Vol.107 ホメオパス カローラ・フォイァレさん「ヨーロッパ発祥の代替医療で、人や動物を治癒する」

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Profile

1969年、ドイツ南端のIsny im Allgäu市生まれ。歯科助手を経て、23歳で看護師に。勤務先の病院がホメオパシー療法を取り入れていたのを機に関心を持ち、働きながら、南ドイツのAude Sapere Institutに通いクラシカル・ホメオパシーを学ぶ。コース終了後すぐ、副業でホメオパスとして自宅で開業。また、リフレクソロジストの資格も取得して、合わせて経験を積む。スイスに移住し、9年間病院で働いた後、完全にフリーランスになった。
家庭でのホメオパシー、植物のためのホメオパシーなどのセミナーも開き、運動のインストラクターとしてピラティスなども教えている。在スイスの日本人がパートナーで、日本にとても親しみを感じている。

ヨーロッパで人気の治療法

カローラ・フォイァレ(Karola Feurle)さんは、スイスにある自宅の庭で採れる木々の実や花やハーブを料理に使ったり、農薬を使わずに日本のシソやレタスを鉢植えで栽培して食べたり、自然の産物を日常生活にふんだんに取り入れている。

その姿勢は、心身の病気への対応にも通じる。自然界に存在する植物、動物、鉱物から作られる薬(レメディと呼ばれる*1)で症状を改善していくホメオパシー療法を自ら実践し、プロのホメオパスとしても、心身の不調に苦しむ人たちのために長年働いてきた。

*1 レメディ(薬)は、感情の不調の改善を目指すバッチフラワー(花療法)や、健康維持の面が強いティッシュソルト(シュスラー塩/生命組織塩)でも使われる言葉で、ホメオパシーに限定されない。

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カローラさんが所持するホメオパシーのレメディ(薬)。スイス製。自然界の物質の成分を水で薄めて作る。成分が残らない程度まで薄めるのが特徴。写真は、その希釈した液体を染み込ませた砂糖玉。日本ではこの小さな球状が知られているが、希釈液タイプ(小瓶入り)もある。どちらを使うかは、ホメオパスの判断。

ホメオパシー療法は、小さな球状の薬(砂糖玉)を数粒服用することで知られている。レメディは数千種類もある。「レメディは急性の病気、慢性の病気、不快な感情(つらい精神状態)に働きかけます。健康な状態なら服用する必要はありません」とカローラさん。

この代替医療は、イギリスや、中央・南ヨーロッパで一般に広まっている。薬局でホメオパシーのレメディやホメオパシー配合の薬を買ったり、気軽にホメオパスにかかったりと、特別な治療法という受け止め方がないようだ。統計*2によると、2014年は、ドイツ人の6割(女性の約7割、男性の約5割)が、オーストリア人は5割がレメディを飲んだことがあったそうだ。

日本でも、たくさんの情報が入手できるようになったし、ホメオパシー療法を学ぶこともできるが、カローラさんのお話も参考になるかもしれない。

*2 参照 http://www.netzwerk-homoeopathie.eu/kurz-erklaert/146-homoeopathie-zahlen-daten-fakten

西洋医学から、代替医療「ホメオパシー」の世界へ

ホメオパスとして20年以上の経歴を持つカローラさんは、ホメオパシーの本場ドイツ生まれ。子どものころからホメオパシーレメディを使っていたのかと思ったら違った。

「ホメオパシーのことは全然知らないで育ちました。病気になったらカモミールティーを飲むくらいはしていましたが、これはホメオパシーではないです(笑)。ホメオパシーに出合ったのは、勤務先の病院でした。普通の病院と違って自然治癒療法を取り入れていて、患者さんがホメオパシーで治っていくのを見て、こんな療法もあるんだと、とてもびっくりしましたね。ごく少量で、しかも原料の成分が残っていないのに、大きな効果があるのですから。もっと詳しく知りたいと、ワクワクして夢中になってしまいましたね」

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救急箱ともいえる家庭用レメディのセットの例。こちらは32種類入り。

1796年に、ドイツ人のザムエル・ハーネマン医師が世に紹介したホメオパシーは、ドイツでは人気の浮き沈みを経て、カローラさんが生まれたころにまた人気が出始めた。民間で代替医療への関心が高まったためだ。

「看護師になったのは、自分のために、家族のために、そして、知らない人たちのために、実践的なことを身に付けて役立てたいと思ったから。でも、病院で、人が亡くなる場面を何度となく目の当たりにして、そのたびに悲しい気分になるのがつらくなっていきました。それで100%から80%、次に70%とだんだん減らして、看護師はきっぱりとやめようと決めました」

