発想の転換が新しい価値を生み出す『注文をまちがえる料理店』

みなさん、こんにちは。フォトグラファーの宇野真由子です。
早いもので今年最後のレビューになります。
今回は私が今年1番感動したこの本をご紹介します。『注文をまちがえる料理店』です。

171206uno01.jpg

認知症の方が接客をする、注文を間違えてしまうかもしれない料理店。yahooニュースなどで話題になっていたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。「へぇ〜素敵なことをする人がいるもんだなぁ」 と気になっていたところ、企画者の小国士朗さんが書かれたこの本を見つけ、すぐに読んでみることにました。

間違えても良いのでは? という気づき

小国さんはテレビ局のディレクターです。2012年に認知症の方々が入居されているグループホームを取材した時の経験がこの企画の元になっているそうです。取材中、入居者の方が作られた料理を何度かごちそうになっていたのですが、献立はハンバーグとなっているのに出てきたのは餃子、という「間違い」が発生します。「あれ? 今日はハンバーグでしたよね?」という言葉をぐっと飲み込み、考えたそうです。別に誰も困らないし、間違えてもおいしければいい。なのになぜそんなことに自分はこだわっているんだろう?「こうじゃなきゃいけない」に認知症の人をはめ込めば、どんどん介護の現場は息苦しく、窮屈になっていくのではないか?と。

そこで浮かんだのが「注文を間違える料理店」というワードでした。その瞬間に映像も浮かんできたと言います。この料理店で働くのは認知症の人たち。注文と違うものが出てくることもあるけれど、間違えることを受け入れ、一緒に楽しむ。いつかそんな新しい価値観をこの料理店から発信できたら・・・と。

思いを現実に

そして2016年末、このグループホームを統括されている和田行男さんをはじめ、さまざまなプロ達に協力を募り、「注文を間違える料理店実行委員会」を発足。2017年6月3、4日の2日間限定で東京都内の小さなレストランでプレオープンに至ります。

注文を取りに行ったのに「何しに来たんだっけ?」とわからなくなってしまう方や、堂々と違うテーブルに料理を運ぶ方、注文も取らずに話し込む方など、まぁめちゃくちゃだったそうです。でも誰も怒らず終始和やかな雰囲気だったとか。

この本では準備期間から当日、その後までのことが丁寧に書かれています。そして裏ではどんなアクシデントがあったのかも。さまざまな工夫がなされていたことや、想像以上に大変だったということがよくわかります。小国さんにとっては認知症も飲食の世界も未知の領域。それでもやろうと決めたのがすごいですし、たくさんの方が協力してくれたのも素晴らしいです。もちろん、協力者だけではなく「認知症の人を見世物にする気か?不謹慎だ」という批判的な声もあったそうです。それでも自分がやりたいことを信じて、何より楽しんでいたからこそ、たくさんの人を巻き込めたのだと思います。

戦略は二の次で、まずはどうしてそれをやりたいのかという思いや情熱が大事だと改めて感じました。

寛容さを生み出す環境づくり

「注文をまちがえる料理店」では2つのルールがあるそうです。

①料理店としてのクオリティにこだわる(おしゃれで料理がおいしいこと)
②まちがえることは目的じゃない。だから、わざとまちがえることはしない

①は「福祉的な良いことをやってるから多少イケてなくても許してね」という甘えや妥協はしたくない、という思いから。お客様からしたらお金を払っている上に注文を間違えられる(可能性が高い)わけですから、クオリティが低いとさすがに嫌ですよね。なので料理の中身から値段設定まで一流の料理人とこだわって作ったそうです。

②は注文を間違えられることを期待するお客様もいるだろうから、間違える仕掛けを作った方が良いのかな?と迷ったそうです。でも認知症の方にとって間違えるのはとてもつらいこと。なので、間違えないように最大限努力する、でも間違えたら許してね、というスタンスに決まりました。

