Vol.82 ジャーナリスト 木村麻紀さん

Profile

1971年、神奈川県生まれ。パルシステム生活協同組合連合会『POCO21』編集長、ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、時事通信社記者、米コロンビア大学経営大学院客員研究員、『オルタナ』副編集長を経て現職。環境と健康を重視したライフスタイルを目指すLOHAS(ロハス)について、ジャーナリストでは初めて本格的に日本で取り上げて以来、地球環境の持続可能性を重視したビジネスやライフスタイルを横断的に取材し続けている。著書に『ロハス・ワールドリポート―人と環境を大切にする生き方―』(ソトコト新書、木楽舎)、『ドイツビールおいしさの原点―バイエルンに学ぶ地産地消―』(学芸出版社)、編著に『社会的責任学入門―環境危機時代に適応する7つの教養―』(東北大学出版会)がある。2008年に男児を出産。現在は、拠点を東京から湘南へと移し、地域の子育て支援情報の発信にも積極的に取り組んでいる。

木村麻紀さんのサイト
公式HP

興味の赴くままに行動した結果が、 次のステージを生み出していく

vol82_2

くらしから未来をつむぐアクションマガジン『POCO21』。写真は木村さんが就任後、始めて制作にかかわったリニューアル号。「組合員さんの平均像は年齢30代半ばくらい、子ども1、2人の家庭です。共働き世帯の増加に伴って、読者も多忙を極めるなか、一般メディアにはない視点で、社会的な課題やその解決策をコンパクトにわかりやすく伝えるのがこの雑誌の役割。わたしも子育て中の母親として、読者と同じ目線で身近な話題に関心を持てるのが強み。そこから、読者のみなさんに何か行動を起こしてもらえるきっかけを作れるといいなあと思っています」

「どうも、木村です」と立ち上がった瞬間、背筋のすっと伸びた華奢な身体が、ガラス張りの壁から差し込む日差しにふわっと包み込まれた。こちらにまっすぐ向けられた涼やかな目もとがとても印象的だ。


2012年5月、木村さんはパルシステム生活協同組合連合会が発行する月刊誌『POCO21』の新編集長に就任した。創刊10周年を迎える記念すべきリニューアル号以降の舵取り役として選ばれたのだ。きっかけは、以前からお付き合いがあった制作会社の幹部との会話。リニューアルについて相談を受けていた木村さん、提案を重ねていたアイデアが「いいねえ」と先方に好感触だった折、「では、編集長は誰が?」という話になり、「じゃあ、私がやりましょうか」という流れで進んだそうだ。

こうしたやりとりが新たなステップにつながるのは、木村さんにとって珍しくないようだ。計画的にキャリアデザインされたわけではなく、これまでのご縁とその時点での興味の赴くままに行動するとこうなる、という表現がふさわしいかもしれない。

vol82_4結婚後、夫の海外留学をひとつのきっかけに時事通信社を退職後、2006年まで3年間海外生活していたときのこと。木村さんは当時まだ珍しかったLOHAS(ロハス)をテーマにした著書の出版準備を進めていた。その一方で、海外在住の日本人記者・ライターのネットワーク組織に登録し、番組リサーチや取材コーディネイトなど海外の情報を日本に発信する仕事もしていた。現『オルタナ』の代表取締役社長兼編集長、森 摂氏との出会いはこのとき。そこで「媒体のお手伝いをするだけでなく、自分たちでもメディアを持ちたいよね」という話が具体化していった。
「環境と社会に良い影響を与えられて、社員も生き生きと働けるビジネスを紹介する媒体を作りたい」との森氏の思いに「CSR(企業の社会的責任)の記事なら書けますよ」と木村さんが賛同。「帰国するんだよね、一緒にやらない?」となり、帰国後、木村さんはオルタナの立ち上げに関わることになった。

子どもとの健康的な暮らしを守るため、 都内から自然豊かな湘南へ

vol82_1オルタナでは企画から取材、原稿執筆、編集まですべて自分たちでこなす日々。以来、2012年3月に副編集長の座を退くまでの5年間、木村さんはメディアビジネスについて大いに考えさせられたという。

「今、メディア界では媒体(新聞、雑誌、テレビ、ネットなど)をどう成り立たせていくかが大きなテーマになっています。オルタナでは、それを先取りしてめちゃくちゃ失敗しながらもとても勉強になりました。だから、何が問題なのかがよくわかるし、現職でもすごく役に立っています」。

