Vol.98 Webデザイナー 黒野明子さん

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■Profile
カメラマン事務所のマネージャー、デザイン事務所、制作会社を経て、2003年よりフリーランスのWebデザイナーに。デザインユニット「linker」を経て、現在は「crema design」として個人で活動している。動画学習サイト「lynda.com日本版」トレーナーや、Web制作の学校「ロクナナ」講師としても活躍。主な著書に、『デザインの学校 これからはじめるIllustrator&Photoshopの本』(技術評論社)『ウェブデザインコーディネートカタログ』(共著・同)がある。

一生、作り手でいたいという思いで転職を決意

Web業界でマルチに活躍するフリーランサーとして知られている黒野さん。インターネット黎明期からWeb屋として活動されていたのかと思いきや、キャリアのスタートは意外にも、カメラマン事務所のマネージャーだったのだそう。「美大卒業後は、実はイラストレーターになりたかったんです。仕事をしながら、出版社などに売り込みができればと考えていたんですが、甘かったですね。仕事の右も左もわからない状態で、社会人の洗礼を受けた3年間でした。今思い返してもつらい暗黒時代でしたが、社会の仕組みや仕事の段取りの仕方を学び、フリーランスという働き方を知ったのもこの時でした」

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その後、「ほかの人の作品作りをサポートするのではなく、作り手側になりたい!」と広告系のデザイン事務所に転職。その時に、IllustratorやPhotoshopも独学で学んだのだそう。次に転職したWeb制作会社でWeb業界に足を踏み入れ、2003年にWebデザイナーとして独立を果たす。

もらったチャンスは最大限に生かす

フリーランスとしての仕事が軌道に乗り始めるきっかけになったのは、独立3年目にWebデザイナー向けの勉強会で担当したライトニングトークだった。「はじめはなぜ私が?と思いましたが、せっかくもらった枠だし、なにか面白い発表をしたいなと思って『日経225』の対象になっている銘柄企業のWebサイトを分析して発表したんです。その内容が好評で、その後、Webデザイン専門誌や大手Web制作会社から仕事をいただけることに。そこから、五月雨式に仕事がつながっていって、今があるという感じです」。与えられたチャンスを逃さず、そこで期待以上のアウトプットを出し続ける。次の仕事の保障がないフリーランサーにとってはとても大事なことだ。

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独立して12年、「仕事面でもお金面でも心地よい働き方ができるようになったのはここ数年」と話す黒野さん。黒野さんにとって、「心地よさ」とはどのようなことなのだろうか。

「仕事って、結局のところ"人づき合い"に尽きると思うんです。どんな仕事をよしとするかはそれぞれの価値観によりますが、私の場合は、人として対等に付き合える方とお仕事したい、というのがわかってきて。もちろん、独立直後は仕事紹介サイトに登録したり、代理店経由で仕事もしたりもしましたが、あまり心地よくなかったので、今はクライアントさんと直でやりとりできる仕事以外はほとんどやらなくなりました」

フリーランスを長くやっていると、企業名やお金に目がくらんで受けた仕事が思いのほか大変で後悔した、という経験は誰にでも一度はないだろうか。でも、勇気をもって「こういうクライアントとこんな仕事がしたい」という軸と基準を決めることが、仕事の中身や働き方を心地よく変えていく第一歩なのかもしれない。

自分の役割を固定しない柔軟さを持つ

独立してしばらくたち、仕事の仕方や型がある程度できあがると、そのやり方に固執してしまうフリーランサーも多い。一方で、黒野さんが大切にしていることは、求められているものに最大限応えるために、自分の役割を限定せず、立ち位置を柔軟に変えること。

「私の場合、グラフィックもやるし、コーディングもやるし、講師もやるし......というようにスキルの掛け合わせで働いています。ひとつのスキルに特化していないことにコンプレックスを感じていた時期もありましたが、『どっちがやるの?』というようなスキマ仕事を拾うことで、プロジェクトをスムーズに進行していけるのは、ある意味、自分の強みなのかもと最近は思っています。たとえば、Webデザイナーとして関わっているときに、入稿原稿に誤字脱字があれば、その修正を提案してみるなど、他のデザイナーがやらないようなことを敢えてすることで、自分の存在価値が出せますし、それが次の依頼につながっているように思います」

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黒野さんが大切にしている言葉に、「後工程はお客様」というものがある。転職活動中に出合ったある会社の社是で、自分のあとに仕事をする人は下請けと思わず、お客様だと思って仕事をしなさいということ。

「先日、コーダーとして参加した案件で入稿されたデザインデータにびっくりしたんですよ。色が統一されていなかったり、デザインのピクセルがずれていたり。そういった細かな部分も調整して仕上げるのがコーダーの仕事だ、という意見もありますが、私がデザイナーだったら、そんな仕事は絶対にしないなって。次にコーディングする人のことを思って丁寧に仕事をする。それがプロとして大切だと思うんですよね。最近、Web制作の現場では分業化が進んでいますが、だからこそ、こういった仕事相手へのきめ細やかなケアは大切だなと思いますね」

