"フリーランスと社会保障制度"について考えるこちらの特集。「時代背景編」「病気・ケガ編」と続き、3回目は、フリーランスが「妊娠・出産した場合」に注目します。
今回も比較するのは、民間企業に勤める"会社員"の社会保障制度。「フリーランスには産休も育休もない」とよく聞きますが、本当なのでしょうか?
まずは国の制度を知り、いつかお子さんを持ちたいと考えるフリーランスが考えておくべきことについて、ファイナンシャル・プランナーの氏家祥美先生に教えて頂きます。
Profile / 氏家 祥美さん
ハートマネー代表 ファイナンシャルプランナー
女性活躍応援FPとして、働き方や夫婦・親子関係も含めたマネーアドバイスが好評。お金・仕事・時間のバランスのとれた幸福度の高い家計を追及する。『いちばんよくわかる!結婚一年生のお金』(学研パブリッシング)ほか、著書・監修本多数。
https://www.heart-money.net/
会社員なら"出産手当金"と"育児休業給付金"がある!
まずはじめに、国の社会保障制度を確認しておきましょう。
<会社員の場合>
※「出産手当金」についての詳細は、ご加入の健康保険のHPをご確認ください。
※2017年10月1日から、最長2歳まで育児休業の延長が可能になります(参照:「平成29年雇用保険制度の改正内容について」(厚生労働省))。
※その他、育児休業についての詳細は「育児・介護休業法について」(厚生労働省)でご確認ください。
会社員が妊娠・出産した場合、産前6週間・産後8週間は「産前・産後休業」(以下、産休)が、産休終了後~子どもが1歳に達するまで(最長1歳6ヶ月まで延長可能。2017年10月1日からは最長2歳まで延長可能に)は「育児休業」(以下、育休)が取得できます。
この期間中、給与が支払われず収入がストップした場合は、産休中は「健康保険」より「出産手当金」(以下、産休手当)が、育休中は「雇用保険」より「育児休業給付金」(以下、育休手当)が支給されます。
しかし、フリーランスにはこれらの手当金の支給はありません。
<フリーランスの場合>
そもそも国の社会保障制度は「労働者」を守るために整ったもの(参照:時代背景編)なので、自分自身が事業主のフリーランスには産休も育休も、収入を補う給付金もありません。つまりフリーランスは、妊娠・出産を理由に仕事を休めば、休んだ分だけ収入がなくなってしまうというわけです。
しかも会社員は、休業中の健康保険料、年金保険料が免除される!
さらに、会社員とフリーランスでは「もらえるお金」だけではなく、「出て行くお金」も違います。
「会社員は、産前・産後休業、育児休業中の社会保険料(健康保険料、年金保険料)の支払いが免除されますが、フリーランスは、出産や育児を理由に休業し収入がなくなっても、社会保険料の支払いは免除されません※」
つまり、フリーランスは、妊娠・出産を理由に休業した場合、収入を補う給付金がないばかりか、出て行くお金(社会保険料)も多いことになります。
会社員 | フリーランス | |
---|---|---|
出産育児一時金※1 | ○ | ○ |
産前・産後休業/出産手当金 | ○ | ✕ |
育児休業/育児休業給付金 | ○ | ✕ |
休業中の社会保険料支払免除 | ○ | ✕ ※2 |
※1「出産一時金」は、子ども一人出産するにつき42万円が支給される一時金。フリーランスの多くが加入する「国民健康保険」「健康保険の任意継続」でも実施されています。
※2 2019年4月から産前産後期間(出産予定日の前月から4ヶ月間)は、国民年金保険料の支払いが免除されることになりました。
そもそも長く休むという発想が持てないフリーランス
では、産休(産休手当)も育休(育休手当)もなく、出ていくお金も多いフリーランスは、どのように妊娠・出産に備えていけばよいのでしょうか。
「そもそもフリーランスの方は、仕事を1年休むという発想がない方が多いです」と氏家先生。
「収入がなくなることもそうですし、フリーランスは一度仕事を離れたら、同じ仕事に戻れる保証がありません。ですから、休むために貯蓄をするというよりも、いかに早く仕事に復帰するかを考えている方が多いです」
確かに、仕事に早く復帰すれば、収入が途切れる期間も短くなるし、仕事を失う可能性も低くなります。一般的に、フリーランスの人が早期復帰を望む裏には、お金の問題のほかに、会社員のように復帰後の仕事が保証されていないという点も大きいようです。
働き続けるためにお金を貯めておくことが大事
「ただ、仕事に復帰するにも預け先を確保しなければ、仕事はできません。そうかと言って、とくに都市部においては認可保育園にすぐに入れるわけでもありませんから、それまではベビーシッターや一時保育など、預け先を確保するためのお金を用意しておく必要があるでしょう」
また、仮に一時保育などを利用して仕事に復帰したとしてもフルタイムで働くことは難しく、どうしても収入ダウンはまぬがれないと言います。そこで、「預け先確保のお金と収入ダウンに備える生活費の両方を準備しておけるとよいでしょう」と氏家先生。
現在の国の制度の元では、フリーランスは休むためにお金を貯めるというよりも、働き続けるためにお金を貯めておくほうが現実的ということですね。
認可保育園に入りにくいフリーランス
このように、フリーランスにとって「早期復帰」は、収入の面でも、仕事を失わないためにも必要なことであると言えそうなのに(自治体によっては、上の子が認可保育園に通っている場合、退園問題にもつながることも)、フリーランスは会社員に比べ、認可保育園に入りにくいという現実があります。これに関しては、声を大にして訴えていかなければいけないことだと感じます。
会社員とフリーランスで、産前産後の保障内容の差がここまで大きいことを知らなかった方も多いのではないでしょうか?安心して子どもを産み育てられる世の中にするために、すべての女性がその働き方に関わらず、平等に産前産後保障を受けられる制度がいま求められているのです。
<まとめ>
いつか子どもが欲しいと思ったら?
・働き続けるためのお金(預け先確保+収入ダウン分)を貯めておく。
さて、次回は、フリーランスの「老後のお金」に注目します!
第1回 | 【時代背景編】 | なぜフリーランスの社会保障は手薄いのか |
第2回 | 【病気・ケガ編】 | 病気・ケガでの収入ストップにどう備える? |
第3回 | 【妊娠・出産編】 | 会社員とここまで違う!フリーランスの産前・産後 |
第4回 | 【老齢年金編】 | 1階部分しかもらえない!老後にどう備える? |
第5回 | 【遺族年金編】 | 家族のために考えたい、フリーランスの遺族保障 |
第6回 | 【信用力編】 | フリーランスが信用力を高めるには? |