Vol.67 ブランド戦略コンサルタント 岡本佳美さん

Profile

1973年生まれ。大学卒業後、広告会社に4年間勤務し、26歳でフリーランスのマーケティングプランナーとして独立。独身時代、仕事と育児の両立の難しさに問題意識を持ち、個人的に1年間のフィールドワークを行う。2005年、病児保育問題を事業によって解決するNPO法人フローレンスの創業に参画。本業との二足のわらじでNPOのマネジメント業務に関わり手腕を発揮。2008年、フローレンスの副代表から理事になり、本業であるコンサルタントの仕事を主軸に戻す。同時に、それまでの屋号を法人化し、株式会社アムを設立。2011年4月に長女を出産し、一児の母。

"覚悟"が決まった独立。言い値で受ける仕事スタイルで年収1000万円

現在、マーケティング・コミュニケーションやブランディングのコンサルティングを行う会社を営む岡本佳美さん。学生時代に思い描いたキャリアプランを実現するために、あえて小さい会社を狙って就職し、マーケティングプランナーとして独立して今年11年目を迎える。

「私が就職活動の時はまさに就職氷河期だったので、出産・育児などのライフイベントを含めて、自分のキャリア形成にとって最もリスクの高いケースを想定し、卒業後すぐにやっておくべきことを考えました。それは、私が仮に25歳で結婚・出産し、あまりにも子育てが楽しくて仕事を辞めたくなったと仮定し、10年のブランクをおいて再就職を考えたときに、消去法でしか仕事を選べない人生にならないようにするためには、結婚前に人の3倍以上の仕事をして、相当の実力と人脈を身につけなければ!というものでした。そこで、大企業ではなく、即戦力として使ってもらえる小さい会社を選びました。今では考えられないくらいの仕事量でしたね。週3日は会社に泊まるほどでしたが、楽しかったです」

転機が訪れたのは26歳。仕事ぶりが評価されて、引き抜きの声が掛かった時だった。

vol67_1.jpg「業界大手の企業で魅力的でしたが、その会社で働く自分がイメージできなかった。でも、これがきっかけで独立を考えるようになりました。当時、多くのプロジェクトでご一緒していたマーケターの二人の先輩がいて、彼らとの仕事を通じてもっと勉強したいと思ったんです。当時の状況からすると独立するしか手段がなかったのですが、正直、自分が独立するなんて考えたこともなかったので、かなり躊躇しました。そこで、先輩方に相談してみると、意外にも応援してくれたんです。そして、独立に必要なものはたった1つだと。その答えは教えてもらえず、半年間、自問自答を繰り返して辿り着いたのは、資金でもなく、オフィスでもなく、人脈でもなく、クライアントでもなく、"覚悟"でした。この"覚悟"はその先いろんな場面で私の指針になりました。独立直後に見舞われたいくつかのトラブルを乗り切ることができたのも"覚悟"ができたからです(詳しくはこちらから>>)」

岡本さんは、独立してから見積書を書いたことがなかった。フリーランスのマーケティングプランナーの相場がわからなかったし、指名してもらえたこと自体が嬉しくて、常に"ご予算の範囲で"と、答えていたという。しかし、一つひとつの仕事が認められ、どんどん軌道にのっていき、独立3年目にして、目標にしていた年収1000万円を超えたという。

「目標を達成したときはとてもうれしかったですね。年収ってフリーランスにとっては分かりやすい成績表みたいなもの。でも、目標をクリアしてみると、この先の目標は年収3000万円を目指すことではないなあ、と思ったんです」

NPO法人の副代表とマーケターの二足わらじに

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フローレンス代表駒崎さんの著書3冊。企画段階で岡本さんも制作に携わった。「ソーシャルビジネスに興味のある方には、ぜひ読んでいただきたいです。『働き方革命』はワーキングマザー必読です」。左から、『「社会を変える」お金の使い方――投票としての寄付 投資としての寄付 』『働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書) 』『「社会を変える」を仕事にする社会起業家という生き方 』。

岡本さんには、もう一つの顔がある。2005年に病児保育サービスを展開するNPO法人フローレンスの立ち上げから関わり、副代表、そして理事としてフローレンスの事業を支えてきた。そのきっかけはなんだったのだろうか。

