Vol.56 イラストレーター 伊藤さちこさん

Profile

Webデザイン事務所に勤務しながらイラストレータースクールに通い、2006年に独立。約2年半の営業活動と下積み期間を経て、売れっ子イラストレーターに。現在は、女性誌や書籍に多数のイラストレーションを提供しているほか、パッケージのキャラクターデザインを手がけるなど幅広く活躍中。趣味は、独立と同時期にはじめたアシュタンガヨガ。2010年末に電撃婚約し、2011年秋には第一子を出産予定。

伊藤さんのサイト
イラストレーター伊藤さちこのホームページ

コネなし、実績なしの下積み期間

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これまでの仕事実績を紹介している伊藤さんのサイトはこちら>>

くすっと笑えるコミカルなタッチで心が和んだり、見ているだけでハッピーな気持ちになれるイラストレーション。「ファンキーでビバ!な絵を、楽しい気持ちをたくさん込めて描いています」と話すのは、現在、雑誌などでひっぱりだこの人気イラストレーター・伊藤さちこさん。


イラストレーターという仕事の存在を知り、目指そうと思ったのは、デザイン事務所でWebデザイナーとして働いていたとき。上司に「デザインのセンスはないけど、イラストのセンスはあるからそっちの勉強をしてみたら」といわれたのがきっかけだった。元々「手に職を持ちたい」という思いでWebデザイナーになったものの、自信を失いかけていたという伊藤さん。確かに、ロゴやポイントのデザインが得意だったこともあり、藁にもすがる思いでイラストレーターを目指すことに。仕事が終わった後、週に2回、イラストレータースクールに通っては腕を磨いた。

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イラストレータースクールはどうやって選んだの?「スクールによって指導方法がだいぶ異なるので、見学に行ったり、資料を集めたりしてかなり研究しました。私は大手スクールと個人の先生が開いているスクールの2カ所に通いました。自分に合ったスクールを選ぶのが大切だと思いますよ」

帰宅後や休みの日には作品を描きため、並行して営業活動もスタート。コネも実績もないので、まずは手あたり次第、雑誌に掲載されている編集部の窓口に電話をかけまくった。しかし、当然のことながら会ってくれるところは少なく、はじめは惨敗続き。でも、伊藤さんは決してめげなかった。


「スクールの先生から言われたんです。『イラストレーターになりたい人は星の数ほどいる。その中から勝ち抜いて食べられるようになるには、相当の下積み期間が必要だ。50件営業して1件仕事がもらえればよい方。最低でも100件は営業しなさい』って。だから、断られても、こんなもんなのかなあって。軽く100件以上は営業しましたね」

そのうち、実績はないけれども仕事を依頼したいという会社が現れる。最初の仕事は、なんとお地蔵さんのカットだったとか。「とってもうれしかったですね。小さいカットでしたが、本屋に行くたびに掲載されている雑誌をチェックして(笑)。その雑誌は今でも丸ごと一冊、大事に取ってあります」

『イラストレーションファイル』掲載を機に仕事も安定

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『イラストレーションファイル』は、日本の第一線で活躍するイラストレーターが紹介されており、出版社や代理店をはじめ、制作関係者の多くが活用している一冊。

実績ができると、自作のホームページに追加し、「新作ができたので、また見てください!」と再度編集部を訪問。帰宅後は、お礼メールとともに、「よかったらホームページも見てみてください」としっかりフォローする。このサイクルを繰り返し、イラストレーターで食べていきたい一心で、粘り強く営業活動を続けた。そして、仕事が数件決まったのを機に、伊藤さんはデザイン事務所を退職することにする。


「性格的にやるならとことんやりたいタイプ。辞めることで、自分を追いつめられると思ったんです」。アルバイトと並行しながら、作品を描きためては営業を続け、イラストレーション1本で食べていけるようになる頃には、2年半の月日が流れていた。

「私はものすごく時間がかかった方だと思います。スクールで一緒だった仲間は、1年くらいで売れていっていましたから。でもそれが私にとっては刺激になり、励みにもなりました。『私も絶対に食べていけるようになってみせる! がんばろう!』って」

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トヨタの買取りネットワーク「T-UP」のサイトでは、伊藤さんがデザインしたキャラクターを使ったテレビCM映像やパソコンの壁紙などがダウンロードできる。

仕事が安定するようになったきっかけは、玄光社が発売している『イラストレーションファイル』に掲載されたのが大きい、と伊藤さんは話す。それを機に、仕事の内容も、雑誌や書籍のイラストのカットから、コミカルなタッチを活かした読者体験マンガ、さらにグッズなどのキャラクターデザインへと幅も広がっていった。現在、テレビCMで流れているトヨタの買取りネットワーク「T-UP」の赤い鳥のメインキャラクターも伊藤さんが担当したものだ。

売れっ子イラストレーターとなり、忙しいときには、趣味のヨガと、食べる・寝るといった基本的な人間活動以外は土日もフル開店状態の日々。でも、下積みが長かった分、忙しさはとてもありがたく、何の苦痛もなかったという。

突然訪れたWハッピーな出来事。そして今後は......