多忙ながらも毎日が充実していた。ただ、2008年の出産以降の仕事と育児の両立生活を通じて、自らの働き方に違和感をもつようになる。「産後5カ月で職場復帰しましたが、保育園の迎えに間に合うかどうか、綱渡りの毎日でした。また息子がぜんそくを患っていたため、1歳をすぎると病気のたびに休んでいました。少人数で制作しているので、私が会社を休めば仕事に穴があきます。メディアの仕事の性質上、締め切り優先で時間を費やすことも子どもを長時間預けることにつながる。悪循環でした」

もともと都会で長く住み続けるつもりはなかったという木村さん。結局、生まれ育った神奈川県藤沢市へ引っ越すことを決めた。雇用形態を変えて副編集長をしばらく続けたものの、『POCO21』の仕事を始めるのを機にオルタナを退社、地域を拠点に新しい働き方がスタートする。

「引っ越し後、子どもの健康状態が目に見えるほど良くなっていったんです。親にとってこれほどうれしいことってないじゃないですか」と母親の表情をのぞかせた木村さん。「今の環境でいいんだと確信できたとき、子どもの成長は育つ場所とともにあると気づいたんです。子どもがひとり立ちするまでの間、その地域をよりよい場にするために何か仕事で貢献できたらと思うようになりました」

地域と人とのつながりを育みながら、 新しい価値観を発信していきたい

vol82_6.jpg

木村さんは記事中で挙げた以外にも、6つのプロジェクトで主要メンバーとして活動している。新しい価値観を生む働き方について情報発信・イベント企画開催する「働き方改革研究所」代表、横浜市・社会起業家育成支援の一環としてコワーキングスペースなどを提供する「mass×mass関内フューチャーセンター」ディレクター、世界中の"持ち寄る暮らし"を集めた「シェアする暮らしのポータルサイト」編集メンバー、グローバル視点でこれからの子育てと教育を考える「Global Moms Network(GMN)」コアメンバー、「オルタナ」編集委員などその幅は多岐にわたる。

木村さんはこれまで、女性ならではの転機を好機に転換させてきた。そこに木村さんの生き方がみえる。言い訳がなく、潔い。そして観察力に長けた行動力と鋭い勘は新境地でより磨かれ、発揮されているようにも感じる。

引っ越し後は、藤沢市の子育て情報サイト「子育てネットふじさわ」をはじめ、地域情報を発信する媒体の制作に委託で参加するようになった。市が主催する子育て支援イベントでは、ボランティアの実行委員会メンバーとして企画運営、広報業務に携わり、地元の育休中の子連れママやベテランママたちと一緒に盛り上げた。

それぞれの仕事を始めるまでのことを「自分が関われそうな媒体を見つけたらご挨拶に行って、記事を書かせていただいたりして」とさらっと言えるのも木村さんらしいのだろう。あくまで自然体、正直なのだ。また大きな転機を迎えたとき、次へつなぐきっかけは自分でつくり出している。それは、長年取材し続けてきた、人々がいきいきと自分の仕事と生活を楽しみ、持続可能な地球環境と暮らしを実現するオルタナティブな世界との関係を深めることにつながっている。

「東日本大震災のとき、地域との縁の大切さを心から実感したんです。当日はたまたま在宅でしたが、東京にいたら帰れませんでした。私は普段から地元と東京を行き来するため、地域で万が一のときに助け合えるつながりを普段からつくれたらと思っています。今、子育て世代は意識的に外に出ないとつながりあえない現状があります。とにかく外に出て、つながってもらえるような情報発信を心掛けながらテーマを決めたり、取材したりしています」

ジャーナリストとしての仕事と、地域に根差して仕事をするための場をつくる、この2つを柱にした働き方を当分は続けていきたいと話す木村さん。「メディアに携わる人間として常に情報発信をしてきましたが、それを実際に共感して受け取ってくれる人たちに集ってもらいたい。そこでのやり取りから出てきたアイデアや知見も発信できるような、メディアと場がセットになった仕組みをつくりたいですね」。地域とともに情報、仕事、人が育つ場。この人ならきっと実現できる、自然とそう思わせるのも木村さんの魅力だろう。

木村さんの防災ポーチの中身を拝見!

vol82_3黒ビニール(防寒着や敷物になる)、大判ハンカチ(三角巾として止血の役割も)、マスク、ホカロン、ペンライトなど。「いつ起きるかわからない次の大震災に備えて、打ち合わせや取材などで日々違う場所に出掛けるフリーランスの皆さんは、常に携帯することをおすすめします。特にリップクリームは女性の精神衛生的に必要。震災後、化粧品などの物資がなく、女性は冬など唇が荒れてしまって、ストレスの原因になったそうです」