とはいえ、お客様のことも働く人たちのことも同じくらい大事にするというのは大変なことです。実際に料理人はプロなので、お客様をお待たせしてはいけない!と効率を求めますが、認知症をサポートするプロにとっては働く人(認知症の方)自身が考えて、自由に動き回ることが大切。指示通りに動かすのでは、ただの高齢者が働くレストランになってしまいます。

なので、小国さんは「料理のクオリティは保つ。でも60分でできることを90分かけてやるくらいのつもりでやりましょう」と声をかけたとか。そうするとお客様には待つという負担がかかるわけですから、それを感じさせない空間づくりに努めたそうです。

皆の「まぁいいか」という寛容さを生み出すためには仕掛けづくりが必要、と小国さんは言います。実際にお客様のアンケートでは「楽しかった」という言葉が多く並んでいたそうですよ。

「できない」からこそ「できる」こと

この「注文を間違える料理店」を実行できた理由のひとつには、小国さん自身の病気があるそうです。2013年に突然心室頻拍という病気を発症し、それまでのようにディレクター業が続けられなくなりました。テレビをつくることが本当に好きだったので、当時は相当落ち込んだそうですが、だんだんと「他にできることがあるのでは?」と思えるようになったとか。そして病気後、社内の制度を利用して広告代理店に研修に行きます。そこで培った経験をもとに、テレビ局に戻ってからはテレビ番組以外で情報を届ける仕事をするようになり、ついには専用の部署もできたそうです。病気のおかげでまったく新しい道が開かれたと思えるようになった時、「注文を間違える料理店」のことを思い出します。そしてそれまでの人脈を使ってさまざまな人に声をかけ、半年後に実現させたのです。

この料理店は従来の飲食店経営の発想ではできなかったと思います。発想の転換と小国さんの経験・人脈で新しいサービスの形ができあがったのです。

このコラムは「働く上で参考になる本」を紹介するコーナーなので、運営側に注目してご紹介しました。ですが、認知症になった方のそれぞれの人柄や背景、お客様の話も載せられていて、ヒューマンドラマとしてもぐっとくる本になっています。私は認知症について特別な知識がなかったので、この本を読んで初めて知ることもたくさんあり、自分の中の偏見にも気づきました。失礼ながら認知症には悲しい、暗いイメージを持っていましたが、この本からはまったくそれを感じません。そして、できないことが増えるのは悲しいことではないという気持ちが芽生えました。誰しも得意不得意はあるし、いつどんな状態になるかもわかりませんよね。「まぁいいか」という気持ちで、人にも自分にも温かく接していける人になりたいと思います。

171206uno02.jpg今回の写真は季節に合わせてイルミネーションです。この本の温かい雰囲気にも合うかなと思ってこれにしてみました。

この「注文を間違える料理店」は9月に都内で再オープンし、町田市でも「注文を間違えるカフェ」を実施するなど、広がりを見せています。今後もイベント的にどこかでやっていく予定だそうです。いつか行ってみたい!そして小国さんのさらなる夢の行方を楽しみにしつつ、私も頑張りたいと思いました。クリスマスプレゼントにもぴったりな本ですし、身近な方と意見交換しながらぜひ読んでみてください!

<この本はこんな人にオススメ>
・やりたいことがあるけど行動に移せないという人
・コンプレックスがある人
・認知症について知りたい人
注文をまちがえる料理店
小国 士朗
あさ出版 (2017-11-10)
Amazon.co.jpで詳細を見る
宇野 真由子

Writer 宇野 真由子

1979年生まれ。北海道出身。ビジュアルアーツ大阪校写真学科卒業。
写真専門ギャラリーでの勤務を経て、沖縄に移住。撮影会社にてブライダルを中心とした人物撮影や商品撮影等に従事。2015年秋に大阪へ戻り、フリーランスとして活動開始。撮影以外にも、写真教室・ワークショップ等、写真の楽しさを広める活動も開催している。
http://unophotoworks.top/top/

宇野 真由子さんの記事一覧はこちら