NYと福岡で二拠点生活を送るライター・翻訳家:的野裕子さんインタビュー

地方で働くってどんな感じ? 地域ならではのフリーランス事情を知りたい!
「地方フリーランス生活」では、自分らしいスタイルで働く地方フリーランサーに、地方で活動することのメリットやデメリットのほか、日頃心がけていることなどを伺います。今回は福岡県とニューヨークで活動されているライター・翻訳家の的野裕子さんにお話をお聞きしました。

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■的野裕子さん プロフィール

活動地域 福岡県 時々ニューヨーク
フリーランス歴 10年
職種

ライター、翻訳家

経歴

ライター、翻訳家。2008年にフリーランスとなり、オンラインメディアを中心に執筆しながら、ニューヨークと福岡の2拠点生活を続けている。2006年に始めたアシュタンガヨガでは、ニューヨークのエディ・スターンに師事し、2018年にエディ・スターンが共著者となっている本『グルジ 弟子たちが語るアシュタンガ・ヨガの師、パッタビ・ジョイス』を翻訳出版する。

ウェブサイト

現在のお仕事内容は? 

オンラインマガジンやニュースサイトを中心に記事の執筆や翻訳をしています。今年は、7年越しの夢だったアシュタンガヨガの師匠の本、『グルジ 弟子たちが語るアシュタンガ・ヨガの師、パッタビ・ジョイス』の翻訳出版がやっと実現しました。

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東京・渋谷で開催された『グルジ』出版記念イベントの様子。

フリーランスになる前はどのようなお仕事をしていましたか? フリーランスになったきっかけを教えてください。

フリーランスになる前は会社員で、サイト制作に関わる仕事(デザイナーから始まりコンテンツマネージャーや企業のサイト担当など)を約10年間ほどやっていました。とても忙しい日々で、睡眠時間も短く、ストレスで参ってしまって、心身共に大きく調子を崩すことが2回あって、自分の働き方や人生について真剣に考えるようになりました。仕事自体は嫌いではなかったのですが、会社員という働き方が自分に合っていないのだと気づいて、フリーランスになりました。

なぜ、今のようなお仕事を始めたのですか?きっかけやなるまでの道のりを教えてください。

フリーランスになる前に1年間ほど、会社員をしながら「フリーランスになったら自分には何ができるだろう?」と考えていました。会社員が合わない一番の理由が、時間と場所を拘束されることだったので、フリーランスになったら、行きたい時に行きたいところに行ける生活にしようと決めていました。

会社員の約10年間、ずっとパソコンに向かう仕事ばかりしていたので、パソコンを使わない仕事は想像もできなかったし、自分にできるとは思えませんでした。そこで「パソコンを使いながらどこでもできる仕事は何か?」と突き詰めて考えていくと、デザインや映像関係は才能がないし、パソコンのスペックもある程度必要なのでノートパソコンでは無理だろうとなりました。テキストベースの仕事なら、ノートパソコンとネット環境さえあればできそうだけどプログラミングはやったことない、ならば文章を書くしかない、という結論です。

文章を書いて食べていきたいと思うようになってから、ブログを始めて不特定多数に文章を書く練習をしつつ、会社に内緒で副業としてライターの仕事を受けたりして、書くことを仕事にできそうか少しずつ試してみました。会社員を辞めてからは、アルバイトをしながらライターの仕事をしました。自分が好きで読んでいたオンラインマガジンのライターに採用されてからは、レギュラーでお仕事をいただけるようになりました。

なぜ今お住まいの土地(福岡)にUターンし、その後、NYとの二重生活を始めたのですか?

