えします。

日本の医療サービスの良さを改めて実感

公立病院は長時間の待ち時間を要しますが、安価で受診することができます。私立病院はすぐに予約できますが、予約費用だけで80ユーロ! これに諸々の処置費用が加算されるのでとても高額です。以前の記事でも紹介しましたが、日本並の医療サービスを受けたい場合は、高額を払って私立病院で受診することになります。

私がこの国で受けた医療は、妊娠・出産、良性腫瘍種の塞栓術、歯科検診。年間一人あたりの医療費が振り分けられているので、それを基に支払います。妊娠・出産、塞栓術の手術は無料*1。出産と塞栓術の入院費は1日34.8ユーロ。塞栓術後の検査は32ユーロでしたが、2回で終了。日本だと完治するまで検診を行うところ、まだ2cmほど残ったままの状態です。

一人あたりの医療費の枠内はもちろんのこと、従来の医師不足もこういうところに影響が出ているのだと思います。歯科検診も毎回38ユーロぐらいでレントゲンなどを取ると80ユーロぐらいに。そんなわけで、日本の充実した医療サービスの良さを改めて実感しながら移住前よりも健康に配慮して生活しています。

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大学病院で出産直後に出てきたスナック。シャンパンに見立てたアップルサイダーとサンドウィッチ、それに果物スープみたいなものに牛乳と紅茶。日本の豪華な出産祝いの食事とは比べものにならないほど質素でお粗末なものでした。

*1 : その場では無料ですが、一人あたりの医療費内での利用度や収入などと相殺して、翌年の年末調整として追加払いする場合もあります。逆に振り分けられている医療費分を利用しなかった場合、その分多く税金を支払っているため年末調整で戻ってきます。

将来の生き残りをかけたプログラミング教育

こちらも以前の記事で紹介しましたが、文房具から給食まですべて無償の義務教育が整っています。修士号が必須な教師は、授業のカリキュラムをすべて一任されているので、教師の当たり外れがあると言われています。

今年は10年に一度のカリキュラム改正の年。日本の小中学生にあたる児童を対象にプログラミング教育が導入されます。目的はプログラミングに興味を持つことで、プログラマーを育てることではない。それは国家の生き残りをかけた戦略で、将来の人的資源の確保や国際競争力を保持するための一施策なのです

しかし現場で教える教師たちの間では、IT教育の経験が豊富でないと力量不足とされるため、オンラインコースなどで必死に独学している様子。親御さんたちの間では「もっと他にやるべきことがあるのに」という声もあるようですが、人口550万人の生き残りをかけて先手を取っていくことが必要なのかもしれません。

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子ども向けにプログラミングの仕組みを解説した絵本"Hello Ruby"。創始者はリンダ・リウカス氏。先日、在日フィンランド大使館でプログラミングのワークショップがあったようです。プログラミングのワークショップ「レイルズカールズ」や起業イベント"Slush"や"TED"でも大人気のプログラマー兼イラストレーター。

男女共同作業で成り立ってきたフィンランド

フィンランド語の"Kotiäiti"(コティアイティ)とは「専業主婦」の意味ですが、ここではあまり使われません。使うとしたら、よっぽどの裕福な夫人か労働意欲がない女性、と捉えられてしまいます。それは、日本とほぼ同じ面積でありながら、人口は約20分の1(550万人足らず)で、戦前から男女ともに共働きをしなければ国の存続が危ぶまれ、女性も社会で働くことが当たり前とされてきたから

わが子の1歳検診の時に、小児科の女医さんから「あなたはいつから仕事に復帰しますか?」と訊かれました。これは「仕事を持っている」「その仕事に復職する」ことを前提にした質問で、それだけ女性が社会での確固たる地位を築いているとわかり、うれしかった記憶があります。

家事や育児は女性だけがやるのではなく、男性女性ともに、夫婦共同でやるもの。このような考え方が定着していますが、お互いの考え方ややり方を理解し合わなければ、チームワークは崩れます。子どもの送り迎えから、諸々の家事、家族と過ごす時間など細かく話し合って分担することが共働きの秘訣だといいます。それでも家事や育児をやらない男性ももちろんいます。フィンランドは事実婚も多いですが、離婚率*2も高い国です。こうしたお互いの考え方などの相違からパートナー解消の一因となるようです。

*2 : 例えば35歳から39歳の既婚女性の離婚率は約25%(2014年) Resource by stat.fi

子どもは国の宝

80年近くも続く切れ目のない子育て支援のネウボラ。確かに定期健診が無料で6歳まで続くのはありがたいですが、教師と同じく担当者の当たり外れがものすごくあります。それに格闘している親御さんたちが実際少なくありません。

待機児童はほぼいませんが、入園の申請は数カ月前から必要です(自治体や家庭の事情などによる)。地域によっては一時的に待機を要しますが、保育園法で誰もが入園できる権利が与えられているため、長期間の待機はありません。ただし、失業者がいる家庭は自治体から在宅保育を薦められる場合もあるようです(2016年2月現在9.4%の失業率のため)。保育園へ行かなくても自治体などが主催する一時保育やシッター制度も充実しているので、どんな家庭でも多様な子育てができる環境です。人口が少なく公園へ行ってもやや人恋しいですが、わが子の場合、自分の庭のようにのびのび遊んでいるので子どもにはメリットかもしれません。

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マンネルヘイム児童福祉協会が主催する親子サークル。わが子が0歳のときに週1回参加していました。Photo by mll.fi

独立100周年に向けて次なるステージへ

来年はフィンランド共和国の独立100周年です。東の大帝国ロシアと西のスウェーデン王国に、歴史上、散々苦しめられてきたフィンランド。国家の生き残りをかけてサバイバル施策を次々と打ってきた結果、「世界一の教育大国」や「お母さんにやさしい国No.1」などの評価を受けました。

しかし長引く不況から、社会福祉制度の改革が始まりました。75歳以上の障がい者手当の有料化やEU圏外からの留学生に教育費を請求する法案などが検討中で、福祉国家の崩壊とも言われはじめています。一方、ベーシック・インカムの試験的導入は、25歳から63歳までの低所得者を対象として月額およそ550〜750ユーロの見込みとの最新結果が出ています。

どこの社会でも明暗な部分があるように、フィンランドももちろんあります。隣国に比べて人口が少なく、気候条件など不利な点が多い。そんな国家がここまでのし上がって来たのは、"SISU"(シス)のおかげだ、とも。"SISU"とは日本語で「フィンランド魂」*3

ここぞというときの底力はこうした整った社会制度をみれば一目瞭然。不況を脱して新たな社会制度を構築できるか。外国人として在住する筆者は、これからも母国との違いを受け入れながらこの小国家の制度のもとで生活していきたいと思います。

*3 : 他言語への定訳はなく、意訳として紹介しました。

藤原斗希子

Writer 藤原斗希子

CSR(企業の社会的責任)/Sustainabilityに関するリサーチャー兼アドバイザー。2013年より在住。現在、フィンランド人の夫と育児中。
リズムーンでは、「世界から届く多様な生き方のヒント(フィンランド編)」にて、現地の暮らしぶりやフィンランドからみた日本についてなどを連載中。
ホームページ:「今と未来のあいだ」https://actokin.com/

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