Vol.112 ライター 阿部裕子さん「12年のブランクを経てフリーランスライターの道へ。熱意と行動力で、ゼロから仕事を開拓する」

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Profile

ライター 阿部裕子さん

業界新聞社で2年半記者として勤務、その後育児・出産で仕事をいったん離れたものの、2013年にフリーランスライターとして仕事開始。教育・美容・芸能・アウトドア・日本文化など幅広いジャンルのwebサイトで執筆。そのほか、朝カフェや写真展などのイベントなどを企画・開催。

ピン!と来たら、まずは動いてみる。偶然の出会いをチャンスにつなげる

「フリーランスライター」というと、みなさんはどのようなイメージがあるだろうか。取材の日、待ち合わせ場所に現れた阿部裕子さんは、しっとりとした着物姿だった。日頃から日本文化に関心が高く、「Japaaan」という日本文化に関する情報サイトでも記事を執筆、週に1度は着物で外出をしているという。しかし、その優雅な姿からは想像もつかぬほどのバイタリティの持ち主である。12年間のブランクがありながらも、ゼロから自分の手で取引先を開拓し、ライターの仕事を手にしてきたのだ。今回は、そんな阿部さんの行動力と、仕事の増やし方に迫ってみたいと思う。

フリーランスライターとしての活動をはじめる前は、実に12年の専業主婦時代があったという阿部さん。「大学卒業後は、業界新聞社の記者をしていましたが、育児に専念するため、24歳の時に退職しました」。もともと書くことは好きだったが、新聞記者になったのは、就職した会社の編集長との出会いがきっかけだったと言う。「知人に登山に誘われ、その知人の会社の編集長も一緒だったのですが、その方の人柄に惹かれ、登山しながら仕事のお話などを伺ううちに、この方のもとで働きたい!と思って、山から帰った翌日ぐらいに、編集長の自宅に電話をかけました」。

当時まだ大学生だったことを考えると、相当な勇気が必要だったのではないだろうか。そんな思いで手にした職場を離れるのは、さぞかし悔しかったのではないかと思いきや、「私の母が専業主婦だったので、子どもが小さいうちは、育児に専念するイメージを描いていました。なので、辞めること自体には迷いはありませんでした。でも、ずっと専業主婦を続けるのではなく、30代後半からまたライターの仕事をするということは、この時から心に決めていました」。

その言葉通り、仕事から離れている間は準備期間と捉え、30代後半の再スタートを意識して過ごしていたという。偶然本屋さんで見かけた子連れガイドブックを作っている団体に自ら問い合わせ・入会したり、校正のアルバイトをしたり、年間1000冊本を読み文字をインプットするなど、アクティブな専業主婦時代を過ごした。

被災地の子どもたちの記事が刺激に。フリーペーパーを自主制作

そんな阿部さんが仕事再開に向けて大きく動き出すことになったのは、新聞社を辞めてから12年後の37歳の時だった。

「もともと下の子どもが小学2年生になったら、仕事をはじめたいという気持ちはあったんです。それで気持ちを仕事モードに切り替えていく中で、偶然新聞で東日本大震災の被災地の子どもたちの記事を読んで。この子どもたちのために自分が今すぐできることはないかも知れないけれど、もっと身近で、何か自分にもできることはないかと考えたんです。そして、子育てを頑張っているママたちがひと息つけるような、住んでいる街について知ってもらえるような、そんな地域のフリーペーパーを作ろうと思い立ちました」

元々子連れガイドブックを作る非営利団体に入っていたが、今度は子どもがもう少し成長し、自分の時間が持てるようになったママを応援できるようなものを作りたい。そんな思いで、自主制作のフリーペーパー「ALIVE」の第一号を完成させた。

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自主制作のフリーペーパー「ALIVE」。ライターの仕事の傍ら、年に2~4回発行し続けている。

ところで、ブログやSNSなど、インターネットで情報を発信できる時代に、なぜアナログなフリーペーパーだったのだろうか。

「フリーペーパーは、直接手渡すことができるので、相手の顔が見え、ぬくもりが感じられるのがいいなと思って。そんなアナログなコミュニケーションを大事にしたいと思いました」

こうしてはじめたフリーペーパー「ALIVE」は、その後、非営利団体でのガイドブック制作のリーダー抜擢や、ライターとしての最初の仕事に繋がった。

「近隣の地域で配布していたフリーペーパーのバックナンバーがほしくて問い合わせをした際に、私も一人でフリーペーパー制作していることをお伝えしたら、興味を持ってくださいました」

こうしてご縁ができて、フリーランスのライターとしてのキャリアがスタートした。

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フリーペーパー「ALIVE」1周年記念パーティー。"結婚式のようなあたたかみのあるパーティー"をコンセプトに、30人近くのゲストとアットホームなひとときを過ごした。

直接会って、信頼関係を築きたいから。自らの手で取引先を開拓

フリーランスという雇われない働き方は、働く時間、内容を自分で選択できる一方で、コンスタントに仕事を獲得し、稼ぎ続ける難しさを感じている人もいるだろう。そこで、12年のブランクがあった阿部さんが、その後どうやって仕事を得てきたのかをお聞きしてみた。

「例えば、インターネットで"ライター""取材"など気になるキーワードを入れて、出てきた編集プロダクションなどを片っ端からチェックし、これだ!と思ったところにどんどん応募しました」

