出版社が引くほど売れる書評を書く印南敦史さんに聞いた喜ばれる書評のポイント

ご自分のブログやサイトだけでなく、SNSなどでも書評を書く機会が増えてきた昨今。本の魅力を網羅なくかこう、読んだ感想をかっこよく書こうとすると手が止まってしまう......という人もいるのではないでしょうか? そこで今回は、「ライフハッカー[日本版]」や「ニューズウィーク日本版」などの名だたる媒体で書評を担当している書評家・印南敦史さんに聞いた、出版社が引くほど売れる書評を書くポイントをご紹介したいと思います。

※こちらの記事は、「読書生活」に掲載された「企画のたまご屋さん」主催のイベント「書評家さんの本音を聴く会」のイベントレポートを許可をいただき転載しています。

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彼が書評を書けば本が売れる! 書評家・印南敦史氏とは

印南さんは「ライフハッカー[日本版]」や「ニューズウィーク日本版」「WANI BOOKOUT」「Suzie」「マイナビニュース」「楽待」などの名だたる媒体で書評を担当しています。音楽ライターとしてのキャリアも長く、数年前にライフハッカーから書評の執筆依頼を受けたことをきっかけに、書評家としても名を知られるようになりました。また作家でもあり、2月末に出版された新刊『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)は5刷3万部超えのベストセラーになっています。

最近では年間700冊の本を読み、一日3本のペースで書評を書いているそう。書評の影響力は大きく、彼がとり上げるとAmazonで売り切れが出てしまうこともあるのだとか。講演の中で話されていた喜ばれる書評を書くポイントをご紹介します。

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書評する本はどうやって選べばいい?

書評を書くためには、まず本を選ばなくてはなりません。膨大な数の本からどのように書くべき一冊を選んでいるのでしょうか。

印南式の書評術でもっとも大切なのは「読者ニーズ」。まず、書評が掲載される媒体の読者のことを考えるというのです。
たとえば、印南さんが担当するライフハッカーの読者像を、「知的好奇心が強く、向上心を持っている、でも、ちょっと繊細な部分もある30代の男女」というように見立て、彼、彼女らは何を求めているのか、そのニーズを推し量り、それに合わせて本を選ぶとのこと。
印南さんのとりあげた本が売り切れ続出となるのは、こうした読者の関心に合わせたセレクションが優れているからでしょう。

音楽ライターになる以前は広告代理店に勤めていたという印南さんには、ディレクター的なこだわりも。Web媒体は更新の頻度が高く、書評も数日で何本も掲載されます。そこで、似たようなジャンルの本が続いて読者を飽きさせてしまわないように、本の掲載順にも気を配っているのだそうです。これは媒体の編集者にも喜ばれそうな気配りですね。
ちなみに、一覧ページに並ぶ本の表紙の色も気になるそうで、たとえば「白い表紙の本の次は、青い表紙の本」といったように配色まで考えているそうですよ。

本の情報はどうやってチェックしている?

年間に出版される新刊は約8万冊。書評を書こうとする人には、この膨大な量の最新刊でチェックするべき本を見落としていないかという不安をお持ちの方もいるかもしれません。

けれども、印南さんは「見落としはあってもいい」と言います。本に限らず、気になっているものには自然と目がいきやすくなるもの。すべてを網羅しようとしなくても、意識していれば不思議と必要な本には出合えるのだそうです。もちろん、それは本の情報が届くのを待っているというわけではありません。現在、印南さんのところには1日5冊前後の献本が届くそうですが、それだけでは偏りが出てしまうため、現在も書店巡りやWebチェックは欠かさないといいます。

参加していた著者から、「献本は迷惑でしょうか」という質問が出ましたが、「紹介するかどうかということ以前に、知らない本に出合えるのは嬉しいことですから」と印南さん。著者の方は遠慮せずに献本しましょう!

書評を書くためには、本のどこを読めば良い?

気になる本を見つけたら、まず、どこを見るのか。ここも書評家ならではの視点が表れそうなところです。

印南さんはタイトル、帯、装丁と見ていき、次に注目するのは「はじめに」なのだそうです。なぜなら、そこには本のエッセンスがつまっているから。何が書かれている本なのか、どんな思いで書かれた本なのか、本の全体像を理解するのに役立つというのです。「はじめに」で全体を把握したら、続いて目次をチェック。そのなかから、読者が興味を持ちそうなところを探すのだといいます。

書評を書くことが目的なので、ときには必要なところだけを拾い読みすることもあるという印南さん。以前は、最初から最後まで読まないと筆者や読者に対して申し訳ないと気がとがめたこともあったそうですが、拾い読みでも本の内容は理解できますし、その本を必要としている人にお薦めするという面でやるべきことは充分に果たすことができるとか。1日3本のハイペースで書評を書くには、割り切ってポイントだけ押さえる読み方でいいのだと気付いたのだそうです。

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読むのが遅い!本を効率的に読む方法は?

本を読まなければ、書評は書けません。書評の数を増やそうとすると必然的に、いかに多くの本を効率的に読むかという課題が生じてきます。

これについては近著『遅読家のための読書術』に詳しく書かれていますが、ポイントは読み流すこと。生真面目な方は本を読むときにも、書かれている内容を一言一句、頭に写し取ろうとしてしまいます。これを印南さんは、本に書かれた知識を頭にとどめようとする「ストック・リーディング」と名付けています。しかしこの読み方では、なかなか前に進めません。稀に、読んだ内容をすべて記憶できる天才もいるでしょうが、ごく普通の人ならば舐めるように読んだところで大部分は忘れてしまうもの。それを認めた上で、すべてを記憶にとどめようとせずに、本の内容を頭の中に"流す"ようにして読む。これを「フロー・リーディング」と呼び、読むスピードが遅い人にお薦めしているのです。

知識をすべてストックしようとする読書から、読んでも大部分は忘れるという現実を認めるフロー型の読書へ。そうすることで無理なく読み進めることができ、結果、多くの本を読むことができるといいます。重要なのは、フロー・リーディングでも記憶に残る一文は必ずあるということ。そうした印象深い一文が集まった「フローした結果としてのストック」が大切だということです。

結局、良い書評って何なの?

最後に、ズバリどんな書評が良いのか尋ねてみました。

「いまだに答えは見つかっていないんです。むしろ私も聞きたい」という印南さん。ギネスレベルで書評を量産してきていても、まだ迷うことがあるといいます。限界をつくらず、最善を追求していくのがプロということなのでしょう。

ただ、媒体による書き分けは常に心がけているといいます。「ライフハッカー[日本版]」の読者向けには、引用を取り入れることですぐに役立つ内容を多くし、情報サイトであるがゆえに「自分」をなるべく出さないようにしているというのです。逆に、印南敦史のフィルターを通した書評が期待されている「ニューズウィーク日本版」では自分のカラーを強く出すのだとか。

こうした媒体による書き分けも然り、トークで明らかになった印南さんの行動原理はすべて「読者ニーズ」に帰着します。何が良い書評かという答えはありませんが、読む人のことを考えた書評が多くの人を喜ばせるということは言えそうです。

<まとめ>

Webの書評ページには、シェアや「いいね」、はてなブックマークのカウント数などがつきます。「たくさんついていると嬉しい」と印南さんは話してくれました。これほどの人がそういった数字を気にするのかと意外にも思えましたが、それも書評の向こうにいる読者を思って書いたからこその喜びなのでしょう。あなたも、読者を一番に考えた、喜ばれる書評を書いてみませんか。

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文:本多小百合

Rhythmoon編集部

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