Vol.117 サトウアサミさん「自分の絵を生地に。テキスタイルへの想いを持ち続け、ブランド化を実現」

201712_sato_1.jpg

Profile

サトウアサミさん

1977年生まれ。札幌出身。1997年より活動を始め、2007年よりサトウアサミデザイン事務所として、店舗やパブリックスペースでのアートワーク、プロダクト、パッケージ、エディトリアルなど幅広く手がける。2011年、北海道札幌から東京へと拠点を移す。2015年、テキスタイルブランド「ASENDADA(アセンダダ)」を設立。

株式会社アセンダダ:
http://asendada.com
サトウアサミデザイン事務所:http://satoasami.com

はじまりは"2足のわらじ"から。ひとつの仕事が、口づてで次の仕事に繋がってきた

何の変哲もない空間も、お気に入りの家具や絵がひとつあるだけで、急に居心地のよい特別な場になったという経験をお持ちの人はいないだろうか。この度「RizClutch」でコラボが実現したサトウアサミさんの作品も、まさにそんな不思議な魅力を持つ。

サトウさんは、制作をスタートさせて20年。和紙に墨と絵の具で絵や絵柄を描き、それをデザインに落とし込むまでを得意とするデザイナーだ。現在は、空間アートワーク、プロダクト、エディトリアルなどを個人で手がけるほか、2015年にはテキスタイル部門を法人化。そんなサトウさんが今に至るには、どのような経緯があったのだろうか。

201712_sato_2.jpg

父親は建築デザイナー、母親は現在レジン作家という物作りが身近な環境で育ち、早くから「自分の腕一本で食べていく」という意識があったというサトウさん。

「短大(デザイン科)を卒業したらすぐにこの仕事をすると決めていたので、在学中から個展(当時は木版画)を開くなど、精力的に活動をしていました。初めていただいたお仕事も、個展を見てくれたお客さんからでした」

初めて手掛けたのは、イタリアンレストランのロゴデザインだった。それを見た人から次の仕事を頼まれ、口づてに仕事が舞い込むようになったという。とは言え、最初からフリーランス1本で食べていけたわけではない。短大を出てしばらくは、アルバイトと自分の制作の2足のわらじだった。

「昼間アルバイトをして、夕方から打合せや制作をしていました。当時は、飲食店の壁画を描くなど原画勝負のお仕事が多かったですね。初めてトータルでお店のアートワークを担当させていただいたのもこの時代でした」

201712_sato_3.jpg

サトウさんが手掛けたX HOTEL Sapporo ロビー照明(2008年)

東京での個展をきっかけに、画廊での絵の販売がスタート

地元札幌を拠点に、10年近く制作を続けた頃、サトウさんをフリーランス1本化に導くある出来事が起こる。

「東京の仕事を増やしたいと思って、東京で個展を開いたんです。そうしたら、"絵を販売してみないか"と、ある画廊さんが声をかけてくださって」

これをきっかけに、「サトウアサミ」の絵と名前が一気に全国に広まることとなる。この"画廊での絵の販売"はサトウさんに「自分の絵が売れる」という自信と安心感をもたらすと同時に、これまでなかった心のせめぎあいも経験したと言う。

「当たり前ですが、画廊さんは、"みんなが好き"で"売れる"絵を選びます。それまでの自分は、"みんなが好き"というものは、"当たり障りのないもの"というイメージが強く、それがイヤだという気持ちもありました。でも、"仕事"と考えた時に、こういう展開の仕方もあるんだなという新しい発見になりました」

"世の中のニーズを考えながら描く"ということを経験したサトウさん。絵は売れ続け、その絵を見てくれた人からまた声がかかりと、東京での仕事が急激に増えていった。この波に乗るように、2007年に「サトウアサミデザイン事務所」を開設。その4年後、さらに活動の場を広げるため、33歳で上京することになる。

201712_sato_4.jpg

ずっと生地を作りたかった。テキスタイル会社「アセンダダ」設立

ここまで紆余曲折ありながらも、順調にデザイナーとして実力をつけてきた印象のあるサトウさんだが、実は、やりたくてもなかなか実現できずにいたことがあった。それが「テキスタイル」だ。

「テキスタイルは、ずっとやりたいと思っていて。それこそ制作を始めた当初から、自分の絵を切って、それを包み紙にしてみたりして、"自分の絵を飾るものだけにしたくない"という気持ちが強かったんです」

しかし、シルクスクリーンによるテキスタイル製作は、専門的な技術がいる上、資金的にもひとりでやるには難しい。札幌にいる頃からチャレンジはしていたものの、なかなかうまく行かなかった。それでも「自分の絵を生地にしたい」という想いは強く、上京後は、工房を間借りさせてもらいながら、製版から刷りまですべてをひとりで取り組んでいたという。

「自分でやると、ほんのちょっとの面積しかできないんです。私は反物を作りたいのに」

なかなか思い通りにいかない悔しさ。そんなサトウさんに、思いもかけぬ声がかかった。「私の熱意と作品をずっと見続けてきてくれた知り合いの会社の社長さんが、きちんとブランド化しようと声をかけてくださったんです」。

