Vol.116 岩本順子さん 翻訳・通訳者、ライター、ワイン講師「専門に拘らないことで、新しい視点を得る」

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岩本順子さん

1960年神戸生まれ。南山大学独文学科卒業後、神戸のタウン誌の編集に3年弱従事して1984年渡独。ハンブルク大学で美術史を学ぶ。その後、日本の漫画作品の独語訳、日本の漫画雑誌編集部のドイツ支局を経て、90年代終わりから執筆開始。ワインへの興味が高じてドイツの醸造所やブラジルのワイン雑誌編集部で研修した。2013年にワインの国際資格WSETDiploma取得、2014年にワインアカデミー・オーストリア卒業、日本人として初めてワインアカデミカーのタイトルを取得。ブラジル人の夫と二人暮らし。 著書に『ドイツワイン 偉大なる造り手たちの肖像』(新宿書房 2005年刊)など

岩本順子さんのサイト
http://www.junkoiwamoto.com

ハンブルクで独日の翻訳・通訳を主に手がけながら、ドイツの日本語媒体や日本の専門誌などに記事を執筆し、ドイツ在住の日本人を対象にワインセミナーやワインツアーも定期的に開催している岩本順子さん。フリーランス歴18年。あえて専門性をひとつに拘らないスタイルについて詳しくお話を伺った。

ドイツ語をもっと話せるようになりたくて留学

岩本さんは国際色豊かな神戸育ち。高校生のとき、家にドイツ人がホームステイしたことでドイツへの関心が芽生え、大学では独文学を専攻。大学3年生のときには、ハンブルク近郊に2か月間滞在した経験を持つ。卒業後Uターンをして神戸でタウン誌の編集をしていたとき、たびたびドイツ人への取材を任されたが、独文科を卒業してもドイツ語が流暢に話せないことへのもどかしさがあり、24歳のとき、1年の予定で語学留学することに。ハンブルク大学美術史科の修士課程に学籍を得て、留学を延長するためにアルバイトを探そうと日本貿易振興会(JETRO)を訪ねると、見本市課のアシスタントに採用された。やがて仕事は、複数の部署の翻訳、通訳、調査に及ぶようになり、4年間アルバイトを続けた。

「勉強の方は、市の工芸美術館東洋部での学芸員の実習をやり始めていました。でも、自分が何をしたいのか、まだよくわからなかったというのが本音です。その頃、ハンブルクで講談社の社員の方の通訳をしたことが縁で、1年だけ日本に帰り、契約スタッフとして働くことになりました」

終了してハンブルクに戻ると、次の仕事も自然に飛び込んできた。講談社が大友克洋氏の漫画作品『アキラ』をドイツの出版社から出版することになり、翻訳を担当することになったのだ。その後、『ドラゴンボール』などの漫画作品の翻訳も担当。さらに、講談社の漫画雑誌『モーニング』編集部からドイツ支局の運営を任され、支局が閉鎖されるまでの約8年間、実務翻訳や通訳をしながら並行してドイツ圏のコミック作家を発掘する仕事も行った。

漫画翻訳は面白かったが、共同作業で報酬折半だったため、相当量をこなさなければ生活ができなかった。そこで、1人でできるビジネスや技術系の翻訳・通訳へと徐々にシフトさせていく。個人事務所を構えてフリーランス生活を始めたのは39歳のときだった。

ワインへの興味も偶然から

岩本さんのもう一つの顔となるワインとの出会いは、ドイツ在住者向けの日本語のフリーペーパーに、ドイツワインについて記事を書き始めたことがきっかけだった。自宅の前にある大きなワインショップに通ううち、ワイン造りの現場を知りたい!と思うようになり、支局をたたんだ頃に知り合った醸造所で思い切って1年間実習させてもらうことに。2週間はハンブルク、2週間は片道7時間離れた醸造所という生活を毎月送り、体験記を出版した。

フリーランスになって約10年後、「ドイツワインだけでなく、世界のワインについても知りたい」と思い、オーストリアワインアカデミーという専門学校に入学。仕事をしながら4年間学び、ワインの国際資格(WSETDiploma)とワインアカデミカーのタイトル(ドイツ語圏内のワイン最上級資格)を取得してからは、ワイン業界のプレスツアーやイベントに参加する機会も増え、ワイン講習、ワインツアー企画の依頼も来るようになった。