大学入学をきっかけに東京に住むようになって、卒業後もそのまま東京で仕事をしていました。最初の頃は、文化やそこにいる人たちが刺激的で東京はとても楽しかったのに、社会人になると仕事が忙しく、仕事以外は家に帰るだけの生活になっていき、東京を楽しむというより、東京の家賃や生活を維持するためにお金を稼いでいるような気持ちになって、疲弊していきました。

実家が福岡市内でも都市部に近いところにあったので、東京の生活と大きく変わるところもないし、年齢なのか仕事をするようになったからか、刺激よりもリラックスできる生活を望むようになってきたので、福岡の方がいいなと思い、戻ることにしました。

福岡に戻って最初の数年間は会社員として働き、その後フリーランスになりました。福岡の会社員時代にアシュタンガヨガにはまり、フリーランスになってからNYの先生のところで練習した時に、もっとこの先生のところで練習したいと思ったのが、NYに足繁く通うようになったきっかけです。翻訳の仕事もしていたので、英語の環境に身をおいて、英語をブラッシュアップするのは仕事にも有効だったので、それから年の半分くらいNYに滞在する生活になりました。

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NYの自宅の仕事場。窓からモーニングサイドパークが見えます。

働く土地を変えたことで、働き方やライフスタイル等の変化はありましたか?

福岡は物価が安く、移動に時間もお金もかからないので、たくさん稼がなくても意外と普通に生活が送ることができ、精神的に余裕ができたと思います。東京の暮らしぶりや、消費を煽るような環境では、収入は多かったけど、それだけ支出も多かったので、精神的にはそこまで余裕がなかったなと思います。

私が「NYに3ヶ月滞在する」と言うと、日本では「その間仕事はどうするの?」と聞かれたり、とても驚かれますが、NYでは「それくらいあれば十分楽しめるね」と言われるくらい。さして珍しいことでもない、という反応がかえってきます。

NYに住んでみて、平日の夕方(17時頃)から開催される無料のコンサートに仕事が終わってから来られる人がたくさんいたり、金曜の16時頃からレストランで飲み始める人たちがいたり、時間や生活スタイルにとても余裕があると思いました。NYは生産性が高い大都市。田舎ではありません。「それなのに、どうして日本とこんなに違うんだろう?」「なんでこんなに時間に余裕があるのだろう? こんなにも物質的にも文化的にも豊かな生活ができるんだろう?」と最初は信じられない気持ちでした。

長く滞在してみて、みんなが合理的だったり、バイトでも仕事に対する裁量や判断力があったりと、あらゆる面での人の意識の違いがあることが、日本との違いを生んでいるのだと思うようになりました。そういう違いと余裕のある生活(人生)を見て、私もかなり影響を受け、そういった暮らし方に少しでも近づこうと潜在的に常に意識するようになりました。生産性や効率を考慮し労働時間を無駄に長くしないようにしたり、自分の時間を意識したうえで仕事を引き受けるようになったりと、細かな日々の選択や判断が変わってきていると思います。

福岡とニューヨークで仕事をはじめるにあたって、苦労したことはありますか? 軌道に乗るまでに、どのくらいの期間かかりましたか?

ライターの実績がほとんどないままフリーランスになったので、レギュラーの仕事をもらって、それだけで生活できるようにしていくまでは少し大変でした。レギュラーの仕事は、フリーランスになって4ヶ月くらいでいただいたのですが、安定して生活できるようになるまでは2~3年はかかったかもしれません。また、仕事は日本からしか受けていないので、NYでも日本でも同じ仕事をしています。(時々NYで取材して記事を書くような単発の仕事は別として)

その土地ならではの慣習がわからず苦労した、失敗したというエピソードがあれば、教えてください。

福岡は自分が生まれ育った場所ですが、仕事をするのはUターンした後がはじめてだったので、東京との仕事のやり方の違いに少し戸惑いました。東京だと、打ち合わせがメールやオンラインのビデオチャットで済むところが、福岡のクライアントの場合、わざわざ出向いて打ち合わせをしなければならないことが多いです。フリーランスは拘束される時間があるとロスにつながるので、そのあたりのコントロールが難しかったです(10年くらい前の話なので今は違うかもしれません)。

地元と地元以外のクライアントの割合は?仕事のやり方、営業スタイルなど、どんな工夫をしていますか?

