Vol.43 バッグデザイナー シロヤマアケミさん

Profile

新潟県出身。文化服装学院卒業後、アパレルメーカー、バッグ問屋、大手スポーツメーカーなどでデザイナーとして勤務。2004年にフリーランスに転身し、バッグブランド「Joolie(ジューリー)」を立ち上げる。デザインはもちろん、素材の買い付け、ブランドサイトの制作、顧客への接客販売など運営全般をひとりで担う。現在ハマっているのはバレエレッスン。夫と3匹のワンちゃんと5人暮らし。

「Joolie(ジューリー)」のブランドサイト

大企業での安定した生活から夢実現のためにフリーランスへ

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ブランド名「Joolie(ジューリー)」は英語のJoy Of Our Lifeの頭文字JOOLと、フランス語で"美しい"を意味するJolieより由来。「バッグはペットと同じく、相棒のような存在。一緒に出かけたくなるようなバッグを作りたいですね」

独特の色使いと主張ある柄の組み合わせで、女子の心をキュッと掴むバッグを作るシロヤマアケミさん。企業デザイナーとして13年のキャリアを持つ彼女の転機は2004年。最後の勤め先となった大手スポーツメーカーで、競泳水着のデザイナーとして6年目を迎えた頃だった。

「前職では水着のデザインだけでなく、ブランドのコンセプト作りや立ち上げ、パソコンを使ってのデザイン......本当にいろんな経験をさせていただきました。お給料も居心地も良かったのですが、私が指示を出して若手が作るというケースが増えてきて、管理職としての役割を担うように。想いを形に起こすのが一番好きなことなのに、それを他の人に譲らなくてはならない状況がツラくなってきたんです」

私は一生働きたい。でも好きなことじゃないと長く続けられない。それなら、やりたいことをやった方がいい! 作りたいものを作るためにシロヤマさんは独立を選んだ。会社を辞めることにもフリーランスへの転身にも不安はなく、退職までの日々をワクワクした気持ちで過ごしていたと言う。

「水着という実用的なものを制作していたので、次はロマンティックでうんと女性らしい、『カワイイ!』と心が躍るようなデザインをしようと決めていました。バッグデザイナーを選んだのは、見てワクワクするようなバッグが売り場にはなく、"必要だから買っている"という女性が多いと感じたから。以前、自分でデザインしたバッグを職人さんに作ってもらったことがあったのですが、既製品と違って使いやすいし、何より使っていて楽しいんです。こんなバッグを求めている人がいるのでは? なら私が作ろうって思いました」

Webと卸での販売を経験。受注は増えたが新たな問題が発生

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大きなガラス瓶いっぱいのリボン、カラフルな布や皮素材がずらりと並ぶアトリエ。ミシンの上には小鳥のオブジェが! 細部までかわいい、シロヤマさんテイスト満載の空間になっている。音楽を聴きながら作業し、息抜きがてら頭に浮かんだことや新作バッグの製作過程をtwitterでつぶやいているそう。

店舗を持たずに、その分を材料費に回して制作・販売していこうと考えていたシロヤマさん。退職後はWebサイトの立ち上げからスタート。前職で培ったPCのスキルを活かし独学でサイトを作り上げた。バッグを制作しては写真を撮り、サイトに掲載して販売を行っていたという。販売方法が変化したのは、ブランド設立から半年後のこと。バッグ専門誌の取材をうけたときに、編集者から「卸もやった方がいい」というアドバイスを受けてからだ。

「お客様にとって、買う前に実物に触れられないのは不安だろうなと思っていたので、信用を得るために卸売りも必要かなって。その後、参加した展示会でバイヤーさんに声をかけていただいて卸売りを始めました。最初に納めた商品が好評で、発注も次第に増えていったんです」

発注が増えたことで仕事量は増加。しかし、手作りで細部まで一つひとつ丁寧に作るシロヤマさんのバッグは量的生産には向かず、オーダーに応えるだけで精一杯だったという。しかも、商品は売れているにも関わらず収支は赤字続き。会社員時代の蓄えを切り崩す日々だったそう。

「忙しいのに利益が上がらないという状況に陥っていたのは、販売価格の設定に問題がありました。私はひとつのバッグの中にいろいろな素材を少しずつ使うのですが、素材は買った時期も違えば海外で購入したものもあり、正確な原価計算ができないんですよね。この値段だから買おう、って思える価格帯で販売したいので、価格を上げるのには抵抗があって。シーズンが終わって赤字だったら、その原因を探って来シーズンに修正する、の繰り返しでした。設立6年目の今年、やっと黒字化の目処が立つかな?という状況です。独立後、もっと早くに基盤を築く方が多いのかもしれませんが、私はスロースターターだしノンビリ屋。この仕事は一生続けていくつもりでいるので、最初は失敗してもいいかな、なんて考えています」

繋がりを求めて始めたtwitterでご縁が広がり、新たなステージへ

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もっとシンプルに作りたい、顧客ニーズを直接知りたいと、3年続けた卸売りをやめ、昨年から2ヵ月に1度、対面で接客・販売するフェアを開催するようになった。バッグを一緒に選び、アレンジのオーダーを受けて......というスタイルが自分には合っているとシロヤマさんは話す。そのフェアの集客に一役買っているのがtwitterだ。制作中はアトリエに籠りがちになるので、外の世界と繋がりたい!と昨年7月から利用し始めた。