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ブラジルで開催される国内ワインコンテストでの審査風景

「ワインについて学んで本当によかったと思います。毎年異なる自然条件を受け入れ、ワイン造りを行う現場を体験し、自然とともに生きることの大変さを知り、ワインという1つのジャンルを専門的に学ぶことを通じて、知識を深めることの面白さを知りました」

現在、岩本さんは57歳。ドイツ連邦通訳・翻訳家協会(BDÜ)の会員であるほか、ドイツと日本の複数の翻訳会社や旅行代理店にも登録して仕事を得ている。ワインマーケティング機関や、漫画関連のプロジェクトから、直接翻訳・通訳依頼が来ることもある。記事執筆ではワイン関連の依頼が多いが、ワイン以外のテーマの依頼も断らない。

ワイン専門の翻訳者やライターになろうとしなかったのは、なぜだろうか。

「それだけでは生活が成り立たないからです。でも、ワイン以外の分野から、思いがけない視点が得られることが面白く、バランスもちょうど良いんです。まだまだ勉強したいこと、やりたいことがたくさんあります。年齢と経験を重ねることでできるようになる仕事もあるはずなので、それを見極めていこうと思います。そして、人との出会いを何よりも大切にしてきたいですね」

岩本さんのお仕事道具を拝見!

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ノートパソコン、カメラ、レコーダー、スケジュール用の手帳、 アドレス帳、取材手帳、スマートフォン。 パソコン&スマホ内のデータ以外に、手書きのアドレス帳を作っています。筆記用具はシャープペンと消しゴムです。

ある一日のスケジュール

07:00 起床。コーヒーを飲んで目覚める。朝ごはんは、ブラジル風に果物がメイン。 朝市が開かれる日は、食材を買いに行く。
09:00 パソコンに向かって仕事。 翻訳か、執筆か、リサーチか、何をするかは締め切りに合わせる。 ヨガ教室(週1回)がある日は、スタジオへ行き、リフレッシュのひとときを過ごす。
13:00 ランチ。家で食べたり、友人と外食したりすることもある。
14:00 パソコンに向かって再び仕事。
18:00 港か公園にウォーキングに出かける。
19:00 夕食の準備。夫が帰宅してから一緒に食事。
20:30 自由に過ごすが、急ぎの仕事があるときはパソコンに向かう。 週1回ずつブラジリアンコーラスとラテンダンスの練習。友人に招かれたり、招いたりも多い。
24:00 就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

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3年前から熱中しているブラジリアンコーラス「コルコヴァード」の活動です! ボサノヴァ、サンバ、MPB(ブラジリアン・ポップス)、ブラジリアン・クラシックなど幅広いレパートリーを歌っています。毎年自主企画コンサートを行うほか、さまざまなフェスティバルやチャリティコンサートに参加しています。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための3つの質問

質問1 ドイツでのフリーランスの状況は?
仕事がコンスタントに来ることはなく、集中する時期とそうでない時期があります。仕事が少ない時期は、悩んだりせず、忙しいときにできないことに取り組んでいます。 実は先月まで2年契約で、ドイツの国立美術館の仕事に従事していました。久しぶりに会社のスタッフの一員として働くのは新鮮な毎日でした。いろいろな形態の仕事があると思うので、私自身はフリーランスに固執していません。
質問2 「年齢を重ねるとともに仕事が先細りになるかも」という不安はありますか?
フリーランスになったときから将来に対する不安はずっと抱えています。でも、醸造所で身体を使って働くことの苦労と喜びを知り、貧富の差が激しく何かと不便なブラジルでは、人生において大切なものはお金で買えないことを学びました。日々を大切に、前向きに進んでいけば、きっと大丈夫と思っています。
質問3 長年のフリーランス経験から、後輩にアドバイスを
どこから、どんな仕事が入って来るかわからないので、常にオープンな気持ちで取り組んでいけば、ステップアップにつながると思います。仕事以外に熱中できることがあれば、あらゆる危機を乗り越えやすいように思います。 1年くらい仕事がなくても暮らせるだけの蓄えがあれば、 思いがけない転機が訪れても大丈夫だと思います。
岩澤里美

Writer 岩澤里美

スイス在住ジャーナリスト。東京で雑誌の編集者を経てイギリス留学、2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。興味のおもむくままヨーロッパ各地を取材し日本のメディアに執筆中。社会現象の分野やインタビュー記事が得意。NPO法人Global Press(在外ジャーナリスト協会)理事として、フリーの女性ジャーナリストたちをサポート。息子は、私の背丈を超えるまでに成長。
http://www.satomi-iwasawa.com/

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