Vol.120 阿部由希奈さん「会社人事、web制作ディレクター、流しのカレー屋の3つの顔を持つトリプルワーカー」

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Profile

阿部由希奈さん

1984年生まれ、大阪府出身。会社員時代から女性の働き方に関心を持ち、保育所開設支援、人事・広報などの仕事に携わった後、2016年2月より、フリーランスで「会社人事」「web制作ディレクター」「流しのカレー屋」の3つの仕事を持つトリプルワーカーに。 "流しのカレー屋"として全国各地の飲食店に招かれるほか、2018年7月、自身のカレー研究の拠点となる「kitchen and CURRY」を開設。週に2日ほど"キッチン開放日"を設け、一般客にもカレーを提供している。

HP:http://www.andcurry.com/
Facebookhttps://www.facebook.com/andcurry/
twitter@yukinaa
instagram@yukinaa.m

阿部由希奈さんは、ひとつの店にとらわれることなく、声がかかる度に全国各地に出向きカレーを提供する"流しのカレー屋"だ。2017年には、雑誌「dancyu」、関西テレビ「セブンルール」への出演も果たした、カレー界の若手ホープである。

そんな阿部さんだが、実は、「カレー屋」だけを生業としているわけではない。フリーランスで「会社人事」「web制作ディレクター」の仕事もこなすトリプルワーカーなのだ。一週間のうち2日を「会社人事」、2日を「流しのカレー屋」、その他の時間すべてをweb制作とカレー研究に費やす。休みなしの超多忙な毎日の中、阿部さんはなぜ "複業"を続けるのだろうか。

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「バターナッツカボチャのココナッツカレー」と「みそキーマ」のプレート。メニューは、固定ではなく、その日の野菜の入荷状況などを見ながら決めているという。「食べてくれた人に、何かひとつでも新しい発見をしてほしいという気持ちで作っています」(阿部さん)

思いがけず時間ができたことから、カレーの道へ

社会人になってからずっと忙しい職場で馬車馬のように働いていたという阿部さん。「このままでは倒れてしまう...」という危機感を持ったことから転職したものの、今度は逆に、仕事が終わった後の時間を持て余してしまったという。そんな時、友達との何気ない会話の中からはじまったのが、Facebookページ「and Curry」だ。

「Facebookページでは、女性におすすめのおしゃれなカレー屋さんを紹介したり、私が実際にスパイスからカレーを作ってみた話などをアップしていました。それを続けるうちに、私のページを見た行きつけのたこ焼き屋さんが、"そんなにカレーが好きなら、店でカレーを出してみないか"と声をかけてくれたんです。それで会社員をしながら、月に1回、たこ焼き屋さんを間借りするかたちで、"流しのカレー屋"をスタートさせることになりました」

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いざフリーランスに。でも、理由は「カレー」ではなく「働き方」

月1回の流しのカレー屋をはじめて半年が過ぎた頃、阿部さんは会社を辞める決断を下す。カレーに専念するのかと思いきや、意外にも理由は別のところにあった。

「知り合いの社長が、『人事担当』としてフリーランスで働いてみないかと声をかけてくださったんです。それまでもずっと、ひとつの場所にとらわれない自由な働き方に興味を持っていたので、これを機にチャレンジしてみようと。同じタイミングで、これまでの経験と縁を生かした『web制作ディレクター』の仕事ももらえることになり、この2つを主軸にフリーランス生活をはじめることになりました。カレーは、月1回の流しは続けていましたが、あくまで"プラスアルファ"という感覚で、カレー1本でやっていきたいという気持ちは元々ありませんでした」

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カレーが雑誌やテレビで取り上げられ、思いがけず人気者に

ところが、阿部さんの意に反して、「流しのカレー屋」としてのボリュームがどんどん増えていく。

大きな転機となったのは、2017年1月から4月末まで、下北沢にあるカレー屋さんで、週に3日"日替わりシェフ"を務めたことだ。この時の様子が雑誌「dancyu」に取り上げられ、それをきっかけに、関西テレビ「セブンルール」へ出演。"流しのカレー屋"として人気に火がつき、全国各地の飲食店から続々と声をかけられるようになった。

201811_abe_05.jpgさらに、この頃から、流しで行った先のお客さんから"固定の場所を持ってほしい"という要望をもらうことが増えてきたという。阿部さん自身も、自宅のキッチンで試作をすることに手狭感を覚えるようになっていた。

そんなタイミングで、知人から物件紹介の声がかかり、2018年7月に、カレー研究の拠点となるキッチン『kitchen and CURRY』をオープン。週に2日だけキッチンを開放し、日頃の研究の成果(カレー)を提供するように。これまで、イベントでしか食べることができなかった阿部さんのカレーを食べられるということで、ご近所の方はもちろん、毎回、多くのカレーファンで賑わうという。

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キッチンの外観。週2日の"キッチン開放日"には行列を防ぐため、オープン前に記帳台を出し、待ち時間を最小限におさえる工夫をしている。