「ちょうど、今後の働くスタイルを模索している時期に、広告代理店との仕事で育休明けの女性と同じチームになりました。彼女は、そのプロジェクトの中核を担う人だったのですが、会議中、子どもが熱を出したと保育園から連絡があり、お迎えに行ってくれる人を確保するために、各所に頭を下げながら奔走していました。そんな彼女を見たとき、『育児休暇、時短勤務、看護休暇などの充実した制度が整った会社でもこんなに両立が大変なのであれば、フリーランスは比較にならないほど大変なのではないか?』という疑問が湧いてきました。正直、絶望的な気持ちになりましたが、子育てのために仕事を辞めることは考えられなかったので、なんとか対策を考えなければなりません。それで、約1年間、個人的な自由研究と称して情報収集をしました。論文を読んだり、育児やワーキングマザーのコミュニティに参加したりして、とても刺激的な一年間でした」

研究の末、育児と仕事の両立問題は根深いことを知り、いつかは自由研究の成果を社会のために役立てたいと思うように。でも、それは岡本さんが結婚・出産を経験して育児が一段落ついてからのことだと思っていた。そんな矢先、友人の紹介で現NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんと出会う。

「駒崎さんとの出会いは大きな転機となりました。駒崎さんは独身男性なのに、今まさに、育児と仕事の両立支援の事業をスタートさせようとしている。私が今行動を起こさない理由なんてない、と気づいたんです」

そこで岡本さんは大きな決断をする。

「8割の時間をフローレンスに、2割の時間をマーケティングの仕事に費やして、それまでの8割の収入を確保しよう、と決めました。フローレンスの仕事はボランティアでしたが、自分のプライオリティはフローレンスに置くことにしたんです。不思議なもので、覚悟を決めた途端に、マーケティングの仕事で1年契約のプロジェクトの依頼がありました。かなり条件のいいプロジェクトだったので、マーケの仕事はその一本に絞って、フローレンスの事業にどっぷり情熱を傾けました。当時、独立してから初めて仕事の依頼をお断りしたのですが、本当にドキドキしたのを今でもよく覚えています。それでも、年収は7〜8割をキープすることができました。

フローレンスではマーケティング以外のことも多く経験しました。インターンの学生には仕事のイロハから教える必要があったし、事業の根幹となる病児保育サービスの内容を整備したり、フローレンスの組織化に必要な、総務、人事、経理といったあらゆる業務を仕組み化する必要がありました。また、マーケティング業務に関しても、まったく予算がないために(笑)かなり知恵を絞る必要がありました。フローレンス以前のビジネスセクターでは出来なかった経験を、たくさんさせてもらいましたね」

マーケター軸に戻って、これからやりたいこと

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2009年12月に開催された「プロボノフォーラム」で講演した時の様子。

2008年、フローレンスは3年で黒字転換した。その時、岡本さんは次の転換を感じていた。

「フローレンスが急速に成長し組織化、ルール化が急務である中、責任ある立場の私が二足わらじであるためにダブルスタンダードになってしまうことは避けなければと考えるように。それに、当時はフローレンスのような事業型NPOが注目を集め始めた時期で、学生が卒業後に起業するスタイルが多かったんです。それは素晴らしいことなのですが、そういったNPOが確実に成果を出せるようになっていくためには、ビジネスセクターで経験を積んだ人材をNPOの世界に流入させ、組織のキャパシティビルディング(能力強化・向上)をしなければ、という思いが強くなりました。駒崎さんと話し合った結果、フローレンスの副代表から理事となり、元の仕事に主軸を戻して、新しい課題に挑戦することにしました」

マーケティングの仕事に戻った後、フローレンスでの岡本さんの活躍を知っていた人たちからどんどん仕事が舞い込んだ。しかもこれまで広告代理店経由だった仕事が、今度はクライアントと直接やり取りする仕事が多くなった。「これにはちょっと驚きました。フローレンスでの経験が、私に新しい仕事とクライアントを連れて来てくれました。クライアントからの直接受注の仕事は、経営トップが自ら関わるプロジェクトになることが多かったので、仲介してくださる人たちのためにも会社を法人化し、社員を2人雇うようになりました」

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岡本さんのお仕事道具。アイディアは白地のスケッチブックに手描きで。PCで企画書にまとめる。シャープペンは、モンブラン製。よくなくすので名前入り。Mac Book Airはたいていいつも持ち歩いている。

岡本さんは状況に合わせて、仕事量のコントロールやプライオリティーをフローレンスにしたり、マーケティングの仕事に戻したりと自分のやりたいスタイルに合わせて柔軟に対応させてきた。これもフリーランスだからこその働き方と言えるのではないだろうか。そして、2011年4月には第一子を出産。学生のときに想定していた、「最も自身のキャリアにとってのリスクの大きい人生」とは大きく異なっているが、つねに"今"が一番充実していて想像以上に楽しい人生になっているという。そんな岡本さんが次に取り組もうとしていることは?

