「そこしか使えない人がいる」ことに気づくことから考える多目的トイレ

「多目的トイレ」を巡る悲しい日常

お食事中の方はすみません。でも今回は、食べることと同じくらい大切な、私たち人間が生きている限り避けて通れない「トイレ」について考えてみたいと思います。

車いす使用者やオスメイト(人工肛門・人工膀胱を使用している人)などの「一般トイレ」を使えない人たちが、外出先で使用するのが「多目的トイレ」と呼ばれるトイレです。

しかし、その多目的トイレが一般トイレを使えるはずの人たちに占用されたり、ごみを散らかす等のマナーのない使われ方をされたりといったことが問題になっています。多目的トイレしか使えない人たちは、わざわざ電車に乗りなおして違う駅まで移動したり、我慢しながら使用したりしています。そのような経験が続くと、外出をためらう気持ちになることは当然です。  

そんな悲しいことが、私たちの日常で起こっているのです。

車いすユーザーのTwitter投稿。去年10月のハロウィーン後、新宿駅の多目的トイレで撮影されたもの
(撮影・投稿者:中嶋涼子さん @NakashimaMinion

「車いす専用トイレ」から「多目的トイレ」へ

まず、今では多く見られるようになった「多目的トイレ」の歴史を簡単に見てみましょう。

日本では、駅や公園などに和式便所を中心とした公共トイレが整備されてきました。しかし、そもそも段差等がありトイレに入れず、入れたとしても和式便器であることや狭くてトイレの中で方向転換ができないことなどから、使用できるトイレがなく、車いす使用者等の外出機会が阻害されてきました。  

国がトイレの「バリアフリー」を始めたのは、1964年の東京オリンピックと同時に開かれた東京パラリンピックからです。  

1970年代には障がい者の社会参加を求める声が高まり、1975年に「身体障害者の利用を考慮した設計資料」において、車いす使用者に考慮された公共建築物のトイレについて、さまざまなプランや配置計画の考え方などを明示しています。また、1982年には、公共建築物以外に関しても「身体障害者の利用を考慮した設計標準」が作成されています。
地方自治体レベルでは、福祉のまちづくりの取り組みが1970年代から始まっており、1980年代から一部の地方公共団体において、車いす使用者専用トイレ整備の推奨がなされました。  

そのような経緯で一般トイレとは別に、車いす使用者を前提とした「障がい者トイレ」を設置することになったのです。  

しかしその結果は、広いスペースが必要なため設置数は少なく、整備されたそれらも「障がい者専用トイレ」として普段は鍵がかけられ、あまり利用されないので、多くは物置的な使われ方をされるというものでした。そして、実際に車いす使用者が利用しようとするとガラクタだらけで使用できないものも多かったそうです。  

これを解決する方法として考えられたのが、車いすトイレを「多目的トイレ」にすることでした。2000年代から始まりました。多目的トイレとは、着替え、おむつ替え、幼児用の小便器を設置するなどによって、身体に障がいのある人以外も利用できるように工夫したトイレです。「多機能トイレ」「だれでもトイレ」とも言われます。 様々な機能を入れることで利用率を高め、管理上の課題解決にもつながり、限られた面積を有効活用することになったのです。  

しかし、冒頭にもお伝えした通り、現在この多目的トイレの機能集中化により、本当に必要としている人たちが使えないという事態が多く発生しています。そこで、以前のように障がい者専用にしてほしいという声も増えています。

一方、一般トイレをみてみると、特段の配慮がなされない状況が続いていました。そこで考えられたのが、一般トイレを含めたトイレ空間全体での機能分散の方法です。手すりやベビーチェア、オスメイト用の広めのトイレの設置を行う等の方法で、できるだけ多くの人が快適に共に使えるユニバーサルデザインなトイレの整備が少しずつですが広まっています。

なぜ「マナー違反」が起こるのか  

特に多目的トイレで守るべきマナーには、下記のようなものが考えられます。

●できるだけ短時間の利用にする
(そもそも多目的トイレはそこしか利用できない人が優先のものである)

●開閉式のオムツ替えシートを利用したら元に戻す
(車いす使用者や盲導犬と歩く視覚障がい者等のためのスペースを確保するため)

●小便利用の際に便座を上げたら元に戻す  
(腕に障がいのある人等がスムーズに利用できるように)

●トイレットペーパーを補充しておく
(予備のトイレットペーパーが腕に障がいのある人や車いす使用者が届きにくい場所にある場合がある)

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「マナー違反」が起こる原因は、多くの場合、マナーの存在を知らないことだと思います(私も、毎回きちんとオムツ替えシートをたたんでいたか自信がありません)。

そして、「多目的トイレ=たまに見かける車いすの人がメインで使うトイレ」というイメージも、「自分たちは一般トイレが使えるから」と、多目的トイレの質(マナー)への無関心さと想像力の欠如の一因になっているのではないでしょうか。

「障がい者専用」に戻ることは、このような障がい者への「ひと事感」をますます助長させてしまうのでは、と感じます。

車いす使用者やオスメイト以外にも、外見上障がいがあるように見えない認知症高齢者や精神障がい者で介助が必要な人、ノックの音がわからない聴覚障がい者、異性介助やLGBT等、多くの課題があり、トイレのユニバーサルデザインに配慮した整備が求められています。

外出先でトイレに行きたいときに行ける。

今、「健常者」とされる人ができることは、そんな当たり前とされている社会的なサービスが、実は平等に提供されていない現状を知って行動することだと感じました。

参考資料:
『みんなのユニバーサルデザイン③ 町の人とつくるユニバーサルデザイン』(川内美彦監修、学研教育出版)
「多機能トイレへの利用集中の実態把握と今後の方向性について―多様な利用者に配慮したトイレの整備方策に関する調査研究」(2012年国土交通省)

桐田 さえ

Writer 桐田 さえ

出版社等に勤務後、2013年よりフリーランスのライター・編集者に。また、産後3か月で社会福祉士を取得。現在は、当事者や専門家、高齢者施設等を取材し、主に障がいや介護に関する記事や実用書、専門書のお仕事が中心。子どものときに、おたふく風邪による難聴(ムンプス難聴)で片耳を失聴した。一女の母。

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