こうして2015年、サトウさんのデザインワークの中でも、テキスタイルデザインに特化した会社「株式会社アセンダダ」が誕生した。

201712_sato_5.jpg

とにかくやり続けることが大事

会社設立後は、絵やデザインの仕事は個人で受けつつ、テキスタイル部分の仕事はアセンダダとして受けている。「今はグラデーションの時期。将来的には、アセンダダを軸にしていければ」と語るサトウさん。

20年近くも「自分の絵で生地を作りたい」という想いを持ち続け、ひとりではどうにもならない悔しさを感じながらも行動を続けてきた結果、念願のテキスタイル制作を存分にできる環境を実現させた。

「やっぱり続けることが大事だと思います。とにかくしつこくやり続けること。そうすればきっと、いつか実現できる日がくるはず」

強い意志を持ち、動き、実現してきたサトウさん。「想い、動くこと」の重要さを、改めて教えてもらった気がする。

ある1日のスケジュール

6:30
起床→朝食を作る
7:30
掃除など
9:00
メールチェック、前日にやり残した仕事などをこなす
12:00
昼食(録画をみながら)
13:30
打合せ等、外出仕事
16:00
帰宅後、墨と絵の具を広げて制作開始
18:00
制作終了(残業がある時は、20:00くらいまで制作をする日も)
19:30
夕食
22:30
就寝

ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

201712_asamisato_5.jpg飼っている4匹の猫たちです。別に癒やされたいわけではなく、対等な関係だと思っているのですが(笑)、やっぱりいてくれると話し相手にもなるのですごく助かってますね。札幌にいたときにも猫がいる生活だったのですが、まさか東京でも猫と暮らせるとは思っていなかったので、猫を飼いながらちゃんと生活できているということが、自分の中の自信にもつながっているような気がします。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための5つの質問

質問1 2足のわらじ時代は、どのようなアルバイトをされていたんですか?
最初は、図面の青焼き屋さんで働いていました。そこではさまざまな紙の知識を得たり、途中から社員になって営業を担当していたので、どんな現場にもすっと入っていける度胸がつきましたね。その後は、デザイン事務所でチラシを作る仕事をしていました。ここでDTPについて学んだことで、自分の仕事にもパソコンを取り入れるようになりました。HP制作を学んだのもこの時期でしたし、今思えば、アルバイトの経験も、自分の仕事に生かされているように思います。
質問2 東京に拠点を移して、どのような変化がありましたか?
ちょっとした打合せなどにすぐに行ける、すぐ対応できるといった仕事のやりやすさはありますね。あと、歩いているだけでも、ちょっとした風景に札幌では味わえなかった面白さがあったりして。そういうのを見ると、札幌を離れて東京で仕事をしているんだなぁということを実感します。
質問3 すごく規則正しい生活をされていますよね。
これまでの経験で、徹夜はすごく効率が悪いということがわかったので、遅くまではやらないです。特に時間管理を徹底しているわけではありませんが、自宅兼事務所ということもあり、なるべく普通の時間で切り上げることを心がけています。本当はもっとやりたい気持ちもありますが、それをするとダラダラ続けちゃうので、今日はここまで、と決めてきっぱり片付けます。ただ、頭の中ではずっと仕事のことを考えています
質問4 これまで印象的だったお仕事を教えてください。
ひとつは、佐久間裕美子さんの『ピンヒールははかない』(幻冬舎)の装画です。本と自分のイラストが「ピタッときた」ことを実感できた印象深いお仕事でした。これまで「人」は描いてこなかったのですが、これは珍しく気に入っています。それからもうひとつは、北海道の「層雲峡温泉 層雲峡 朝陽亭の壁面用の絵のお仕事です。描いている最中は、「ちょっと日本っぽいかな」と心配もあったのですが、できてみると、モダンな雰囲気に絵がビシっとはまり、すごくよかったですね。

201712_sato_6.jpg
質問5 サトウさんが考える「フリーランスで生きていくために、大切な3つのこと」を教えてください。
ひとつめは「強すぎないガッツ」です。フリーランスは一人だから、自分が動かないと始まりません。二つ目は「細かいことは気にしすぎない」。考えるのもひとりの頭だから、あんまり細かいことまで気にしすぎると、前に進まないような気がします。そして三つ目は「いろんなことにアンテナを張ること」。これもひとりだから、常にアンテナを張っていないと、世間から置いてけぼりになっちゃいます。
釘宮 優子

Writer 釘宮 優子

広告制作会社でのコピーライター職を経て、ベンチャーキャピタル、金融専門研修会社など金融業界に約8年勤務した後、2016年よりフリーランスの編集者・ライターに。得意分野は「マネー」&フリーランスをはじめとする「働き方」関連。AFP(日本FP協会認定)。プライベートでは10歳年下の夫を持つことから、婚活業界にも興味津々。

釘宮 優子さんの記事一覧はこちら

Photographer ジェニー 鈴木

台湾出身。日本大学芸術学部写真学科卒。現在、東京を拠点に活動するフリーランス。インテリア、料理、ファッションなどのジャンルを中心に、雑誌や広告、WEB、書籍など幅広い媒体で活動しており。一児の母でもある。2017年5月、家族写真館Day by Day Studio&Spaceをオープン。
http://www.jannysuzuki.jp/
http://www.daybydaystudio.jp/