ある一日のスケジュール

【都内に出向く場合】
07:00 起床・朝食の準備
07:30 朝食・身支度・出発
08:30 子どもを保育園に送り、電車に乗る
09:00 電車内で貴重な読書タイムを満喫
10:00 横浜のコワーキングスペースmass×massでイベント企画の打ち合わせ
12:00 昼食
13:00 都内に移動
14:30 編集部で雑談・打ち合わせ
16:00 『POCO21』次号にご寄稿いただく筆者との打ち合わせ、撮影立会い
18:00 イベント登壇
20:00 イベント関係者と懇親会
22:00 帰宅
0:00 入浴・翌日の準備などを終えて、就寝
【地元で仕事をする場合】
07:00 起床・朝食の準備
07:30 朝食・身支度・出発
08:30 子どもを保育園に送って帰宅
09:00 家事、メールチェックなど
11:00 地域の子育て応援情報サイトの編集会議(ランチを兼ねながら)
13:00 原稿執筆、メールチェックなど
15:00 炊飯器のスイッチを入れつつコーヒーブレイク
17:30 子どもを保育園に迎えに行く
18:00 帰宅、息子と子ども番組を見ながら夕食の準備
19:00 夕食
19:30 子どもと一緒に入浴
21:00 寝かしつけ
23:30 片付け、翌日の準備などを終えて就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

1980年代モデルのスヌーピーのぬいぐるみ。「10歳で初めて海外旅行に行った時、アメリカで両親に買ってもらいました。それからはどこへ行くにも一緒で、彼は世界一周もしています。はあ~、と落ち込んだときも、昔からこの子はそばにいてくれたなあと思うと元気が出るんです」

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

フリーランスのメリットとデメリットは?
メリットは、何といっても時間の自由がきくこと、自分で物事を決められること。デメリットは......ほとんど思いつきません。ただ、フリーランスという働き方自体にこだわりはありません。自分が今、やりたい仕事を実現するための最良の働き方がフリーランスであればそれでよし。それが組織で働くことであれば、それもまたよしかと。フリーランスと組織を行き来する働き方がもっと増えたらいいのに、とも思います。
スキルアップのために続けていることは?
1日に10分でもいいので、必ず本を読む時間を取るようにしています。この時間を確保するため、最近になってソーシャルメディアを使う時間を大幅に減らしました。よく読むジャンルは特になく、取材テーマに応じて毎回変わります。現在は、次の号で「旧暦を見直そう」という趣旨の企画をやるので、旧暦についての本をたて続けに読みました。読書時間は、やはり通勤時間中と就寝前がメインです。※2012年10月下旬取材時点。
身体のメンテナンスは?
10月の息子の誕生日近辺には、自分のために時間を使う日を設けています。健康診断を受けたり、会いたい人に会ったり。疲れを感じたら施術を受けるなど、身体のメンテナンスには気を使っています。フリーランスで長く仕事を続けていきたいなら、自分のメンテナンスは長い目で見て大事。自分が良い状態であって初めて、仕事ができるのですから。習慣にすることで自分の体調のくせもわかるし、もしかしたら仕事術よりも大切かもしれません。これは自分のためだけではなく、家族や仕事をご一緒する仲間のためでもあるかな。
ボリュームコントロールは?
月の第1週は『POCO21』の仕事にかかりきりになるので、ほかの仕事は第2週以降で調整しています。月に1回は週末の仕事も引き受けたり、自分にとってもプラスになるか役に立ちそうだったら例外をつくったり。仕事を受けるかどうかの判断基準としては、自分にとっての仕事上、生活上含めて何がいちばん大切なのかを軸に決めています。時間を割くべきものを見極め、きちんとしたものを作っていくというのが第一です。
フリーランスを選択した人へのメッセージ
組織で昇進していくキャリアアップの考え方は、収入も伸びない中にあっては、いずれ行き詰まると思っています。もうひとつの軸として、横に広げていくという発想をすると可能性が広がるのではないでしょうか。「キャリアップ」ではなく、「キャリアアウト」とでも言うのでしょうか。例えば、カメラマンやライターなど各専門をベースに、自分のスキルを異業種や地域で活かせないだろうか、いう発想をもってみる。フリーランサーのもつ技能は、自分が思っている以上に求められるフィールドは広いと思います。相手とのニーズがあえば収入に結びつくし、そこから新たなフィールドが生まれる。生きていくうえで自分を活かせるフィールドはその都度出てくるはず。そこでうまくつながっていければいいですよね。

住む環境も仕事も決まった枠を越えて、
新しい情報発信のカタチを創造したい

たかなしまき

Writer たかなしまき

ライター
旅行、美容関連の書籍・雑誌制作を経てライターになり、雑誌やウェブ媒体などで活動する。趣味は音楽、読書、映画、カメラ、散歩、歌うこと。“親子で出会いの旅へ”「のびるweb」編集人。

たかなしまきさんの記事一覧はこちら