Vol.73 フォトグラファー&デザイナー 川上陽子さん

Profile

1980年生まれ、大阪府出身。高校卒業後ロンドンに留学。帰国後の2001年、バンタンデザイン研究所に入学。在学中からデザイン事務所で働き始め、2003年からは飲食店の運営・コンサルティング等を行う企業にグラフィックデザイナーとして入社。2009年にフリーランスに転身し、「greedypiggies(グリーディ ピギーズ)」(=食いしん坊)を設立。プライベートでは夫と2012年2月に誕生した長女と3人暮らし。

川上陽子さんのサイト
「greedypiggies」

雑誌デザイナーから「食」の世界に特化したクリエイターに

vol73_7.jpg 川上さんのご自宅でランチを頂きながらの取材。メニューはハンガリーのスープ「グヤーシュ」、ブルーチーズとヨーグルトドレッシングのサラダ
、オリーブオイルとイギリスのお塩をパラリとかけたバニラアイス。「料理を作るのも食べるのも大好き」と楽しそうに手を動かす川上陽子さん。出産をまもなく控え、落ち着かない日々を過ごされている中、取材に快くご協力いただいた。

 川上さんは、「食」というジャンルに特化し、飲食店のメニュー撮影・グラフィックツールの作成、レシピ本やiPadのレシピアプリの撮影などを行うフォトグラファー&デザイナー。もともと「食」に興味はあったが、仕事として特化するようになったのは、飲食店の運営・コンサルティングを行う企業に勤めるようになってから。

vol73_6.jpg「はじめて就職したデザイン事務所がとにかく激務で......。仕事は大好きだけど、このまま働き続けるのは難しいと判断し退職することにしました。その直後、前職の会社の社長と出会い、飲食店専門のグラフィックデザイナーとして働くことに。だから『食』をテーマに仕事をするようになったのは本当に偶然なんです」

 入社3年目くらいまではデザイナーとして飲食店のメニューやロゴなどグラフィックツールの制作を担当。料理写真は外部のカメラマンに依頼していた。しかしデザインをするうちに、「あんな写真があれば、こんなデザインもできるのに」「自分で料理写真も撮りたい」という気持ちがどんどん膨らんでいった。

「料理写真なら誰にも負けない」その自信がフリー転身へのカギ!

vol73_1.jpg 「撮影も自分で」。そう思うようになった川上さんは会社に交渉してカメラを購入してもらう。自社店舗のメニュー作成などで撮影を重ねていくうちに、写真を撮ることが楽しくなっていった川上さんは、もっと仕事が増えたらいいな......と思い、上司にある提案をする。
「飲食店のメニュー制作を当社のサービスとしてクライアントに提案しませんか?」

「上司はすぐに社長に話を持って行ってくれました。ベンチャーならではの風通しの良さがあり、社長は即OKを出してくれたんです」

 自社サイトで「メニュー制作承ります」の文章とともにメニューのサンプル画像を載せたところ、彼女のヨミは大当たり。撮影とメニュー制作の依頼が殺到したのだ。想像以上の反響で、一時期は食事は移動中のタクシーの中というくらい忙しい生活だったそう。

 川上さんは、もとからカメラ知識やテクニックがあったわけではない。撮るのは好きだったがあくまで趣味の範囲、撮影スキルは独学で学んでいったそう。「自分で本を読んだり料理本や写真集を研究したり。外部のカメラマンさんのアシスタントにつかせてもらったこともありました。いろんなものを見よう見まねで吸収し、テクニックを学んでいきました」

 そんな生活が3〜4年続いた頃から、川上さんは「独立」を考えるように。「母親が専業主婦で、子どもの頃から『手に職を持ちなさい』と言われていたこともあり、学生時代から常に『独立』の文字は頭にありました。でも、デザインができるだけでは独立しようとは思わなかった。デザイナーはごまんといるからです。独立を意識し始めたのは、カメラに出合って『料理写真なら誰にも負けない』と思えるようになってから。撮影からデザインまでトータルでプロデュースできることでお客様に喜ばれ、それが自信に繋がっていきましたね」

クライアントと向き合う時間の多い今のスタイルに満足

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友人の紹介で実現した、料理の鉄人・道場六三郎さんとのお仕事で撮った記念の1枚。「道場さんとのお仕事は感動がたくさんありました。生が尽きた魚が道場さんの手によって、生きている時より新鮮に見えたんです。まるで素材たちが喜んでいるような感覚でした。また、ご自身は違う作業をされているのに『天ぷら揚がってるよ』って指示を出されていて。料理って音でも分かるんだ、五感を使っているのだと改めて気付かされました」

 仕事・プライベートを通じての知り合いが増え、営業活動に使えそうな制作実績も増えてきた。担当しているクライアントから、「次もぜひ川上さんにお願いしたい!」とリピートで依頼が入るようになり、「自分でできる」とさらにその自信を深めていった川上さんは、2009年に独立した。