ホメオパスはフリーランスが当たり前

ホメオパスになるために、看護師として働きながらコース(毎週水曜4時間と週末のセミナー)に2年通った。修了して、すぐにクリニックを開くのに迷いはなかった。

「老人ホームや特別なクリニックなどで働くことはできますが、とても稀ですね。ホメオパスは、ほとんどがフリーランスです。一刻も早くホメオパシーの仕事を始めたくて、自宅の一室を診療室にして開業しました」

カローラさんのカウンセリングは通常は1時間半、長くて2時間だという。患者に、抱えている症状について細部まで語ってもらう。兄弟姉妹や親や祖父などの病歴も詳しく聞き出す。食べ物の好き嫌い、寝相なども大事な情報だ。

そうやって集めた情報の中から特徴的な事柄を選び出して、コンピュータの専用プログラムに打ち込む。プログラムがいくつかのレメディを提案し、カローラさんはどれが最適かを判断して、たった1つのレメディを決める。

「このプログラムは道具にすぎません。プログラムを使わなくても決められますが、レメディは数千種類あるのでプログラムがあった方が便利です。1つに決めるのは簡単なことではありませんね。経験が大切だと思います」

レメディは砂糖玉と液体タイプがある。カローラさんは、総じて、急性の病気だと砂糖玉を、慢性の病気で長期的な治癒になるときは液体を処方している。

「同じ病気でも、人によって症状は少しずつ違ってきます。病名は同じなのに、熱が出る人もいれば、足が冷たくてという人もいます。どういうふうに症状が表れるかが、その患者さんの特徴で、同じ症状を出す作用をもったレメディ(似た者同士)を服用します。症状を出し切るようにするのです。体がレメディに反応して一時的ですが症状が悪化することもあります(好転反応)。悪化しない人もいます。この時期を経て、健康になって生命エネルギーが再び調和されるのです」

レメディで、猫の宣告余命が伸びた

カローラさんの患者は、男性よりも女性が多い。男性は女性よりもホメオパシーの効果を信じない傾向だと聞くが、カローラさんの場合も、それが表れているのだろう。

「ホメオパシーはその効果が科学的に証明されていないと思われがちですが、実は一部はすでに立証されているんですよ。服用する人が信じても信じなくても、また、療法士が治ってほしいという感情を抱かなくても、レメディの効果はあります。その人にぴったりと合ったレメディを服用していれば、効果はそういった感情には左右されません」

カローラさんがそう話す理由のひとつに、レメディは、人間だけでなく動物にも効く点がある。実際、カローラさんは癌にかかった猫にレメディを与え、余命半年と告げられた猫が何年も長生きしたという経験があるのだそう。動物は、ごく少量を口に入れるレメディを薬だと認識していない。しかも、病気が治ってほしいという思いも抱いていない。それでも、こうしてハッキリとよい効果が見える。科学とか、プラシーボ効果(薬効成分のない偽薬を飲んで、症状が良好になること)とかいった見方では判断できない効能を信じ、ホメオパシーを推進する気持ちも当然なのだろう。

ホメオパシーは多数の病気を治すことができると言われるものの万能ではない。西洋医学の薬も100%治せる保証がないのと同じだ。西洋医学の薬とレメディは併用することができる。

将来のことは決めず、自由でいたい

ホメオパスというと、ヨーロッパではホメオパシーに専念する人が多い。その意味では、カローラさんは少し異色だ。並行してリフレクソロジーも提供しているからだ。

「ホメオパシーは自己治癒力とつながっています。リフレクソロジーは頭痛とか関節の痛みとか手術の跡とか、患者さんの体に触れて治していきます。人の体に触れて反応を直接感じることができる、私が回復させてあげられるという点が気に入っています。ホメオパシーだけでなく、リフレクソロジーも同時にという患者さんもいます」

そしてもう1つ、カローラさんは運動のインストラクターという顔も持っている。現在教えているのは、ピラティス、パワーピラティス、プランク(体幹トレーニング)、健康体操(有酸素運動)で、毎週、隔週、月1回など頻度はさまざま。 合間を縫って趣味で週2回ダンス教室に通っているからエネルギッシュだ。

「日ごろの運動は私にとっては必須です。教えるのは、みんなが元気になったり上達したりして喜んでくれるからです。喜んでもらうと、私も嬉しくなります」

さて、彼女の今後の展望は?「もしかしたら、ホメオパシーよりもリフレクソロジーのほうに重点を移すかもしれません。いつでも、その瞬間を生きるのが私らしい生き方です。いま、自分が嬉しいと思うことをする、そうやって、経験が積み重なっていく。その経験から新しいことをしたいと思うかもしれない。それをやりたければ、自分の思いに従います」

