STEM教育が鍵。第4次産業革命って何?

このシリーズでは、日本で起きている教育の動きについて、将来の社会や暮らしとの関係をお伝えしてきました。前回の記事から少し時間が経ってしまいましたが、今回と次回で、理系教育についての記事を前後編に分けてお伝えします。前編では、強化を求められている理系の学びSTEM教育と第4次産業革命のこと、後編では、必修化でも話題になったプログラミング教育などにまつわるお話をお届けする予定です。

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Photo By Jimmie

「産業革命」は、今も起きている

「第4次産業革命」をご存知でしょうか。これまでの日本の特徴的な"一問一答"風学習で言うと、たとえば、歴史では、「産業革命ときたら、18世紀イギリス!」と反射的に用語が頭に浮かぶトレーニングをするのが、学びのスタンダードだったかもしれません。

18世紀頃のイギリスで始まったとされる産業革命は、機械を使った工業で「革命」的な変化を産業界にもたらし、歴史上の重要事項とされています。しかし、その後も産業界には、いくつかの転機がありました。

そして、今の時代にも、新しい「産業革命」が起きているというのです。

「第4次産業革命」は、IT技術による変革

今回の第4次産業革命は、AI(人工知能)、IoT(モノに通信機能を持たせる"モノのインターネット")、ビッグデータ、ロボットなどのIT技術による変革と言われています。(諸説あります。)

日本政府は、今年6月に「日本再興戦略2016」を閣議決定しました。この戦略の一番のかなめが、「第4次産業革命」の実現なのです。「戦後最大の名目GDP600兆円」にむけての課題は次の3つ。これらは、これまでお伝えしてきた、教育改革が見据える社会課題と重なることがわかると思います。

●「日本再興戦略2016」が取り組む3つの課題
① 新たな「有望成長市場」の戦略的創出
② 人口減少に伴う供給制約や人手不足を克服する「生産性革命」
③ 新たな産業構造を支える「人材強化」

教育改革は、第4次産業革命への対応策という側面も持っていたのです。

総力あげて勝ち抜く。文科省も、経産省・総務省と連携。

政府は、「第4次産業革命に係るグローバル競争を、総力を挙げて勝ち抜く」としており、それほど事態が深刻だとも受け取れます。安倍晋三首相も「産学官の叡智を集め、縦割りを排した」(※)動きを求め、経済産業省、総務省、文部科学省(以下、文科省)などによる「人工知能技術戦略会議」の設置などが行われ、技術開発を進めていく方針です。「日本再興戦略2016年」では、「イノベーション創出・チャレンジ精神に溢れる人材の創出」として、次のような教育へのとりくみもあげられています。
※第5回「未来投資に向けた官⺠対話」より

「日本再興戦略2016」チャレンジ精神に溢れる人材の創出(一部抜粋)
・ 初等中等教育でのプログラミング教育の必修化(2020年~)
・ IT活用 による習熟度別学習
・ 高等教育での数理・情報教育の強化
・ トップレベル情報人材の育成

この中の、プログラミング教育やITについては、次回の記事でお伝えします。今回は、とくに、数理教育の強化と子ども達の教育について見ていきたいと思います。

高校〜大学院までの数理・情報教育の強化

今後、高等学校では、数学、物理、化学などの数理と、情報の教育体制が、抜本的に強化されるそうです。来年度できる、滋賀大学データサイエンス学部や名古屋大学情報学部など、学部や大学院も新設されていきます。若手の研究者の活躍を支援する計画もあります。

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Photo By Bryan Alexander

なぜこのような改革を進めるのか。それは、第4次産業革命に必要なのが、数理・情報の能力をもつ人材だとされているからなのです。

年収が高いのは保険数理士・数学者・統計家

次のランキング(右図)を見ると、アメリカでは、年収が高い職業の上位を、数学者や保険数理士、統計家、データサインエンティストなど、数理・情報を専門に扱う人材が占めていることがわかります。

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「次世代の産業技術イノベーション」とは、まさにビジネス界で見かける表現ですが、このイノベーションを起こすために、数理・情報分野の力が、ITのみならず、金融業やサービス業、建設業、アニメなど、文系理系問わずさまざまな業種で必要とされるというのです。

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Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、 Mathematics(数学)の頭文字を合わせて、STEM教育と呼ばれます。欧米ではすでに力が入れられているのに対し、日本は、この分野の教育・人材育成で立ち遅れてしまっているのです。

上図のように、日本の大学では、欧米に比べて、数理科学を専攻する学生の不足や、民間の研究者への道がないこと、応用数学や統計を専門分野とする数学者が少ないこと、IT技術者の多数が非情報系専攻の卒業生に占められていることなどがわかります。日本では、工学の研究は盛んで大学院も多いですが、情報系はその派生でしかなく、基礎となる純粋な数理科学の研究には重きをおかれず、弱くなってしまっています。

また、この分野を苦手とする女性が多いとされがちで、全体的に、女子への数理教育もあまり力が入れられていません。しかし、理系に強い女子中高一貫校なども見られますし、興味や能力を引き出して強化して育てることで、人数でも能力でも女性における伸びも見込めると思われます。

小さな頃からの育て方も考える

年齢の高い子どもだけの問題ではありません。STEM教育が盛んなアメリカでは、幼児期から教育プログラムが活発に開発・提供されています。数学や理科の論理的、科学的思考や、問題にとりくむ粘り強さなどを、大きくなってから急に育てるのもできないわけではないですが、難しい話です。

数学イコール計算というわけではありません。好奇心や数学的・科学的な思考の基礎が育まれる、小さな頃からの接し方や学ばせ方は、やはり大事になってくると思います。教育改革が大学や高等学校の教育にまずゴールを据えて進むなか、小さな子どもたちにむけた教育の形が現れるのはまだ先です。これからの時代にむけて、STEM教育の強化も意識した教育や子育てを、私たちは、考えていかなければならなさそうです。(後編に続く)

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Photo By Donnie Ray Jones

仙波 千恵子

Writer 仙波 千恵子

ライター・Rhythmoon編集部メンバー
大学時代に編集プロダクションでライターを始め、フリーランスに。結婚後、知的障がいの息子を含む3人の育児が少し落ち着いた時期に、新しい教育を追求して学習塾に勤務。その後再び独立し、教育、働き方、女性の生き方、地域などの取材記事の執筆や、教育コンテンツの開発、講師などをしています。東京郊外の高尾に在住。
http://fwook.net/

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