フリーになってからはレシピ本の撮影など、仕事の幅がどんどん広がっている川上さん。「仕事は、基本的には口コミや友人・知人からの紹介と、一度お仕事をさせていただいたお客様からのご依頼がほとんど。飲食店の場合、季節ごとにメニュー変更があるので、お客様との信頼関係が築ければリピートでご依頼いただくことも多いですね。また、料理教室に通ったり美味しいレストランに行って、先生やシェフに写真を撮っていることを話したりすると興味を持ってもらえる。場合によっては、それが仕事に繋がることも。大好きな食の場が営業の場にもなっています」

 独立して大変だったことはないですか?と聞くと、「これまでの方が大変でした」とサラリとした回答が。

「時間を自由にコントロールできるので今の方がラクかも。お客様と向き合う時間が多く取れる点も満足しています。仕事が増えるのは嬉しいのですが、1店1店にかける時間が疎かになるのはイヤなんです、料金以上の価値を提供したいから。だから、できる範囲内で精一杯の仕事をしようと思っています。今後は食育の分野にも進出したいと考えているんです。子ども向けのクッキングワークショップなどを通じて教育に携われたらいいですね」


川上さんのお仕事道具


vol73_3.jpg「どんなスゴイ料理人と仕事をしてもカメラがある限り自信を持って向き合える。レンズを覗き込んだ瞬間から世界が変わり、ファインダーの中の世界に集中できるんです。仕事のツールを超えた、私の武器だと思っています」

vol73_4.jpg「これから子育てに仕事に頑張るように!」というメッセージと共に旦那さんがクリスマスにプレゼントしてくれたという真っ赤な自動車。「結婚してからは夫の助けがとても大きいので、本当に感謝しています」

ある一日のスケジュール

06:30 起床。近所の駒沢公園まで朝の散歩。「帰りにパン屋さんによると朝ゴハン用に焼きたてのパンが買えるんです。ちょうど良い散歩コースです」。妊娠してから生活が朝型に変わったそう
08:00 散歩から帰宅。NHKの朝ドラ「カーネーション」を見て朝ゴハン
ご主人を見送ってからは、メールチェック、家事を済ませる。仕事の予定によって過ごし方が変わる。もちろん朝から撮影に出る日もある。
14:00 仕事に出かける
15:00 撮影スタート。一番小規模な撮影だと約3時間で終了
18:00 帰宅。撮影写真のセレクト作業を行う
19:00 夕飯の準備。ご主人の帰宅が遅い場合は一人で夕飯。お風呂を済ませた後に仕事をすることも多い。デザインは時間帯を決めず「ノッてる」時に作業をするそう。だいたい夜中が多いとか
01:00 ご主人帰宅。食事の用意をし、一緒に軽く食べてから就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

写真を始めた頃、友人がプレゼントしてくれた写真集。「レシピ本なんですが、食は"芸術"だと痛感し、感銘を受けた1冊です」

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

フリーランスとしてまずしたことは?
Webサイトを立ち上げ、サービス価格表を作成しました。仕事の取り決めについての契約書も作りましたね。書類は契約関係に強い知人が作ってくれました。サービス表があると便利なんですよ、どの範囲までいくらで出来るかが明確になるので。お客様も交渉がしやすいようですね。
ON・OFFの切り替えはどうしていますか?
ずっとONです。常にこんな写真を撮りたいな〜と考えながら生活しています。仕事だけど趣味に近いのかもしれませんね。これから出産し母になるのですが、「少しノンビリしよう」とか全く思ってないんです。私は人より元気だし(笑)、これからもパワフルに進みたいですね。
家庭と仕事の両立はどうされていますか?
夫は土日が基本的にお休みなので、私もそこに合わせて休むようにしています。とは言え、時期によっては休めないことも。繁忙期やその時の状況などを夫は理解して、全面的にバックアップしてくれるのでとても助かっています。彼の協力なくして仕事はできないですね。
スキルアップのために行っていることはありますか?
実は会社を辞めた後、照明についてもっと学びたくて、スタジオマンとして働こうと思っていたんです。そこで、とあるスタジオの社長を紹介していただいたところ、そのスタジオで働いていたその道何十年のライトマンと出会い、ひょんなことから彼が私の仕事を手伝いながら、傍らで照明について教えてくれることになったんです! 大先輩から実践を通してライティングの手法などを学ばせてもらっています。
川上さんのような働き方を目指す方へのメッセージをお願いします!
とにかく行動が大事、考えてばかりだと動けないですよ。また、仕事はクライアントありき、コミュニケーションは大事ですね。クライアントのお店に食事に行きがてら、写真やデザインの評判をお聞きしたりもしています。他にも新年のご挨拶だったり、接点を持ち続けるような工夫も必要だと思います。

写真がフリーへの道を後押ししてくれた。
「食」の世界に特化したクリエイター

須磨ますみ

Writer 須磨ますみ

前は編集・ライター、今は会社員+週末ライター。
各種インタビュー、仕事系、グルメ、ウエディングなどの編集・ライティング経験あり。

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