フリーランスが気をつけるべき、契約や支払いのトラブル【解決編】

まさかのトラブル!? どう対処する?

前回までの記事で、フリーランスにとって、日頃から契約や支払いのトラブルを回避することを考えるのはとても大切であることが、よくわかりました。それでも、トラブルが起きてしまったら......? 

今回は、報酬を不払いの状態にされてしまった場合の対処法を、司法書士・中野千恵子先生にお聞きしました。

prof_nakano2.jpg●司法書士 中野千恵子先生プロフィール
1970年埼玉県生まれ。専修大学法学部法律学科卒業。大学卒業後、民間企業(建設会社、通信会社)での勤務を経て、2006年(平成18年)司法書士資格取得。弁護士、公認会計士、税理士、行政書士との総合事務所、大手司法書士法人の勤務を経て、平成22年3月独立開業。LAE司法書士事務所代表。

段階を踏む形で、催促をしていく

編集部:万が一、仕事をしても報酬をきちんと支払ってもらえない、というトラブルが起きてしまった時は、どのようにしたらいいのでしょうか。

中野先生:最終的には法的な手続きを考えることになると思います。しかし、それは本当に最終手段で、まずやっていただくことは、とにかく、催促ですね。

いきなり「訴えますよ」というようなことを言うと、相手方の態度が硬化してしまうこともあるので、とにかく、電話などで催促をして、担当者がつかまらないと思ったら郵便を送ること。とりあえず、特定記録や書留で「送りました」という記録が残る形で送って、それでもナシのつぶてだったら、内容証明郵便を送る、というように段階を踏む方がいいと思います。

内容証明郵便は、「こういう内容のものを、この日に、こういう人に送りました」ということを郵便局が記録してくれるもの。支払いの法的な拘束力はありませんが、受け取ったほうは、「なんだか、大層なものが来てしまった!」と思う。それで、まずいと思って支払ってくれればいいですけれど。反対に怒って支払ってくれなくなることもありますね。

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法的な手続きも、自分でできることはしてみる

編集部:それでも支払ってもらえなかった時はどうしたらよいのでしょう?

中野先生:いよいよ法的な手段に訴えることになると思います。報酬の未払いのような裁判は、裁判所が扱う「民事事件」のひとつです。

しかし、裁判所の手続きを専門家に頼むと、未払いの額よりもお金がかかってしまい、費用倒れになってしまうこともありますよね。ですから、できる部分はご自分でしてみるのがよいと思います。手続き書類の多くは、裁判所のホームページに書式があります。

未払いの場合に可能な裁判所の手続きには、何種類かあります。普通の裁判のほかにも、金額60万円以下の場合に可能な少額訴訟手続や、話し合いで解決していく調停、支払い督促などです。これらの中から、ご自分でできそうなものを探して実行するというのでもいいと思います。

編集部:弁護士さんをつけないとできない、というものでもないんですね。

中野先生:専門家はいろいろな知識やテクニックを持っていますから、金額が大きくて相手も一筋縄ではいきそうもない、というような時には専門家に頼った方がいいかもしれません。でも、「費用倒れになってしまうから専門家に頼めない」ということで未払いの報酬をあきらめる必要はなく、ご自分で頑張るという選択肢もあるのを知っておくとよいと思います。

判決どおりに報酬を支払わない相手も!?

中野先生:ただ、裁判で有利な判決が出ても、絶対に支払ってもらえるわけではないことを忘れないでください。例えば、裁判所で「60万円の報酬を払いなさい」という判決を出してもらえたとします。でも、判決どおりに相手側が払ってくれるかどうかはまた別の問題です。裁判の判決は、強制執行をする権利を得たというだけの話なんですよ。

編集部:払わなかったら咎められるとか、罰金とかがあるということはないのですか?

中野先生:ないんです。

編集部:......。最終的に法的な手段をとっても、お金を払ってもらえるとは限らないのですね。

中野先生:裁判で満額にこだわったばかりに、まったくの徒労に終わってしまうこともあります。少し減額してもいいから確実に払ってもらえる方法で結論を出す、というように、どこで折り合いをつけるのかは決めておくとよいですね。

編集部:そこの判断は難しいですね。そういうアドバイスは、専門家の方にお聞きするといいのでしょうか。

中野先生:専門家は、「このくらいの金額で折り合いをつけた方が、損が少ないかもしれない」というアドバイスは出せます。でも、必ずしも専門家の話を聞いた方がいい、という話でもないと思いますよ。自分で納得できる形を考えることだと思います。

編集部:トラブルが起きてしまってときに、あきらめるだけでなく、自分でやれることがあるということを知ることができ、とても勉強になりました。3回に渡り、ありがとうございました!

仙波 千恵子

Writer 仙波 千恵子

ライター・Rhythmoon編集部メンバー
大学時代に編集プロダクションでライターを始め、フリーランスに。結婚後、知的障がいの息子を含む3人の育児が少し落ち着いた時期に、新しい教育を追求して学習塾に勤務。その後再び独立し、教育、働き方、女性の生き方、地域などの取材記事の執筆や、教育コンテンツの開発、講師などをしています。東京郊外の高尾に在住。
http://fwook.net/

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