2015年に出版した『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書(東洋経済) 』が発行部数 12万部を突破し、ボイスデザイナー・スピーチデザイナーとしても活躍中の魚住りえさん。アナウンサーやタレントという表舞台に立つ彼女が、ビジネスパーソンが多く受講する人気レッスンを立ち上げるに至った経緯についてお話を伺いました。
大切なのは想いを伝えること、口下手でも良いのです
Profile
大阪府生まれ、広島県育ち。高校時代、放送部に在籍しNHK杯全国高校放送コンテストに出場。朗読部門で全国約5000人の中から第3位に選ばれる。音声表現、アナウンス技術向上に強い関心があり、慶応義塾大学卒業後の1995年に日本テレビにアナウンサーとして入社。2004年にフリーに転身し、テレビ・ラジオを問わず幅広く活躍。2013年におよそ25年に渡るアナウンスメント技術を活かした「魚住式スピーチメソッド®」を確立。ボイスデザイナー・スピーチデザイナーとして話し方を磨くための指導を行っている。
●魚住式スピーチメソッド®のサイトはこちらから>>
社会貢献できるやりがいのある仕事を
日テレ時代の魚住さん
日本テレビにアナウンサーとして入社し経験を積む中で、「組織で仕事をすること」にあまり馴染めない自分がいました。アナウンサーといえども、会社員であり、部署でバランスを取りながら業務を行っています。自分が希望する番組だけを担当できるわけではもちろんありません。次第に、アナウンサーという枠にとらわれず、もっと好きな仕事をしたいと思うようになり、入社10年目のときにテレビ局を退職しました。
その後、芸能事務所に所属してタレント活動も行うように。仕事は順調で会社員時代よりも少しは収入が増えました。でもそれから数年経った30代後半、このままでよいのだろうかと考え始めました。テレビに出るだけではなく、もっと身近な方のお役に立てることをしなければと思ったのです。タレント業もナレーション業も好きですし、お金を稼ぐことも大切です。でも仕事というのは、その人の生き方そのもの。40代になり、自分が納得できて、かつ誇れるものを世に残したかったのです。
自分を見つめ直したからこそ生まれた「魚住式スピーチメソッド」
レッスン風景
自分のやるべき仕事(天命)を見出すために、まず、芸能の仕事をセーブしました。スピーチメソッドがあったから独立、という流れではなかったんです。来る仕事をお断りするのは怖い部分もありましたが、今あるものを一度手放さないと新しいことは入ってこないと覚悟して自分を追い込みました。
スピーチメソッドが誕生したのは、流暢に話せないことにコンプレックスを抱いている知人がいて、相談を受けたのがきっかけでした。「どうしたら彼の話し方がより良くなるか」を考え、発声、滑舌、抑揚、音読、朗読を行い、実践的なトレーニングを行いました。トレーニングを続けるうちに訥々とした話し方が変わっていき、結果、彼の話し方は改善されました。現在はさらに仕事で成功されています。その時彼に「魚住さんがやるべき仕事はこれだよ」と言われ、目の前がぱっと開けたのです。これなら、人の役に立てる、社会貢献できると確信を持てたのです。
そこからですね、これまで培ったアナウンスメント技術をメソッド化し、講師として直接誰かのお役に立てる仕事にしようと、本格的に準備を始めました。
周りの人に支えられてスクール運営をスタート
本や論文を山ほど読んで、教科書となるテキストを作り、友人たちにモニターを依頼してメソッドを作り上げていきました。そして、いろんな方に出会い、とにかく相談しました。その時に、現在事務局をしていただいているM.I.Cの代表・伊藤美恵さんと出会い、「そこまで熱意があるなら応援します」と教室をお借りできることに。事業を始めるにあたり、本当にたくさんの方に応援していただき、助けてもらいました。感謝してもしきれません。
自分の想いや熱意を伝えるのは本当に大切です。口下手でもいいんです。とにかく話さないと始まらない。誠実にちゃんと気持ちが伝われば、相手の気持ちを動かすことができ、力を貸してくださいます。声と話し方を少しでもよくして自信をつける、自分の情熱を相手に伝えるためのテクニックとしてメソッドがあるのです。
書籍出版についても、「名刺代わりに渡せて、すぐにその方の役に立つから絶対本を出した方がよい」と相談したまわりの方々からアドバイスをいただいたのです。でも出版にこぎつけるまでは本当に大変で......。企画書を作って、出版社にこちらから営業をかけるも、ことごとく断られてしまいました。「話し方」の実用書は売れない、タレントとしてのライフスタイル本ならと出せる、と言われたことも。断られるごとに凹みましたが、うれしいことに、東洋経済の編集の方に目を止めていただき、企画から3年かけてようやく刊行に至りました。出版界ではなんの実績もない私を拾ってくださったことに、心から感謝しています。
スクール受講生の多くはビジネスパーソンが中心です。でも、人前で話す機会は学生や主婦の方でもありますよね。本だとすぐに役立てることができますし、大勢の方にこのメソッドを届けることができます。そのための出版でしたので、夢が叶い、本当にうれしいです。
経営者として、ボイス・スピーチデザイナーとしての目標
今後は私以外の講師を誕生させたいと思っております。現在は、アルバイトさんにレッスンの細かい業務を手伝ってもらっているのみで、社員はまだいません。新たな一歩を踏み出さないと......とは思うものの、社員を雇うのは責任重大。不安な面もありますが、ゆくゆくはチャレンジしてみたいです。
また、「魚住式スピーチメソッド®」には英語バージョンもあるので、海外での展開も考えています。アジアに向けたサービス拡大も視野に入れています。もちろん、ナレーションは私のライフワークなので、テレビのお仕事はずっと続けていくつもりです。今後はフリーアナウンサーとしてではなく、メソッドを広めるためにも、テレビ出演も増えていくといいなと思います。
【取材後記】
魚住りえさんは、アナウンサーの中でも常にパイオニア的存在で、新たな道を切り開いてこられた方なのだなあと感じました。そして、5月にはさらに新刊『話せば10歳若返る!話し方のレッスン』(講談社)が発売になるとのこと。魚住式スピートメソッドにますます注目が集まりそうです。
ピンチもこれがあればOK! 私の最終兵器
お酒を飲むこと、でしょうか。ワインと日本酒が好きで、マニアックな日本酒を揃えているお店を行きつけにしています。自宅でもお酒とおつまみで晩酌しつつTVを見て、笑って感想を言って......リラックスした時間を過ごしています。ずっとオンで張りつめた時間を過ごすのではなくオフにして緩めることも大切ですよね。