Vol.52 古民家鑑定士 都澤陽子さん

Profile

青森県出身。高校卒業後、住宅メーカーに大工として3年間勤務。その後、接客業などのアルバイト期間を経て設計事務所に転職。7年間の在職期間中にはリーダーの経験も。結婚・出産とライフスタイルが変わったのを機に2010年3月に正社員から業務委託で製図のみを請け負う勤務スタイルに変更し、2011年から古民家鑑定士として完全フリーランスとして活動。現在はご主人と3歳になる娘さんとの3人暮らし、2011年3月に第二子を出産予定。

念願のリーダー就任後に妊娠。働き方を見つめ直すきっかけに

古民家鑑定士とは、古民家の文化的価値や建物の耐久性を元に販売価格の目安を鑑定したり、古民家の部材を再活用できるかなどの判別を行う資格である。また、部材の再活用や移築、再生などのリユースを促進し、文化的遺産として古民家の認識を高める活動も並行して行う。

古民家鑑定士として活動する都澤陽子さんは「前の会社では部長になりたかったんです、社長じゃなくて(笑)」と話す快活な女性。管理職希望というとフリーランスからは遠い働き方にも思える。

以前は個人住宅の設計事務所に勤務していた。入社を決めたのは「男女平等に評価する」という社長のひと言があったから。結婚後も「リーダーになりたい」その一心で、休日出勤も終電近くまでの勤務も厭わずにハードに働いていたという。彼女の仕事に対する考え方が変わったのは第一子の育休後だった。

vol52_6.jpg 「設計事務所に入社し3年目で念願のリーダーになったのですが、翌月に妊娠が判明。喜びつつも少し動揺する自分がいました、今の働き方で、子育てをしながらリーダーはできないなって。でも、1年の産休・育休後、時短勤務で復帰して3ヶ月でリーダーに戻れたんです。本当にうれしくて! そこで、自分も含め、みんなが働きやすい環境を整えたいと、通常業務である図面描きのほかに、社内の体制作りにも力を入れてフル稼働で働いていました。でも、休日出勤ができないなどの制約に対し、優遇されている、と思った同僚もいたようで......。これを聞いた時はとてもショックでしたね。同時にスタッフは、働きやすい環境ではなく、図面を量産できる同僚を求めているのかもしれない、と考え始めたのです」

事務所に不満はないが、組織の中で働いているからこそ、設計図面を描くだけの仕事はしたくない。自分が働くことで家族にも負荷がかかっている。都澤さんは、頑張りが報われないのであれば好きなことを仕事にし、家族や自分のために力と時間を使いたい、と次第に思うようになっていったという。そして、2009年末、7年間勤めた会社を一度退職し、製図のみを請負う業務委託契約で働くことにした。

ワークスタイルの変化の中で出合った、古民家鑑定士の仕事

vol52_4.jpg働き方を変えて、時間に拘束されることがなくなり、気持ちにも余裕ができた。しかし、都澤さんは製図を書くだけの仕事では物足りなかった。他の会社からも仕事を請けられるようにしたい、そのためには自分で組織を作ることが必要なのではないか? 設計事務所の設立を考えはじめたが、その矢先に2人目妊娠が発覚。事務所設立は将来の夢に変わった。では、今は何をしようか......。その時に父親の他界をきっかけに知った、古民家鑑定士の仕事を思い出したのだ。

大工だった父親が建てた家屋は古くなれば壊されていく。古民家にはこれまで伝えられてきた職人の技術や細かな仕事が息づいている。この職人技を絶やしたくない、後世に伝えたいと考えていた都澤さんの思いと重なった。

「ピン!ときました、これを仕事にしようって。まだまだ市場が開拓されていない分野で、挑戦しがいもある。自分がやりたい組織・体制作りを、会社ではなく業界全体でやってみよう。古民家の文化的価値の認識を広め、リユースの動きを活発化したいという気持ちもありましたので、これはチャンスだと思ったんです」

その後、無事に資格を取得し、昨年5月から、業務委託の製図の仕事と並行して夜や週末を利用して、古民家鑑定士としての活動を開始。しかし現在、妊娠中ということもあり、鑑定のために現場での仕事も難しくなってきたそう。

「今は古民家に関するイベント広報など協会の仕事を請け負っています。また、講師資格も取得したので、その活動もスタートさせました。古民家の鑑定料は一律3万円。正直、1件単位の鑑定料で収入を安定させるのは難しい。集落全体など複数物件の鑑定を受けるくらい有名になれば話は別です。クチコミで評判になるケースもあるので、まずは名前を知ってもらうことからですね。講習会で『講師の都澤陽子です』と言えるのはメリットかなって(笑)」

鑑定士として新たな価値観を提供し、市場を活性化させたい

vol52_3.jpg今後の目標について尋ねると、カラフルなマインドマップを机上に並べてくれた。目標実現のため、2年前からマインドマップを描くようになったという。好きな花である椿や家族をモチーフに都澤さんの夢がぎっしりと詰まっている。

