Vol.85 株式会社えと菜園(なえん)代表 小島希世子さん

Profile

1979年、熊本県生まれ。農村地域で生まれ育った幼少期の体験から農業を志す。慶應義塾大学卒業後、野菜の流通会社勤務を経て、2006年に安全性の高い農産物を販売するオンラインショップをオープン。2011年から、農業体験「コトモファーム」事業と、路上生活者・生活保護者支援団体と連携して就農研修プログラムも展開。農家と消費者の距離を縮め、こだわりの農業が成り立つ仕組みをつくるべく、『農』の新しいスタイルを追及している。4歳女児の母。

小島希世子さんのサイト
「えと菜園(なえん)」

小学生の頃から、「農業を生業にする」と決めていた

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湘南藤沢と熊本合志で展開している体験農園「コトモファーム」では、5坪の専属体験エリアで自由に野菜作りが楽しめるプランが用意されている。無農薬栽培の指導付きで、作業に必要な農器具レンタルも完備。月々4200円〜。

まだ寒さが残る1月下旬、小田急江ノ島線・湘南台駅から車を走らせること約10分。田畑広がるのどかな郊外にある体験農園「コトモファーム」を訪れると、小島希世子さんが笑顔で出迎えてくれた。

小島さんが代表をつとめる「えと菜園」は、熊本県で栽培される安心・安全な農作物を扱うオンラインショップや、農薬を使わない野菜作りが学べる農園「コトモファーム」の運営、そして求職中の路上生活者と人手不足の農業をつなぐ就農プログラムの3つの事業を展開している。学生時代は、環境情報学、心理学を学んだ小島さんだが、農業を仕事にすることは小さい頃から心に決めていたそう。なぜ、農なのか。それは、小島さんの幼少時代に遡る。

熊本県の農村地域で生まれ育った小島さんのとなり近所は、ほとんどが農家だった。「うちの両親は教師だったので、大きなトラクターやコンバインのある家がうらやましくて(笑)。お昼も家族揃って食べられるし、農家に憧れていたんです」。もうひとつのきっかけは、小学2年生のときにテレビで観た飢餓で苦しむアフリカの子どもたちのドキュメンタリーだった。同じ地球上で、自分と同い年くらいの子どもたちが餓死している現実にショックを受けた小島さんは、「砂漠地帯でも作物を育てられる技術を農学部で学んで、いつか農業を通じて国際協力をしたい」。そんな夢を抱くようになった。

バイオ栽培を学ぶために、大学は農学部を志望するもかなわず環境情報学部に入学。それでも「農業を生業にしたい」という夢を変わらず持ち続けた小島さんは、「農業系のアルバイトしかしない」と心に決め、卒業後は農業の流通会社に就職し、休みには地元熊本で無農薬栽培を行う農家をまわって情報収集を重ねた。

「農」をとりまく深刻な問題を解決するために......

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有機栽培をはじめとする農薬や化学肥料に頼らないこだわりの農産物を販売する「えと菜園オンラインショップ」。ポリシーを持った農家12軒と提携している。「安心、安全の農作物という面では、日本中を探してもトップレベルの品揃えだと自負しています」と小島さん。「えと菜園オンラインショップ」を応援するAmazonアフィリエイトプログラムも展開中なので、興味のある方はぜひチェックしてみて!

ある日、こだわり農家さんと話していたときのこと。「農薬や化学肥料を使わない農業がやりたいと相談したら、『今はやらならない方がいい』と言われてしまったんです。無農薬にこだわって手間ひまかけて作っても、生産性を上げるために農薬や肥料を使って作っても、キロいくらという販売形式は変わらないというのです」


とてもショックを受けた小島さん。「生産者と消費者の間に距離があり、食卓に並ぶ食べ物がどのように作られたのかが見えにくい、価格と安全性が両立しない現状の流通システムをどうにかしたい!」。一念発起した小島さんは、農家が生産物に自信を持って値段をつけ、それを生活者に直接届けてフィードバックを得られるような仕組みをつくるべく、2006年にオンラインショップを立ち上げる。SEO対策やSNSを活用した地道な宣伝活動と、震災後の食の安全への意識の高まり、そして、利用者のクチコミによって売上は年々順調に伸びているという。

さらに、小島さんは農業を取り巻く新たな問題解決にも取り組むことに。それは、農業が深刻な担い手不足で、年々その傾向は悪化の状態にあることだった。その一方で、自分の住む関東では、働きたいのに仕事がない求職者やホームレスがたくさんいる。この二者を結び付けて事業化できれば、農業を通じて社会に貢献できるのではないか。そこで生まれたのが「就農プログラム」だった。小島さんはすぐに行動に移し、横浜市が主催するビジネスプランコンテストに応募。見事、最優秀賞を受賞する。

vol85_3「現状、一度生活保護を受けてしまうと、その95%は一生生活保護を受給し続けると言われています。生活保護は必要なセーフティネットだとは思いますが、一方で、働く喜びを人々から奪いかねない危険な制度でもあると感じています。働くことにはお金には変えられないやりがいや喜びがあることを農業を通じてどう知ってもらうか。3ヶ月の就農プログラムでは、野菜の栽培に関する技術だけでなく農作物を収穫する達成感を感じてもらい、自立するきっかけをつかんでほしいと考えています」

