Vol.51 育休後コンサルタント 山口理栄さん

Profile

1984年筑波大学情報学類卒業後、総合電機メーカーに入社。ソフトウエア開発部署で大型コンピュータのソフトウエアプロダクトの開発に携わる。2008年に退職し、コンサルティング会社を経て、2010年6月「育休後コンサルタント」を開業。2児の母。

山口さんのサイト
育休後コンサルタント.com

子育て中の社員の能力を生かしたい

「育休後コンサルタント」を名乗ると、反応は2つに分かれるという。「それ何?」といった感じでキョトンとする人と、「それ必要だよね!」と身を乗り出してくる人。山口さんは自身の経験をもとに、育児休業取得後に起こるさまざまな問題を解決しようと、雇用者側(企業や組織など)と被雇用者側(個人)の両面からアプローチする「育休後コンサルタント」を昨年立ち上げた。

vol51_1.jpg「子どもを産んで、育休を取り復職した後に思い通りの働き方ができていない女性は数多くいます。子どもがいるというだけで、また育休を取ったというだけで、チャレンジする機会が与えられなかったり、能力を生かせなかったりという現状を何とかしたいと思いました」。多額の費用をかけて採用し育てた社員が、育休後に退職したり能力を十分に発揮できないことは、企業側にとっては大きな損失になる。社員がそのことで働く喜びを失ってしまうのも残念な話だ。

「女性を活用したいと思っている企業に対しては、女性社員の能力を最大限に発揮できるようにするために組織が取り組むべきこと、そのための管理者の支援や研修の提案・アドバイスを行います。今はセミナーを開き、人事担当者らに最新のダイバーシティ・マネジメント(※)やワークライフバランスの事例を紹介したり、さまざまな問題の解決法を提示したりしています」。いずれは企業とコンサルティング契約をするつもりだという。

個人に向けては、子育てしながら働く女性を対象にメールマガジン「1995(イクキュウゴ)通信」を発行。ワークショップなどの情報や山口さんが日々の活動の中で気づいたこと・学んだことを発信し、共有し合おうというコンセプトだ。不安や悩みを抱えている人からのメール相談や、面談にも応じている。

※多様な人材を生かす経営

育休2回取得、25年間働いてみえてきたもの

「育休後コンサルタント」という全く新しいネーミングで山口さんが独立したのは、極めて自然な流れによるものだった。

山口さんは大学卒業後、総合電機メーカーに入社、ソフトウエア開発の部署で大型コンピュータのソフトウエアプロダクトの開発に携わった。結婚後、入社7年目に米ロサンゼルスの大学に社費留学。「それまで漠然と子どもを持たずに働くだろうと思っていたのに、同じく留学中だった日本人夫婦のすてきな子育てぶりを見て"子どもが欲しいな"と思ったんです」。帰国後、2人の子どもを出産。さっそく引っ越して自宅・職場・保育所を徒歩圏内にすることで環境を整えた。「第1子の育休は1年間取りました。復職したら、仕事のスキルだけでなく社内外の組織改正などにもついていくのが大変だったので、第2子の育休は4ヶ月間にしました」

vol51_2.jpg妊娠がわかるとすぐ負荷の低い仕事に変更された上、育休後は他部署との橋渡しや調整役といった仕事が主になった。「出産で仕事が変わることを身を持って感じました。ある程度仕方ないというあきらめの気持ちもありましたが、とにかく会社に戻って来れたことがうれしかった。子どもと離れて自分の時間を持つって必要だな、会社ってやっぱりいいなーと思いました。一方で、開発の一線から外れてサポート的な仕事になったので、この先昇進とは無縁だろうという複雑な思いも抱きました。でも、とにかく働けるのがうれしかったので、与えられた状況の中でベストを尽くすように頑張りましたね」

そうした取り組みや成果が認められ、1998年には課長に昇格。当時、子どもは4歳と2歳。はじめは戸惑いを感じながらも覚悟を決めた山口さんは、基本的に残業をしないスタイルを貫きながら仕事に打ち込んだ。2002年には部長相当職に昇格し、社内では育休後も働き続ける女性のパイオニア的な存在に。「今思えば、社内でワーキングマザーのロールモデルを作るために、チャンスを与えられていたんだなあと思います。だからこそ、『自分が苦労したことを後輩たちにも伝えたい!』と思うようになり、積極的に悩みを聞いたり、相談に乗る機会が増えていきました」。

そんな折、社内で女性活躍推進プロジェクトが始まる。初代リーダーとして山口さんに白羽の矢が立ったのも必然といえるだろう。出産後の女性支援を目的としたパネルディスカッションの開催やメールマガジン発行といった事業を、通常の仕事に加えて行っていた。「優秀な人が力を生かせないということに対して、すごくもったいないという気持ちが強くて。子育て状況は子どもの成長とともに年々変化していくものなのに、それに会社側は配慮できていない。管理職と社員のコミュニケーション不足かもしれない。その状況を変えたかったのです」

時を同じくして「ワークライフバランス」という言葉が広く知られてきた。長時間労働が常態化している職場では子育てをしにくい。育休後の女性が働きやすい職場は、すなわち全社員にとっても働きやすい職場なのではないかという思いが強くなっていく。