あくまで目的は、カレーの魅力を伝え、食べることの楽しさを知ってもらうこと

すっかり「流しのカレー屋」として人気者となった阿部さんだが、今後も、トリプルワーカーを辞める予定はないという。

「もともと私は、カレーのお店を開きたくてカレーを作り始めたわけではありません。原点は、どんな食材とも合わせられる"自由な食べ物"であるカレーの魅力を伝えることで、食べることの楽しさを知ってもらいたいということ。それがもし、100%カレー屋になってしまったら、"カレーで稼ぐこと"が優先され、私の性格上、本来の目的を見失ってしまうような気がするんです。私は今、人事とwebの仕事で基盤をしっかりと築いているからこそ、カレーを心から楽しめているような気がします」

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3つの仕事が絡み合い、自分にしかできない価値を生み出す

さらに、3つの仕事を続けることで、それぞれ相乗効果をもたらし、"阿部さんにしかできない仕事"としての価値を生んでいるという。

「会社員時代からずっと、女性の働き方について関心を持ってきました。かつて保育所開設支援の仕事をしていましたが、それも、働くお母さん方の環境を少しでもよくしたいと思って取り組んできたことですし、今も、場所にとらわれない働き方があるということを、日本にもっと浸透させたいという気持ちがあります。私は今、"流しのカレー屋"という働き方を通して、私自身がそれを具現化しているという意識がすごくあるんです。

また、人事の仕事をしていても、3つの仕事を持っているからこそ社員に話せることがあり、ありがたいことに、会社もそこに価値を見出してくださっています。これは、ひとつの会社でずっと人事だけをやってきた人にはできない、複業をしている私だからできることだと思っています」

201811_abe_08.jpgある1週間のスケジュール

Web制作の仕事

人事の仕事(業務委託元の会社に出社し、1日4時間ほど勤務)
→終了後、web制作の仕事

Web制作の仕事 → 夜は翌日のキッチン開放日に向けて、カレーの仕込み。

キッチン開放日(カレー)
人事の仕事(業務委託元の会社に出社し、1日4時間ほど勤務)
→終了後、web制作の仕事
カレーの試作・仕込み。流しのイベントが入れば、イベントへ
キッチン開放日(カレー)。
流しのイベントが入れば、キッチン開放よりも流しを優先。

Q&A - 自分スタイルの働き方を実現するための3つの質問

質問1 複業をしていてよかったこと、大変なことを教えてください。

よかったことは、それぞれの仕事で得た知見を、他の仕事に活かせることです。大変なことは、とにかく時間がないことです。何も考えずぼーっとする時間を取りたいと思っても、休む時間がなく、ずっと仕事のことを考えてしまいます。

質問2 複業をうまく回していくコツを教えてください。

ひとつでいいので、固定で給料が発生する仕事を確保することです。そうすることで、他の仕事が組み合わせやすくなりますし、冒険もしやすくなります。

質問3 好きなことを仕事にするには?

成果がでなくても、ずっと続けることです。私も、カレーで行列ができるまで半年くらいかかりました。日によっては全然人気がなくて、余って持ち帰ったりしたこともありました。でも、続けたからこそ、見てくれる人が増え、応援してくれる人が増えました。試行錯誤しながら続けていくことで、次のステップに進めるのだと思います。

質問4 SNSは、どのように活用していますか?

HP、インスタグラム、ツイッター、Facebookページを持っていますが、SNSとHPを連動させることで、HPにすべての情報が集約されるようにしています。また、SNSはそれぞれ読者層が違いますから、自動連携はさせずに、それぞれ記事の書き方を変えています。ツイッターは、しおたんさん、はあちゅうさん、ゆうこすさんの使い方が参考になりますね。

質問5 これからやってみたいことはなんですか?

子ども向けのカレーワークショップをやってみたいです。かつて保育所を作る仕事をしていた頃、お昼も夜も保育所でご飯を食べる子どもたちを見て、「親子で一緒にご飯を楽しむ」という機会が減ってきているような印象を持ったんです。そこで、カレーを通して、親子で作る楽しさ、食べる楽しさを伝えられないかと考えました。流しのカレー屋のように、ワークショップも一箇所にとらわれることなく、全国を巡りながら開催したいですね。

■ピンチもこれがあればOK!私の最終兵器はコレ

飼っている2匹の猫です。私がどんなに忙しくしていても、猫たちはゆったりとした時間の中を生きています。朝ベッドの上にいた猫たちが、夜帰宅してもベッドの上にいたりするのを見ると「ああ、私の分まで休んでくれてるんだなぁ」と、ほっこりします。

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2匹の猫ちゃんは、キッチンのキャラクターとして、ショップカードなどに登場している。

釘宮 優子

Writer 釘宮 優子

広告制作会社でのコピーライター職を経て、ベンチャーキャピタル、金融専門研修会社など金融業界に約8年勤務した後、2016年よりフリーランスの編集者・ライターに。得意分野は「マネー」&フリーランスをはじめとする「働き方」関連。AFP(日本FP協会認定)。プライベートでは10歳年下の夫を持つことから、婚活業界にも興味津々。

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寫眞家 中村年孝

商業写真撮影を中心に、文化財・歴史資料撮影を手がける。また、映像制作やドローン撮影も行っている。ライフワークとして年齢、性別、国籍など一切問わず100万人を目標に"笑顔"を撮影し続けている作品「Happy Face Photo」を制作。趣味は、ホッキョクグマの観察と撮影。
http://toshitaka-nakamura.com/