Vol.72 PR・広報会社経営 佐藤美惠さん

Profile

1992年、プランタン銀座に入社。全館の情報をメディアに売り込む広報パブリシティ担当としてPR業務を行う。2001年にフリーランスPRとして独立。主に女性雑誌とのパイプの太さを生かし、ファッションや化粧品、インテリア、美容クリニック、審美歯科など多数のPRを手掛ける。2010年8月にブリッジ株式会社として法人化。

佐藤美惠さんのサイト
ブリッジ株式会社

プランタン銀座で、人気職種の「広報」に

vol72_1.jpg 企業が出す新しい商品や企画は、新聞や雑誌、テレビなどのマスメディアに取り上げられると、認知度が一気にアップするものだ。企業などから依頼を受け、マスメディア向けに新商品などを紹介する「PR・広報」という仕事を専門に行っているのが、佐藤美惠さんである。

 時流に合ったキーワードを盛り込み、効果的に写真を配してひときわ目を引く佐藤さんのプレスリリースは、一日何百通もそれらを受け取るマスメディアの担当者の目にもすぐに止まるという。各媒体の個性や顧客層を調査した上で効果的な配信先を選び、さらに担当者へ個別のアプローチやキャラバンを行うきめ細やかさが売りだ。

 佐藤さんは大学卒業後、プランタン銀座に就職した。1年間、雑貨売り場の担当をした後、希望していた人気職種の「広報」に異動。ファッションをはじめ、リビング、アート、食品、カルチャースクールなど全館の多彩な商品やイベントについて、外部へ情報発信する業務を担当した。

「広報業務は、それぞれの売り場でその道の専門家に話を聞くことから始まり、素敵な商品やその価値を知ることができます。それをうまくPRして、メディアに取り上げてもらい、結果的に売り上げに貢献する。とても面白い仕事でした」

 ただ百貨店業界の常として、土曜・日曜の出勤は当たり前で、セールの応援として売り場に立つこともあった。次第に、広報・PRのプロフェッショナルになりたい、専門分野を持って極めたいという思いが募り、退職を決意する。入社から9年がたっていた。

「ママは何をしているの?」で法人化を目指す

 2001年、フリーランスのPRとして独立。知人の紹介や口コミで仕事が次々と舞い込んだ。「気を付けたことは、メディアの方たちとの"関係づくり"です。ある程度距離を保ちつつ、忘れられないようにコネクションを持っておくようにしました。もちろん、目を引くプレスリリースづくりにはとことんこだわりを持っています。広告費を多くかけられなくても、戦略的にPR・広報を行えば、同等以上の宣伝効果をもたらすことができます。それはまさに、PR・広報活動を重視するプランタンの精神であり、それが今でも生きていますね」

 2004年に愛娘を出産。産前産後は仕事の分量を少し減らしたものの、近くに住む実母の手助けを借りて仕事を続けた。生後8ヵ月から週3回の一時保育を利用しながら、都内での打ち合わせやキャラバンに出かけた。一時保育がない日は、子どもが昼寝している時間や深夜に仕事するという不規則な生活が続いた。

 「ママは何をしているの?」 愛娘がそう聞くようになったのをきっかけに法人化を検討するようになり、2010年、「株式会社ブリッジ」を立ち上げる。「自分がしてきたことを形に残して子どもに見せておきたいと思うようになったのです。フリーランスのままでもいいのかもしれませんが、会社にすることで伝えやすいような気がしたのです」

vol72_6.jpg しなやかにブリッジ体操する女性をモチーフにした会社のロゴは、実は娘さんが得意なポーズでもある。「企業とマスメディアのかけ橋に」という意味と、ブリッジ歩きしながら企業の岸にもマスメディアの岸にも歩み寄る、柔軟なスタンスを表現しているという。

「法人化したことで、信用度が高まりました。それまで知人や関係者から紹介を受けての仕事が多かったのですが、ホームページを見た人から問い合わせが入ることも増えました。法人なら自分自身の給料が経費として計上できるので、個人事業主のときと比べて税金面で大きく変わるのはまず最初の最大のメリットです」

子どもとべったり、仕事はしっかり

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長年愛用しているお仕事バッグ。PRする商品や資料を入れてキャラバンするので、"たっぷり入って丈夫であること"がバッグを選ぶ最重要ポイントなんだとか。携帯も、スマホとガラケーを2台使いこなしている。

 法人化と同時に東京にオフィスを借り、拠点を持つことになった。それまで、都内での打ち合わせのために横浜の自宅から出かけており、空いた時間には喫茶店などに入ってパソコンを開くというスタイルをとっていた。今でこそノマドワーキングは一般的になってきたが、当時は、電源が解放されているカフェもほとんどなかったので、バッテリーが長時間持つ高価なパソコンを持ち歩いていた。拠点を持ったことで想像以上に安定感が得られ、スタッフに支えられることも多く快適だという。