キーワードは、女性支援・管理職・ワークライフバランス

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「育休後コンサルタント」でいこう!と決めるまでに参考にした本。自分の強みをどう差別化し、ブランドとして確立するかが書かれている。左から、『ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)』梅田望夫著、『スピード・ブランディング―普通の人がブランドを確立し、成功を加速させる』鳥居祐一著。

転機は不意に訪れた。2008年、個人的な事情でメーカーを退職することになった。再就職を考えてこれまでの自分を振り返ってみると、「女性支援」について考えているときの高揚感に気付いた。コンサルタントという仕事ならこれまでのさまざまな経験を生かせるのでは?と考え、組込ソフトのプロセスを改善するコンサルティング会社に就職。マーケティングを担当する傍ら、コンサルティング業務のノウハウを学んだ。


女性活用をテーマにしたコンサルティング内容については独自に情報収集に努め、ブログで発信し続けていた山口さん。「100%、そこに時間を使いたいと思うようなったので、独立の道を選びました。出産、育休取得、企業で長く働き、管理職も経験している。これまでの経験をフルに生かして"育休後"の女性を応援しよう。ターゲットを明確にするために、直球のネーミングでいこうという思いに至りました」

走り出したばかりの「育休後コンサルタント」。今は企業向けに自分のしていることを知ってもらうための期間だと考えている。企業には、女性社員が能力を発揮できる環境作りに取り組むことを組織改革の一分野として考えてほしいと思っている。女性社員には、基本的に自助努力を期待している。

2010年は「ワークライフバランス・カフェ」「育休後トーク」といったイベントを開き、育休後復職した経験談などを語り合うなどして好評だった。「自分の職場や近くにモデルとなるような人がいなくても、ほかの会社に目を向けたらこんなに活躍している人がいるよ、ということを伝えたい。女性社員自身が自らの可能性に気付き、自分は本当はどうしたいのかということに気付くきっかけ作りをしたいと思っています」

1人でも多くの女性が、育休後も能力を生かしながら輝いて働き続けてほしい。もっと言えば、育休後に限らず、介護しながら働く人や国籍・バックグラウンドが異なる多様な人材が、それぞれの力を存分に発揮できるような組織や社会になってほしい。それが山口さんの願いだ。

山口さんのお仕事道具

vol51_4.jpgパソコンは、MacBook Airの11インチを使用。「営業や打ち合わせの合い間にカフェなどで仕事することも多いので、薄くて持ち運びやすさ重視で最近買い替えました。スケジュール帳は、佐々木かをりさんプロデュースのアクションプランナーを数年来愛用しています」

ある一日のスケジュール

05:30 起床。朝食と弁当作り
07:30 子どもたちを送り出す
08:00 掃除や洗濯
09:00 仕事
12:00 昼食
13:00 打ち合わせへ外出
16:30 打ち合わせ終了後、夕食の買い物などへ
18:30 子ども帰宅
19:00 夕食
19:30 片付け、子どもたちとテレビを見るなど家族だんらん
20:00 仕事
23:00 入浴後、就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

気分がなかなかのらないときは、「数独」をやると気分転換になります。朝日新聞の土曜版Be on Saturdayにある数独は、毎週欠かさずやっています(笑)。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

スキルアップのため、自分ブランディングのために心がけていることは?
メルマガを複数購読して情報収集し、シンポジウムやイベントに積極的に足を運んでいます。多くの人の事例が聞けるようなイベントや、注目している人の講演をとくに選んでいます。
フリーランスになってのメリット・デメリットは?
メリットはストレスが少ないこと。誰かに指示されたことではなく、好きなことをやっているので心地いい。デメリットは自宅でやるということもあって、切り替えが難しい。ついのんびり家事をやっていることもしばしば。
フリーランスになって思っていた以上につらかったり大変だったりしたことは?
一番大変なのは1人だということ。自分で自分の計画や目標を立て、自分で守っていかなければならないが、やらなくても誰も困らないことだと、つい「まあいいや」となってしまいがち。自己管理ですね
好きな言葉は?
「情けは人のためにならず」。情けをうけたら、それを返せるときに返すように心がけています。育休後、復帰された人の中には、親切にされることを負担に思う人がいるのですが、それはありがたく受けとめて、自分がいつか返せるときが来たら、他の人に親切にして返せばよい、と思いますね。
新しい分野でやっていきたいと思っている人へのメッセージは?
自分でなければできないことがあるということを意識すること。この部分は自分にしかできないというところを見つけてほしい。現代は、検索すれば表面的な情報は簡単に入手できる。その先のもの、自分にしかできない何かを見つけることが大切です。

育児休業後の女性の働きをサポートしたい
企業勤務25年の経験を生かしてピンポイント起業

室井佳子

Writer 室井佳子

ライター。地方紙の新聞記者を経て、2007年よりフリーランスに。取材、記事執筆、講演要旨の作成、校正などを請け負っている。関心ごとは、生き方・働き方、生活、教育。学生時代にかじった心理学が心の支え。好きなものは漢字とクジラ! 日本語検定1級。2003年、2009年生まれの2人の男児と夫とともに、富山県に在住。

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