首都圏:地元=10:0 です。

レギュラーの仕事がベースなので、営業することはほとんどありません。単発のお仕事は知人からの紹介でいただくことが多いです。

遠方のクライアントとスムーズに仕事をするために心がけていることはありますか。

基本的にはメールやオンライン上で完結する仕事をしているので、だからこそたまに直接顔を合わせて話す機会を意図的に設けるようにしています。実際に会って話すコミュニケーションは大事だと思います。

先ほどの、「打ち合わせに出向かなければならないことで苦労した」という話と相反するように聞こえるかもしれませんが、実際に会う回数や時間は必要な分だけでいい(最低限は必要)ということです。

現在の土地で働くことを選んで良かったこと・悪かったことを教えてください。

世界中どこに行っても、日本の同じ仕事をずっとやっているので、特に場所に影響されることはあまりないです。

良かったことは、福岡の場合はコストがかからない、NYの場合は英語が磨けて、刺激が受けられて、毎日自分のヨガの先生のところで練習ができる、という感じでしょうか。どちらも自分の好きな場所なので、ストレスなく快適な自分の状態を保てる、というのが良いのだと思います。

今お住まいの土地ならではの仕事の合間のリフレッシュ方法があれば教えてください。

福岡はとにかく食べ物が美味しいし、気兼ねなく話せる友だちが何人もいるので、外で友だちと会って、ご飯を食べて、おしゃべりするのがいいリフレッシュになります。

NYの場合は、朝は大抵ヨガの練習に行くので、練習が終わってコーヒーショップでコーヒーを飲み、人間観察したり、街の人と話したりするのが一番のリフレッシュ、日々の楽しみになっています。

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NYで通っているヨガスタジオ「Brooklyn Yoga Club」

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NYのお気に入りのコーヒーショップのひとつ「Hungry Ghost」

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いつもラテを飲んでいます。

現在の課題がございましたらお聞かせください。

労働時間をもっと短くして、効率よく稼ぐこと。バケーションと何もしない休日をきちんと取ること。(フリーランスで家で仕事をしていると、オン・オフがなくなっていくので)

今後の目標をお聞かせください。

書籍の翻訳をもっとやりたいです。オンラインでの執筆も好きですが、今年初めて自分の翻訳した本が出版されて、実際に手に取れて、かたちとして残るものはやっぱりいいなと思いました。あとは、日本以外の国からも仕事を受けてみたいです。

最後に、地方で働くことに興味のあるフリーランサーへ、メッセージをお願いします。

東京や関東で働いている人は、そこでの生活や価値観が常識だと(頭でそう考えていなくても)刷り込まれているかもしれないけど、同じ日本でも違う場所に行けば、違う生活や価値観があります。国が違えばなおさらです。

今の生活や人生に強い不満やストレスがある人は、一度違う場所を体験してみるといいのではないかと思います。個人的には、いきなりドラスティックに環境を変える(引越する、転職する)と、合わなかった時にリスクが大きいと思うので、引越したいところがあるなら、その前に数週間滞在してみるとか、転職してみたい仕事があるなら、今の仕事をしながら試しに体験的にやってみるとか、違うと思った時に柔軟に変えられるようなやり方もおすすめです。

※この連載のバックナンバーはこちらからご覧ください。

曽我 美穂

Writer 曽我 美穂

子どもの頃から環境に関心を持ち続け、現在はエコライター・エディター・翻訳家として独立。環境に関する雑誌やWebサイトでの執筆、翻訳、書籍編集、フェアトレードカタログの企画編集のほか、環境NGOやNPO法人の広報活動にも関わる。また、2年前から地元の公民館や自宅で、こども英語教室の運営も行っている。私生活では2009年生まれ、2012年生まれの二児の母でもある。

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