カローラさんは、フリーランスという働き方をまさに謳歌している。

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ある一日のスケジュール

07:00 起床。シャワーを浴び、身支度を整えて、朝食。猫に餌をやる。
09:00 自転車で、近所で開いている自分の健康体操教室へ。2クラスを教える。片づけ。
11:50 自宅に戻ってランチ。片づけ、郵便物のチェック、猫と遊ぶ。
13:30 車で隣町の小さいクリニックWell-Fitに行き、リフレクソロジーの予約をこなす(診察室を賃貸) 。急性副鼻腔炎にかかって、緊急にレメディが必要になった患者と電話で話す。
16:00 自宅近くのスタジオに行き、健康体操を教える(雇用契約)。
17:45 Well-Fitに戻り、ピラティスと体幹トレーニングのプランクを教える(雇用契約)。
20:40 Well-Fit内の掃除をして、帰宅。
21:10 夕食、猫と遊ぶ、読書、パートナーと電話など、就寝まで自由に過ごす。

ピンチもこれがあればOK! 私の最終兵器はコレ

201701_int_7.JPG猫が大好きで飼ってきました。残念ながら事故や寿命で死んでしまった猫たちもいました。いまはリリー(Lilly)を飼っています。猫ですから、家の外に行くのは、もちろんリリーの自由ですが、いつも一緒です。観察するのは面白くて、遊ぶのも楽しいです。猫は旅行には連れていかないので、お世話をする人を必ず見つけて、「行ってくるね、帰りを待っていてね、リリー!」と言って出かけています。ちなみに、リリーが病気になると、いつもレメディを与えて治しています。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

カウンセリングは1回で済みますか?料金は?
最初のカウンセリング後にレメディを処方して、2週間後にもう一度カウンセリングをします。2度目は電話にするか面談にするかは、患者さんに合わせます。私の場合は、診察料は1時間約1万6500円にしています。健康保険が適用されます。
ホメオパシーの研修は毎年あるのですか?
1年に最低20時間の研修が必須です。スイスでなくてもよいので、ときどきドイツで受けています。
2015年から月1回ニュースレターをメール配信。始めた理由は?
書くことって楽しいと気がついたんです。それで、私のセミナーのことや専門知識を広く伝えるにはニュースレターが一番だと考えました。旅やハイキングの情報、料理やお菓子のレシピなども入れています。読んでくださっている方たちはすごく面白いと言ってくれて、とても好評です。
健康維持のため、ほかに家で実践していることは?

ハワイ式の癒し(ホ・オポノポノ)が気に入っています。こんなふうにやります。
①今日あった、良いことすべてを思い出し、自分自身に感謝する
②今日、自分自身に無理をさせたことを思い出し、それに対して謝り、許しを乞う
③あなたは最高に大切な人です、愛していますと、自分にむかってとなえる

たくさんのことに興味がおありですが、今後やってみたいことは?
以前はコーラスにも入っていました。いまは夕方から夜に仕事がたくさんあるので、まとまった時間がそれほど取れません。いつか、私の好きな先生がダンスの集中ワークショップを開いたら、絶対行こうと思っています。

カローラさん発行ニュースレターには情報が一杯! こんなレシピも

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左)「ラズベリーティラミス」

フィンガービスケットを型に敷き、ミントシロップをしみこませる。ラズベリーを置く。マスカルポーネ、低脂肪クワルク(フレッシュチーズの一種)、ナチュラルヨーグルト、砂糖をミキサーで混ぜてラズベリーにたっぷりとかける。花や色付き砂糖でデコレーション。

右)「パパイヤとアボカド入りチコリのサラダ」

パパイヤ、アボカド、チコリをすべて食べやすく切り、果物風味のバルサミコ酢、油、塩コショウとナチュラルヨーグルトで混ぜ合わせるだけ。

岩澤里美

Writer 岩澤里美

スイス在住ジャーナリスト。東京で雑誌の編集者を経てイギリス留学、2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。興味のおもむくままヨーロッパ各地を取材し日本のメディアに執筆中。社会現象の分野やインタビュー記事が得意。NPO法人Global Press(在外ジャーナリスト協会)理事として、フリーの女性ジャーナリストたちをサポート。息子は、私の背丈を超えるまでに成長。
http://www.satomi-iwasawa.com/

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