「近い将来、ソーシャル・ビジネスを世界的に牽引しているアメリカ西海岸で仕事をしようと考えています。日本では、NPOなどのソーシャル・セクターは、まだ市民権を得たとは言えない状況です。しかし、アメリカでは、年収1,000万円を超す敏腕のビジネスパーソンがNPOに転職することも珍しくありません。現地のNPOで働いて、どのように人やお金がソーシャル・セクターに流入しているのか、NPOを取り巻く生態系を研究し、日本に持ち帰りたいと思っています」

ある一日のスケジュール

08:00 起床。授乳のあと、朝食
09:00 洗濯など家事をしつつ、メールチェックなど
10:00 娘と近所をお散歩
11:00 娘のシャワー&ベビーマッサージ&授乳
12:00 昼食
13:30 客先でベビーシッターさんと合流。授乳後に、講演登壇
16:00 講演終了後すぐに授乳
17:00 帰宅。娘と遊びつつ、掃除・洗濯など
19:00 授乳しつつ、寝かしつけ
20:00 夕食。夕食の支度は夫が担当してくれているので、とても助かる!
21:00 お風呂に入ったり、夫と話したり
22:00 授乳しつつ、一緒に就寝。その後、3時間おきに授乳に起きつつ、翌朝を迎える

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

夫と話すことですね。話すことで、自分自身が客観的に考える助けにもなりますし、彼から違う視点をもらえるので、気持ちを整理することができて、次に進めるような気がします。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

独立後の忘れられないエピソードは?
独立後初めての仕事のギャランティーの振込が、もろもろの手違いで半年後になってしまったこと。それに加えて、打ち合わせ中、独立祝いで親にプレゼントしてもらったノートパソコンの上に飲み物がこぼれてハードディスクが壊れてしまい......。さすがに落ち込みましたが、「これは覚悟を試されてるんだな」と思って、転んでもタダでは起きないぞ!と気持ちを切り替えました。例えば、ハードディスクのバックアップを日常のワークフローに組み込むとか、セキュリティ対策のきっかけになりました。今となっては笑い話ですね。
新しい仕事、未来を切り拓いていくために大切なことは?
私の場合、ポートフォリオを持って営業するという職種ではないので、今、目の前にある仕事を評価してもらえなければ次の仕事はない、そのためにも今に全力投球して顧客満足度120%を目指していました。人生において、楽しい未来を切り拓くというのも同じだと思います。今、置かれている環境を120%楽しめば、そこから新しい何かがきっと拓けていくのではないでしょうか。
プロボノと仕事の両立を目指す上で大切なことは?
「世の中に、ちょっといいことをしよう」なんて思わないこと。それだけでは絶対に続きません。ボランティアは何の強制力もなく、単にやりたいから、やるものです。でも、やりたくなくなる理由なんていくらでもある。だから、そもそもなぜやりたいのか、正直な「自分のための動機」が大切だと思います。また、自分の専門性をNPOに伝えることも大切ですね。特定の社会的課題を解決できる専門家(NPO)と、専門的なスキルと明確な動機を持ったプロボノがタッグを組む。当たり前のことですが、両立を長続きさせるために一番大切なポイントだと思います。
尊敬している人は?
独立のきっかけをくださったマーケターの先輩お二人と、フローレンス代表の駒崎さんです。駒崎さんには、社長業や経営とは?について多くのことを学ばせてもらいました。フローレンスに関わるまでは、正直なところ、会社という形態にまったく興味がなかったんですが、組織や仕組みを作り上げていくことはおもしろいものだ、というのを教えてもらった気がします。この経験があったから、自分も法人化に踏み切れたという側面もあります。
フリーランスとしての成長の考え方、目標設定について
目標であった年収1000万円をクリアしたときに、次に例えば3000万円を目指す、というのはちょっと違うと思いました。でも、成長していかないと自分も不安になるし、成長している実感は欲しい。そこで、売上数値ではないハードルを自分に課すことにしました。これまでフルタイムで働いて1000万円を稼いだなら、週3日で1000万稼げるようになろうと、自分の中のハードルをあげました。そして、残りの時間はNPOなどのソーシャルな活動に使うことで、自分のフィールドを広げるようにしています。

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