フリーランスのとっかかりとしてクラウドソーシングからスタートさせる人もいるが、阿部さんは利用したことがないと言う。「仕事をご一緒させていただく方とは、できるだけ直接お会いして、お互いにどういう人か知ることが大事だと思っています。10回メールをするよりも、1回でも直接会うほうが私はいいなと思うので」。実に、人とのつながりを大切にする、阿部さんらしい考え方だ。

「やりたいこと」だけでなく「できること」も視野に入れて仕事を増やす

フリーランスライターとして走り出した阿部さんに最初の転機が訪れたのは、仕事を再開し半年を過ぎた頃だった。

「仕事には"自分がやりたい仕事"と"自分ができる仕事"の2種類があると思うんです。仕事を再開したばかりの頃は、自分が"やりたい仕事"ばかりを選んでやっていたんですが、これでいいのか?と自問自答し、「できること」もどんどんやりながら「やりたいこと」も増やしていこうと思うようになりました」

そこで阿部さんは、自分でパソコンとスーツを購入し、よりフリーランスとして安定性を求め、これまで選んでこなかった"できる仕事"も視野に入れて応募をはじめたと言う。

こうして仕事量が増えていき、フリーランスとして活動をはじめたおよそ1年後には、多い時ではひと月に10万字を書いていたとか。しかし、「当時はまだスケジュール管理が甘く、最初に10万字書いた時は、これまでの中で、一番のピンチでしたね。仕事が終わらなくて、日付が変わる(締切を迎える)直前まで書いたことも、一度ありました。さすがにこれではダメだと思い、それ以降は余裕を持ったスケジュールを組むようにしています」。

できるかできないかではなく、やるかやらないかが大事

その後は、年間でどれくらい稼ぎたいかという目標をおおまかに設定するとともに、文章量で稼ぐのではなく、単価を上げていくことも意識しだしたという。「だから今は、当時に比べると文章量は減っていますが、文章量が減って時間が空いた分は、また別の仕事を探したり、インプットする時間に充てるよう心がけています」。

そんな阿部さんは4年目の今、また新たなステージに向かって動いているようだ。「今後は、日本文化に関する執筆など自分の関心のあるテーマに関する仕事を増やしていきたいと考えています」。現在も日本文化の記事を担当しているが、より深めるため、認定試験に向けて勉強をするなど常に挑戦をしている。また、この日も着物姿を披露してくれたが、普段から週に1度は着物で出かけることで、「日本文化と言えば阿部さんというイメージがつけば」とにこやかに笑う。自分のやりたいことに向けて着々と準備し、進んでいく姿はぜひ見習いたい。

最後に、これからフリーランスを目指す方へのメッセージを伺った。

「できるかできないかを考えるのではなく、やるかやらないかが大事だと思います。やってみれば、必ず何かしら得るものがあるし、何かに繋がると思うんです。年齢や子どもがいること、忙しさを理由にして諦めるのでなく、自分だからできることを考え、それを行動に移すことが大事だと思っています。本当にしたいことがあれば、まずはチャレンジしてみてください」

この言葉に、自分の意思で人生の選択をし、仕事を開拓してきた行動力の原点を見たような気がした。

ある一日のスケジュール

4:30 起床 自分時間(仕事or録画を見たり、帯の練習をしたり)
6:00 家族起床 朝食準備・朝食
7:30 家族が仕事や学校に出かけた後、家事
9:30 仕事場として利用しているコワーキングスペースへ出発
10:00 仕事スタート
15:00 仕事終了 帰りに買い物をして帰宅
16:00 夕飯準備
18:00 夕食
20:00 メールチェックや読書など
21:00 就寝

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための4つの質問

単価はどうやってあげてきましたか?
先方に喜ばれる記事をたくさんかけるよう、まずは記事執筆です。数ヶ月経ってから単価をあげる交渉をしたこともありましたが、企画や記事の本数、記事の面白さなど何か一つでもいいから、これだけは負けないというものがあるか、が大事だと日々思っています。
1年間の売上の目標をクリアするために、具体的にどういうことをされてきましたか?
好奇心のアンテナを広げ、常にいろんなことに目を向けるようにしています。そして、いろんなところに出掛けたり人と会う時間を大切にしています。それが仕事のヒントやモチベーションにも繋がるので。そして、1ヶ月のスパンだけで目標をクリアしたか考えるのでなく、3ヶ月・6ヶ月といったスパンでクリアできれば良し、としています。
ライターの仕事をしていて、最もやりがいを感じたり、よかったと思ったことは何ですか?
インタビューをした方から、「阿部さんの文章には愛がある」と言ってもらえたときは嬉しかったですね。また、日常生活ではなかなか接点を持つことがない方ともお話することができるのがこの仕事のよいところだと思います。
「朝カフェ」を主催されていると聞きました。阿部さん自身が朝時間を有効活用されているところからはじまっているんですか?
はい、朝時間の活用術の本を読んだことがきっかけでした。その著者が主催している朝カフェに参加してみたんです。そうしたら、ビジネスマンを始め日頃接することのない職業の方とお話するのがとても新鮮でした。2、3回その朝カフェに参加してみて、同じようなことが地元でもできればまた人と人のつながりができるなと思って、自分でも主催するようになりました。今は1年に数回開催しています。

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朝カフェの様子

釘宮 優子

Writer 釘宮 優子

広告制作会社でのコピーライター職を経て、ベンチャーキャピタル、金融専門研修会社など金融業界に約8年勤務した後、2016年よりフリーランスの編集者・ライターに。得意分野は「マネー」&フリーランスをはじめとする「働き方」関連。AFP(日本FP協会認定)。プライベートでは10歳年下の夫を持つことから、婚活業界にも興味津々。

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