そんな仕事三昧のライフスタイルががらりと変わる転機が、2010年暮れに突然訪れる。7歳年下の彼ができ、付き合い始めて2週間後にプロポーズされて電撃婚約。さらに、まもなくおめでたが発覚し、結婚、妊娠のWハッピーの波が一気に押し寄せたのだ。年明けには同棲生活が始まり、ライフスタイルも一新。「基本、土日は仕事をしなくなりましたね。土日休みってこんな感じだっけ?とかなり新鮮な感じです」

秋に出産を控え、ジェットコースター級の人生の転機の真っただ中にいる今の心境を率直に聞いてみた。不安はないのだろうか? 「これまでは、"来た仕事はなんでもキャッチ!"というスタイルでしたが、それはできなくなる覚悟はしています。出産後、今の仕事量のどこまで戻せるのか、というのは正直不安ですね。でも、これまで一人でがむしゃらに走ってきたので、ここで少しインターバルを置いてみるのも悪くないかなと思って。自分だけのペースではなく、これからは家族とのバランスをみながら、仕事を続けていきたいなと思っています」

vol56_6.jpg「私のイラストに需要がある限り、描き続けたい!」と話す伊藤さん。今後は、キャラクターデザインの仕事を増やしていきたいという希望がある。「自分がデザインしたものが、実物になって動いているのをみると、とてもうれしくてやりがいを感じました。内容も細かく、責任も重大になりますが、チャンスがあればどんどんチャレンジしたいですね!」

成功するフリーランスには必須ともいえる、持ち前の明るさと芯の粘り強さを兼ね備えた伊藤さん。出産後は、さらにパワーアップして楽しいイラストレーションで私たちをほっこり和ませてくれるに違いない。

伊藤さんのお仕事道具

vol56_7.jpg取材時に持参するデジカメとペンケース。ラフ原稿を手書きで起こしてから、パソコンで色づけしていく。

ある一日のスケジュール

07:20 起床後、朝食の準備
08:00 朝食後、夫を見送り、家事
09:00 仕事開始
14:00 昼食
15:00 仕事再開
18:00 仕事終了後、買い物へ行き、夕食準備
20:00 夫帰宅後、夕食
22:00 入浴
24:00 就寝(忙しいときは仕事をすることも)備
妊娠前のスケジュール
(※週4回、朝ヨガクラスへ通っている時の場合)
04:00 起床、身支度
05:00 家を出てヨガスタジオへ
06:00 ヨガのクラススタート
07:30 ヨガのクラス終了
08:00 帰宅後、朝食
09:00 仕事開始(以下は、上と同じ)

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

仕事のお供であるコーヒー。妊娠前は一日1リットルくらい飲んでいたとか。「今は、カフェインレスのコーヒーで我慢しています」

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

独立後の不安は、どのように乗り越えましたか?
イラストレータースクールで知り合った仲間の存在です。スタート時期が同じ仲間がイラストレーションで食べていけるようになっていくのを見て「私もがんばろう!」と刺激を受けました。先輩や仲間と知り合えるという点でも、スクールに通うのはよいと思います。
メンタル面はどのようにコントロールしていますか?
現在は妊娠中のためお休みしていますが、週4日、朝4時に起きてヨガのクラスに通っていました。腰痛改善のために独立と同時期に始めたのですが、どんどんはまってしまって。ヨガの最中は、いろいろな不安を手放すことができるので、頭の中が空っぽになってとてもいいリフレッシュになるんです。私にとってはイラストレーションと同じくらい大切なもの。安定期に入ったらまた再開するつもりです。
スキルアップのために続けていることは?
雑誌やイラストレーションファイルなどでいろいろな方の絵を見て、今どういう絵が売れているのかや、マンガの表現方法などを参考にしています。あとは、年賀状やメッセージカードなどで仕事ではない絵を描いて、自分の絵を客観視する機会を作っています。今は、妊婦健診でもらう赤ちゃんのエコー写真をアルバムに貼って、まわりに自分の絵を散りばめてみたり(笑)。気合いを入れすぎずに、息抜きになるように描いています。
効率よく営業する秘訣は?
自分のイラストがどの媒体に合っているのかを客観的に見て営業することでしょうか。すでにその媒体で採用されているイラストを研究してみることも大事だと思います。また、営業の際に、編集者さんにいろいろアドバイスされたりダメだしされたりすることもあると思うのですが、「なるほど、確かにそうだな」と思える姿勢を持つことも大事だと思います。イラストレーターの仕事は依頼があって、それに合わせた絵を描くことにあるので、相手の要望に合わせて柔軟に対応できるよう、自分の作品を客観的に見る目を持つことも大切だと思っています。
イラストレーターになりたい方へのメッセージ
イラストを描き貯めてそのままにしている人や、1〜2件営業に行ってダメだっただけで辞めてしまう人が多いのですが、それはもったいない! 粘って、行動あるのみです。

(写真・北川輝美)

決してあきらめない、粘りの営業活動で
イラストレーターへの道を自ら拓く

オノリナ

Writer オノリナ

Webプロデューサー・リズムーン編集長
リズムーンを運営する合同会社カレイドスタイル代表。女性向けWebメディア編集、フリーランスを経て、2014年に法人を設立。国内外のネットワークを活かして最適なチームを組みながら、研究機関のサイエンスアウトリーチ支援や、企業オウンドメディアの女性向けコンテンツ企画・制作を数多く手がけている。また、独立時に苦労した自らの経験から、女性フリーランスコミュニティ「リズムーン」を2009年に立ち上げ、「個」が主役の多様な働き方を加速させる社会の実現に向けた事業・サービスを展開している。プライベートでは、3人の子を持つワーキングマザー。趣味は卓球。

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