そんなエピソードを熱く語る様子を見て、黒野さんの人柄に惹かれて「仕事をお願いしたい」という人が多い理由がわかったような気がした。

自由に形やスタイルを変えて、心地よい働き方を追求

以前は、デザインユニットを結成して仕事をまわしていた時期もあったが、今は個人の活動に絞って複数の案件をまわしながら、企業のサービスの中の人として、週3日、インターフェースの改善策を提案する仕事をしている黒野さん。

最後に、今後の展望をお聞きしてみた。

「これからも作り手として、フリーランスとして、仕事を続けていくと思います。プライベートでは、2年後に母が70歳になるので、そろそろ近くで暮らせたらいいなというのがあって。それまでに場所にとらわれずに働ける体制を整えたいなと。海外と日本を結ぶ仕事なんかもしていけたらよいなと思っています。それに向けて、英語スキルを磨くために短期留学も検討中なんですよ」

パワフルにフリーランス道を突き進む黒野さんのお話から、フリーランスで働き続けるために大切なことを改めて教えてもらったように思う。

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ある一日のスケジュール

08:00~09:00 起床→朝食
09:00~12:00 自宅でメールチェックやクライアントワーク
12:00~13:00 昼食と身支度
13:00~14:00 バスか電車で移動
14:00~19:00 クライアントのオフィスでWebサービスのUI開発など
19:00~20:00 夕食とバス移動
20:00~23:00 ダンスレッスン
23:00~00:00 バスか電車で移動
00:00~01:00 晩酌しつつニュースサイトチェックなど
01:00~02:00 入浴
02:00~08:00 睡眠

ピンチもこれがあればOK! 私の最終兵器はコレ

お風呂と温泉です。毎晩、必ず湯船に浸かりますし、たまにどーんと気持ちが落ち込んだときは、ラクーア大江戸温泉に一日こもります。お湯に浸かって汗を流すとすっきりして、また次の日から頑張ろうという気持ちになれます。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

相性の合うクライアントを見分ける方法はありますか?
長年の経験から「こんなことをするクライアントは危険だな」というサインはありますね。例えば、振込手数料を差し引いて振り込んでくるところ、メールのタイトルが案件名じゃないところ、などなど。相手への気遣いのポイントが、自分の感覚と似ているかどうか、がポイントなんだと思います。
営業はどのようにしていますか?
独立直後は、ポートフォリオを持って制作会社に売り込みにいったこともありましたが、最近はほとんどしていません。その代わり、自分に必要だと思ったイベントや勉強会にはできるだけ参加して、そこでの出会いは大切にしています。ですが、そこではむやみに営業はしないと決めています。だって、初めて会ってまだ5分くらいしかたっていないのに、いきなり「仕事ください」なんていわれたら嫌じゃないですか? ガツガツ系の営業は苦手。まずは人となりを知ってもらって、後日「そういえば...」と思い出してもらえる、というのが理想だなと思っています。
仕事以外で取り組んでいることは?
33歳のときにサルサを始めたらはまってしまって。大会に出場するチームにも所属していて、ピーク時は週6でレッスン、週3でパーソナルトレーニングにも通っていました。本当は「40歳になるまで!」と決めていたのですが、少し期間を延長して、今は週2〜3回のペースで続けています。
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黒野さん流・SNSの使い方は?
今使っているのは、twitterとfacebookがほとんどです。SNS経由で仕事の相談がくることもあります。「SNSではよいことだけを書いたほうがよい」というアドバイスもいただくのですが、結構ネガティブな発言もしちゃってます。だって、人間だれでもアップダウンがあるし、よいことばかり発信するのは偽りだと思うんですよね。ただし、「他人の悪口や秘密は書かない」というルールは徹底しています。
フリーランスで長く働いていきたい人へのメッセージ
フリーランスの特権は、「仕事相手は自分で選べる。一緒に働く人をその都度変えられる」ことなので、なにか理不尽なことがあっても、それを我慢して続ける必要はないと思います。固定した人間関係に人生すべてを左右されるのでなく、自由に動けることや、その自由さを生かした働き方を楽しめるとよいのではないでしょうか。そのためにも、私はひとつの会社とのお仕事が、収入の3分の1を超えないように、なるべく分散して仕事を請けるようにしています。
オノリナ

Writer オノリナ

Webプロデューサー・リズムーン編集長
リズムーンを運営する合同会社カレイドスタイル代表。女性向けWebメディア編集、フリーランスを経て、2014年に法人を設立。国内外のネットワークを活かして最適なチームを組みながら、研究機関のサイエンスアウトリーチ支援や、企業オウンドメディアの女性向けコンテンツ企画・制作を数多く手がけている。また、独立時に苦労した自らの経験から、女性フリーランスコミュニティ「リズムーン」を2009年に立ち上げ、「個」が主役の多様な働き方を加速させる社会の実現に向けた事業・サービスを展開している。プライベートでは、3人の子を持つワーキングマザー。趣味は卓球。

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Photographer 小林友美

静岡県生まれ。スタジオ勤務を経て上京。2004年よりフリーランスとして活動開始。東京都在住。雑誌、書籍、Webを中心に活動中
http://www.tomomi-kobayashi.net/