働くスタイルも変化してきた。子どもとの時間を大切にしたいという思いから、意識して仕事時間と家庭時間のメリハリをつけている。土曜・日曜はなるべく仕事を入れず、子どもとの時間にしている。広報・PRの仕事にありがちな夜の会合には、出産以来ほとんど参加していない。子どもに関するPRの案件では、母親として、主婦としての視点が生かせていると感じることが多いそう。

 「子育てで得られることはたくさんあるので、子育てする自分はとても大事。一方、仕事では手を抜かず1つ1つを丁寧にすることを心がけています。満足していただけてこそ、次をご紹介していただけるものですからね。リリースを書いておしまいというのではなく、メディアの掲載実績を分析し、何をプラスすればいいのかを依頼主にフィードバックするように心がけています」

 もともと雑誌などの編集者や新聞記者に憧れていたという佐藤さん。結果的に、彼らを相手に依頼主の話を聞いて文章を書くという仕事をしている。「運命なんでしょうか。編集者にはなれませんでしたが、逆に広報という天職に巡り合えたと思っています」

 急な拡大路線はとらずにPR・広報の質を保ちつつ、もっと会社組織として後継者の育成や体制づくりにも力を注いでいきたいと夢を語る佐藤さん。ブリッジする女性を表現したロゴが表すように、今後もしなやかに活躍することだろう。

ある一日のスケジュール

04:00 起床、顔を洗ってすぐ化粧をする
04:30 仕事、新聞を読む。その後、メールやSNSのチェックなど
06:40 朝食の支度
07:00 家族と朝食
07:40 自宅を出る
08:45 東京のオフィスに到着、ストレッチをする
09:00 始業。打ち合わせなどに出かけることも
12:00 昼食(持参の弁当で)
13:00 打ち合わせ、キャラバンなど
16:30 事務作業
17:00 終業(その後は残業扱い)
18:00 オフィスを出る
19:30 学童保育に寄ってから帰宅。夕食の準備
20:00 入浴
20:30 夕食。その後、家事
23:30 就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

「出社後、オフィスでまっ先にするのはマスターストレッチやピラティスのポーズを15分ほど行い、体をほぐすこと。心身がすっきりして、オフからオンモードに気持ちが切り替わります」マスターストレッチは、佐藤さんがPRを手がける「TRAINING STUDIO arancia」で注目を浴びているメソッドで、プロアスリートからモデル、美容意識の高い一般女性から幅広く支持されている。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

子育てと仕事の両立はどうしている?
私の場合、子育てと仕事それぞれのときにものすごく没頭しているのかもしれません。子育て時間である土曜・日曜はメールもなるべくチェックしません。一方で仕事がとても好きなので、子どもを奥さんに任せきりで仕事だけに集中している世のお父さんがうらやましく思えることも(笑)。
落ち込んだときはどうする?
広報・PRは、企業側の事情によってすぐに削られてしまう予算なので、提案の途中で打ち切りになったケースもしばしばあり、そのたびにとても落ち込みます。でも、ご提案の過程で調査したことやアイデアなどは必ず後々につながりますので、無駄なことは何一つないと思って前向きに進んで行きます。
佐藤さんのような生き方を目指す女性へのアドバイスは?
あきらめず、信念を持って自分の正しいと思う方向へ歩んでいってほしいです。私の場合、「この商品のポイントはここだな」と思ったらその感性や勘を信じて、突き進んできました
案件が重なったときはどうする?
どうしてもスケジュール的にきつくてお断りしたことは過去にありましたが、自分自身が自信を持ってPRできる商品やサービスであればなるべくお断りしないようにやりくりしています。やむを得ず、お断りする際には、「こんなポイントでPRしてはどうか」とちょっとした提案を添えてお断りし、何かの折にその商品をメディアの方とのお話しの中で少しでも話題にするなど心がけています。
今後の事業展開として考えていることは?
ネットメディアを効果的に活用して新たな情報発信をしていきたいと思いますが、変化が激しいのでそれに踊らされないように、基本的なPRスタンスの軸をしっかり見失わないようにと思っています。フェイスブックやツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も試験的に導入していますが、この先どうなっていくか未知ですね。あとは、PRの発想を全く違うことに応用できないかと模索も始めています。

新商品や企業のトピックをメディアへPR
愛娘の一言で法人化し、さらなる展開へ

室井佳子

Writer 室井佳子

ライター。地方紙の新聞記者を経て、2007年よりフリーランスに。取材、記事執筆、講演要旨の作成、校正などを請け負っている。関心ごとは、生き方・働き方、生活、教育。学生時代にかじった心理学が心の支え。好きなものは漢字とクジラ! 日本語検定1級。2003年、2009年生まれの2人の男児と夫とともに、富山県に在住。

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