「日常のつぶやきだけでなく、制作過程の写真を投稿していたところ、フォロワーの方々が私の作るものに興味を持ってくださったんです。そこから新しい友だちがどんどん増えて、サイトを見て購入したり、フェアに足を運んでくださったり、クチコミをしてくれるように。twitterは他の方法ではあり得ないようなスピードで人と出会うことができる"友だち開拓ツール"ですよね。あと、日々の生活や制作過程を公開することで商品に対する信頼を得ることにもつながっているような気がします。今ではなくてはならない存在ですね」

vol43_6.jpg「今年は人とのご縁がある年」と楽しそうに話すシロヤマさん。やはり人との繋がりって大事ですか?と尋ねてみた。
「もちろん! ひとりだと自分の世界に没頭し過ぎて、外と繋がっている無数の糸がだんだん細くなり、ひとつひとつの糸をケアしていかないと途切れてしまう。そうなると情報も入ってこないし、自分のモチベーションも保てなくなり成長が止まってしまう。新しいことって人が運んでくれるんですよ。今後も店舗をもたずに販売するフェアを続けていきたいと思っています。ミュージシャンがライブツアーをやるように、車にバッグを積んで、全国各地を回って直接販売できるようになれたらいいですね」

シロヤマさんお気に入りの本

vol43_3.jpg 疲れたときや寝る前に目を通す、お気に入りの4冊。「もう何回も読んでいるので、タイトルを眺めるだけで作品の世界観や情景が浮かんでくるんです。『プラテーロとわたし春・夏』は心が落ち着き、温かい気分になる1冊です」

ある一日のスケジュール

06:30 起床。シャワーを浴びる
07:00 ワンちゃんたちにエサをあげ、散歩にでかける
07:45 作業前に部屋の掃除
08:00 職人さんが出社(夫は鞄製造業の会社を営んでいる)
08:30 仕事スタート。午前中はメール対応などPCでの作業が中心
11:45 昼食を手早く用意。仕事をしながらのランチになることも
13:00 バレエレッスンへ。週1回・1時間半のレッスンを受けている
15:30 午後の仕事を開始。夜の作業に向けて素材の裁断など実務作業を行う
18:00 職人さんが退社
19:00 ワンちゃんたちを夜の散歩へ。その後、夕食タイム
20:30 仕事を再開。機械がひとりで使える夜の時間を有効に活用
24:00 作業終了。twitterをチェックしたりお気に入りの本を眺めたりして過ごす
01:30 力尽きて就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

ON・OFFの切り替えスッチはジャスミン、シナモン、ココの3匹の娘たちとの時間。今は忙しくてなかなか遊びに連れて行ってあげられないのが悩みだそう。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

フリーになって役立った会社員時代の経験は?
素材選び、生産管理などどれもそうですが、とくに前職での新ブランドの立ち上げは役立ちました。商品にストーリーを持たせて、使っている人が「どこで買ったの?」なんて聞かれたときにそのアイテムで会話ができる。コミュニケーションのきっかけになるデザインをするクセがつきましたね。妄想系デザイナーなのでストーリーを盛りこむのが好きなんです(笑)。
仕事とプライベートバランスの取り方は?
アトリエと自宅が一体になっているので、仕事とプライベートの切り分けができないのが現状です。最近は、土日も仕事をしていて、チビ(犬)たちを遊びに連れて行ってあげられないので、そこは申し訳ないなって。モノ作りが一番で、そこが疎かになっては意味がないですが、今後の課題として、生活の質も向上していきたいですね。
リフレッシュやモチベーション維持の方法は?
週1回ですが、バレエのレッスンに通っています。体を動かすと頭が切り替わっていいんです。しかも、レッスンに行ったあとは体型が全然違う! 大人になってから始めたので、上手くできない動きもありますが続けていきたいですね。また、充電のために年1回、素材買い付けも兼ねて海外に出かけています。スーツケースいっぱいにお気に入りの素材をつめて帰ってきます。1回行くと半年間は心の貯金で頑張れる、次の半年は次回が楽しみで頑張れますね。
フリーランサーにとって必要なことは?
人にやってもらうのを待たない、自分から動く姿勢ですね。また、人とのご縁で仕事が広がっていくことも多いので、「この人とあの人が結びついたら面白いんじゃないか」とか、そういう機微に気付ける視点の高さは必要かもしれませんね。今、目の前で起きていることだけでなく、先を予測し、自分を俯瞰して見ることが大事だと実感しています。
これからフリーランスを目指す人へのメッセージ
私の好きな言葉が「一所懸命、頑張ります」なんです(笑)。カッコいいことを言っても頑張ってないと人に伝わってしまう。適当にやっているのはダメ! 情熱を持ってやりたいことをやる。スグには上手くいかなくても、頭と体を使って動いていれば、次のステップが見えてくると思いますよ。

好きなことを一生やり続けたい
経験とセンスを信じてバッグデザイナーに

須磨ますみ

Writer 須磨ますみ

前は編集・ライター、今は会社員+週末ライター。
各種インタビュー、仕事系、グルメ、ウエディングなどの編集・ライティング経験あり。

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