EUの未来はどうなる!? 加盟国フィンランドからみる英国のEU脱退

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photo by gigijin via flickr

フィンランドで重要な年次行事のひとつ、夏至祭が終わり、2カ月の夏休みも中盤に差し掛かっています。例年、夏至祭の前夜祭から夏休み気分が最高潮になるフィンランドですが、今年はあの英国のEU脱退が決定した日でした。朝からメディアはこのニュース一色で、いつもの夏至祭の雰囲気ではありませんでした。ということで今回は英国のEU脱退について。EUとは何か、そして今後のEUはどうなるのか、加盟国のフィンランドの反応なども含めてお伝えします。

そもそもEUって何?

EU(European United)「欧州連合」は、欧州連合条約により設立されたヨーロッパの地域統合体のこと。第一・二次世界大戦後の欧州の復興と平和、安定および繁栄を目的に1993年に発足されました。現在加盟国28カ国(英国の正式脱退前)。総人口およそ5億人。加盟すると、欧州域内での貿易関税の撤廃と域内の人・モノの自由移動の保障「シェンゲン協定」を結び、これにより欧州圏内の経済を活性化させることができます。

また単一通貨「ユーロ」の導入により、人口550万人の小国家フィンランドでも5億人市場のEUとして結束することで国際的な競争力が高められます。ちなみにフィンランドは、北欧諸国の中で唯一のユーロ圏加盟国であります(デンマークとスウェーデンは非ユーロ圏加盟国。アイスランドとノルウェーはEU非加盟国)。

EU統合への歩み

1950年

ロベール・シューマン仏外相が、ジャン・モネの石炭・鉄鋼産業の共同管理の提唱を具体化(シューマン宣言)

1952年

欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)設立(ベルギー、ドイツ(当時の西ドイツ)、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダの6カ国

1973年

英国が加盟

1993年

マーストリヒト条約にてEU発足

1994年

フィンランド国民投票でEU加盟可決

1995年

フィンランドが加盟

1999年

単一通貨「ユーロ」導入(2002年流通開始)
英国は非ユーロ圏、フィンランドはユーロ圏

出典:外務省「わかる!国際情勢」の表より筆者作成

肥大化し官僚主義となったEU

脱退のいくつかの要因にシェンゲン協定やユーロ導入のデメリットが大きな問題となっています。「シェンゲン協定」はシェンゲン領域内で「パスポートなしでの移動が原則的に認められる」もので、実際に加盟各国内で移民がどんどん増えています。またEU圏外からの難民も人権尊重の原則からEU加盟各国で協力し分担して受け入れることになります。とくに指摘されているのは、2004年に東欧諸国10カ国が一挙に加盟したことです。これにより今まで「鉄のカーテン」によって東西分断されていた欧州が一つとなりましたが、ビザ取得や生活水準の問題が出始めて移民問題が膨れ上がった結果となっています。

ユーロ導入に関しては、実際にはデメリットの方が大きな影響を及ぼしています。金融政策や為替相場の固定により域内の地域格差が生じるなど、こうした問題が懸念されることから、英国は非ユーロ圏を選んだといわれています。

もう一つはEU委員会です。そもそも欧州の復興と平和を目的とした連合国家だったのが、近年エリートたちの欧州統合「プロジェクト」化していて、EU委員会の官僚主義が目立ち始めています。28カ国を束ねるには連合国家として数えきれないほどの規制や法令をつくりました。しかし加盟各国は、欧州連合の規制、自国の規制、民間企業であれば自社のルールなど、その狭間で身動きがとれない状態になっています。実際私が出席したEU主催の環境関連の会議では、EU委員会メンバーのひとりが講演をした際に会場の参加者からブーイングが沸き起こっていました。規制の説明を長々としていたのもありますが、参加者からは「EU委員会は規制を作るだけつくってわれわれと対話をしない」と抗議がありました。こうした様子から、脱退の一因にEU委員会に対する不満もあると思われます。

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EU委員会がEUへの理解を促すために子ども向けに作成したEU全体の地図。地図上には加盟国のシンボルや国旗が描かれ、地図の左側は国旗とユーロ導入国にはコインの印。右側はユーロコインと紙幣。地図の上下には加盟各国の言語で「欧州連合」と書かれています。ちなみにフィンランド語では"Euroopan Unioni"(エウローッパン・ウニオニ)上段の三行目、右から2番目です。英国が脱退すると、この地図が変更される可能性があります。出典:EU Bookshop

フィンランドは残留派

英国の脱退がフィンランドに及ぼす影響は、実はさほど大きくありません。フィンランドにとって対英国よりも対ドイツの方が歴史的背景の上でも(第二次世界大戦時の枢軸国同士として)、総取引高においても(対ドイツでおよそ100億ユーロ、対英国でおよそ40億ユーロ)圧倒的に結びつきが強いからです。また、仮にフィンランドで同じように国民投票を実施した場合、約7割が「残留」派という調査結果が出ています。フィンランドは、英国と同じように国内の財政・経済問題を抱えここ数年不景気が続き、また加盟各国の共通問題である移民・難民問題もあります。しかし国際社会で生き残るためには、たった550万人の小国家が5億人市場から脱退することは、あまり現実的ではないと考えている国民が多いようです。人・モノ・サービスの自由な行き来や研究開発費などさまざまな恩恵をEUから受けているため、例え脱退することがあっても他の北欧諸国とともに歩むことが「フィンランドが生き残る一つの道」とフィンランド元首相が語っていました

先行き不透明なEUそして世界情勢

英国は脱退後、関税廃止や人・モノなどの自由移動、そして自由な資本取引を失います。今後はEUと直接交渉して経済を維持していかなければなりません。一方EUは、ユーロ市場でドイツに次ぐGDP2位の英国を失うので大きな痛手です。ちなみに日本にとっても、日本企業1000社が進出し約16万人の雇用を創出している英国が脱退すれば、欧州市場への戦略を見直す必要があると言われています。もしかすると、フィンランドよりも日本の方が大きな影響を受けるかもしれません。英国は数年前からEU脱退の気運が高まり、リスボン条約の改正や自由移動の制限、そしてEU委員会に対する改革を求めていました。しかしそれを拒絶したEU委員会。

EU発足後の翌年、夫をはじめとする周りのフィンランド人たちは国民投票でEU加盟に賛成の票を投じたといいます。一方私は、高校生でまだ見知らぬ欧州大陸が一つになると聞いて、日本から大きな期待を寄せていたのを憶えています。

正式発足から23年経過した現在、加盟各国の自国民、加盟国内の移民、私のようなEU圏外からの移民、そして難民。これらの多様性で形成されているEU。単にきれいごとでは済まされなくなった結果、発足後初の脱退国、英国を生んでしまいました。これからのEUはもちろん、世界情勢の行く末にますます目が離せません。

EUについてのより詳しい情報は、外務省ならび駐日欧州連合代表部にあります。

藤原斗希子

Writer 藤原斗希子

CSR(企業の社会的責任)/Sustainabilityに関するリサーチャー兼アドバイザー。2013年より在住。現在、フィンランド人の夫と育児中。
リズムーンでは、「世界から届く多様な生き方のヒント(フィンランド編)」にて、現地の暮らしぶりやフィンランドからみた日本についてなどを連載中。
ホームページ:「今と未来のあいだ」https://actokin.com/

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