「今は仕事4:主婦6の割合ですが、10年後には仕事8:主婦2くらいになっているのが理想かな。子どもには自分の働く姿を見せたいですね、私も母の働く姿を見て育ったから」

そして、ゆくゆくは今の活動をベースに、古民家再生を手がけるような設計事務所を設立し、会社員、フリーランス、主婦......どんな立場の人でも関係なく働ける場所を作りたいという。

「依頼主は鑑定のみが目的でなく、何らかのアクションを起こしたいと考えているんです。売りたいのか、建て替えたいのか、取り壊したいのか。希望によって、良い工務店や大工さんなどを紹介することもできますし、家屋の部材を流通にのせれば売れるかもしれない。鑑定から最終決着までのコンサルティングを任せてもらえるような鑑定士になりたいですね。また、文化的価値や古民家ならでは魅力を多くの人に伝え、住居選択の中に『古民家』という選択肢ができるくらいに市場を活性化させたいです」

都澤さんのお仕事道具

vol52_5.jpgチェックリスト、メジャーのほかにデジカメも必須道具。1件あたり200〜300枚の写真をとり、帰宅後、見落とした項目がないか、写真をもとに判断する。また、写真を動画のように編集し、依頼主に贈るサービスも行っている。

古民家鑑定士の仕事ってどんなことするの?

vol52_1.jpgメジャーを使い、梁の幅などをひとつひとつ測っていく。部材を売ることはできるのか、代替できるのか、なども考えつつ現場で作業を行う。

vol52_2.jpg協会が定めた460の項目をくまなくチェックしていく。個人的な価値観で判断しないよう、細かな基準が設けられている。鑑定後はリストと鑑定結果のレポートを協会に提出。後日、協会から戻ってくる古民家鑑定書と詳細な情報が記入された調査報告書を依頼主に送付する。

ある一日のスケジュール

05:00 起床。朝食・夕食の下準備。洗濯と掃除は1日交代で
06:00 身支度。メイクをしながらメール・ブログ・twitterをチェック
07:00 家族を起こし、朝食。夫は帰宅時間が遅いので、家族が揃う朝食の時間を大切にしている
08:00 家族で家を出て、子どもを保育園へ。その後、帰宅し家で仕事をすることもあれば、現場や協会に行くことも。今は「民家の甲子園」 のPR活動のため役所や銀行などを訪問し広報を募っている
15:30 保育園のお迎えに。その後スーパーで買い物し、帰宅
17:00 夕飯の準備。朝のうちにある程度仕込んで、簡単に用意が整うようにしている
18:00 子どもと二人で夕飯。夕飯後はTV、読書など二人で過ごす
20:00 入浴タイム
21:00 寝かしつけ。子どもが眠った後、部屋のおもちゃを片付けるなど家事を少し行う。夫と続けている交換日記を書くことも
2200 就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

砥石を使って包丁を研ぐのがリフレッシュ法だそう。「大工時代、カンナなど道具の手入れはすべて自分で行っていました。研いでいると初心に帰ることができるんです、頑張ろうって。研ぐ作業だけに集中できるのもいいですね。かなり真顔でやっているので、誰にも見せられない姿ですけど(笑)」

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

フリーランスで働くメリット・デメリットは?
メリットは自分のやりたいことを自由にできる、時間も自由に使えますしね。デメリットは収入が不安定なことでしょうか。あとは時間に制限がないのでダラダラしてしまうこと。自分を律する必要がありますね。
スキルアップのためにしていることは?
依頼主の前で「わからない、知らない」ということがないよう、戦前の住宅図面も読みこなせるように、協会が主催する勉強会などに参加して知識を得ています。また、インテリアコーディネーターの資格取得に向けても勉強中です。
家庭と仕事を両立する工夫はありますか?
時間の使い方でいうと、朝・夜と日曜は家族で過ごすために使います。あとは夫の理解と協力!「ありがとう、さすがだね、スゴイ!」などと褒めて育てて(笑)、どう巻き込むかですね。我が家では、お互いに下の名前で呼び合っています。パートナーとして対等の存在でいたいので、そこはこだわっていますね。
座右の銘は?
「やってやれないことはない、やらずにできるわけがない」。昔から母に言われていたんです。「できないよ〜」って言うと、やってみないとわからないよって。社会に出てから、その通りだな〜って実感しています。
都澤さんのような働き方を目指す人にアドバイスを!
自分を信じ、ポジティブに行動することが大事だと思います。行動していると、不安な気持ちってあまり感じないんですよ。人と話しているだけで気づきがありますしね。好きで、わくわくすることを基準に仕事を選ぶ方が頑張れると思いますよ。

写真・北川輝美

古民家の文化的価値や魅力を伝え、
業界全体を活性化させたい!

須磨ますみ

Writer 須磨ますみ

前は編集・ライター、今は会社員+週末ライター。
各種インタビュー、仕事系、グルメ、ウエディングなどの編集・ライティング経験あり。

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