100年、200年後まで続く安心・安全な農業のために

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現在は、熊本で通販事業を担当するスタッフ2名と小島さんの計3名で運営している。「各事業を円滑に運営していくためにも、事業を理解してくれるスタッフを増やし、組織を強化していきたい」(小島さん)。

現在は、ホームレスの生活・就労支援活動を行うNPO法人との協業で、年間5名の元ホームレス生活保護受給者を受け入れている。時には、お酒を飲んで来たり、連絡なく休んだり、うまくコミュニケーションが取れないこともあったが、「農業ノート」をやりとりしたり、個別に電話でフォローしたりなど精神面からも細やかなサポートを行い就農を支援してきた。その取り組みが実を結び、2012年には1人が熊本県の農家へ就職することに。56歳という年齢、生活保護からの就職という革命的なモデルとして、メディア等でも注目され始めている。


今後、この事業をさらに発展させていくために、行政や組織を巻き込んだ取り組みにしていきたいと話す小島さん。「小さな会社が行うだけでは、やはり規模も限られてしまいます。えと菜園で開発した就農研修プログラムのノウハウを行政に提供し、地道な取り組みを重ねていくことで、ホームレス問題、生活保護受給者増加の問題の解決に貢献できたらと思っています。同時に、就職決定後に住居を借りるための初期投資の支援などを含め、自立を助長する制度の整備の必要性も訴えていかねばと考えています」

小島さんは、4歳の女の子を持つ母親でもある。子どもを持ったことで、食は命の根本であることを改めて実感し、自分の子孫の食卓も意識して、100年後も200年後も持続できる安全性の高い農業を支える仕組みを作りたいと話す。『農』の新しいスタイルを追及し、農業で社会問題解決にも取り組む小島さんの活動に、これからも注目していきたい。

小島さんのお仕事道具を拝見!

vol85_6ノートパソコン、wifi、携帯のこぎりとマジック。「携帯のこぎりは、畑で竹の支柱をメンテナンスするときや、土木屋さんが捨てている木材で『持って行っていいよ!』と言われたら、その場で持ち運びやすい大きさにカットするのに使います。その時に目印を書くのにマジックは必須ですし、畑で作業した時に忘れてはならない注意事項などあったら、廃材や資材が入った段ボールに書いておきます」

ある一日のスケジュール

06:30 起床。PCでメールチェック等。起きてすぐ畑に出る日もある
07:50 朝食
08:30 子どもを幼稚園へ
10:00 畑作業
12:00 自宅に戻って昼食。その後、PC作業や、打ち合わせがあるときは外出
16:00 畑へ
18:00 子どもと一緒にお風呂
18:30 夕食後、家族だんらん
21:00 PC作業
24:00 就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

畑に行って大声で歌いながら、無心になって作業をすること。お腹の底から大きな声を出すと、ストレス発散にもなりますよ。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

仕事をする上で大切にしていることは?
情報収集のために積極的に外に出たり、人と会うようにしています。そうしないと、畑とPCでの情報収集だけになってしまうので......。世の中の動きやトレンドを見聞きしたり、肌で感じたりして、今のビジネスプランにずれがあったときにはすぐに軌道修正できるようにと思っています。
ONとOFFの切り替えはどうしてますか?
あまり意識したことがないですね。私にとって、畑は仕事場であり、子どもとの遊び場であり、食料庫でもある。生活の一部になってしまっているので切り替える必要がないのかも。
好きな言葉は?
「継続は力なり」。細々とでも続けることが大事!
小島さんにとって「農業」とは?
「終わりのない楽しみ」でしょうか。農業は「生命活動を支える農作物生産」にとどまらず、心の癒しの場となったり、食育や就労研修としての学びの場となったり、自然と接する職業なので人の価値観・人生観に影響を与えることさえあります。農業は本当に奥が深くてきりがない、面白いなと思います。
農業に興味のある方へのメッセージ
農業はキツイ、ツライというイメージがあってハードルが高いという方も多いですが、やってみればそうでもないんですよ。土に触れ、自然のパワーを全身で浴びると、人が本当に変わるんです。大地は目に見えない価値であふれています。食べ物の安全性を考える食育の場として、心の癒しの場として、家族や友人とのコミュニケーションの場として、ぜひコトモファームを活用していただきたいです。

農業の現場と食卓の距離を縮め、
「農」を通じた社会問題解決にも取り組む

オノリナ

Writer オノリナ

Webプロデューサー・リズムーン編集長
リズムーンを運営する合同会社カレイドスタイル代表。女性向けWebメディア編集、フリーランスを経て、2014年に法人を設立。国内外のネットワークを活かして最適なチームを組みながら、研究機関のサイエンスアウトリーチ支援や、企業オウンドメディアの女性向けコンテンツ企画・制作を数多く手がけている。また、独立時に苦労した自らの経験から、女性フリーランスコミュニティ「リズムーン」を2009年に立ち上げ、「個」が主役の多様な働き方を加速させる社会の実現に向けた事業・サービスを展開している。プライベートでは、3人の子を持つワーキングマザー。趣味は卓球。

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